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比与森家の因縁  作者: みづは
白銀の狐
42/103

3

行きたくないと言う思いが行動を鈍らせたのか、放課後の見回りを終えたら午後七時を大きく回っていた。


こりゃ明日だな。残念だなぁー。


取りあえず先送りに出来たと気楽に考えていたのだが、下駄箱の前で俺を待ち伏せていた正木にアッサリ捕まってしまう。


「いざ行かん」


いやいや、行かないよ?

森に行けと命令されたけど、俺がそれを聞かなきゃいけない筋合いなんてないんだし。

そもそも、下校時間過ぎるまでお前はどこに隠れていたんだ。

肘を掴まれてグイグイ引っ張られる。まるで連行だ。


「一年生はどうした」

「帰らせたよ。個人的な用事に付き合わせるのも悪いからね」


俺も今まさにお前の個人的な用事に付き合わされようとしているんですけど。

そんな事言っても聞きはしないんだろうなぁ、コイツ。


引きずられるままに歩く俺の周りを花子さんが興味深そうにグルグルと回る。

幽霊だからって調子に乗りやがって。成仏させるぞ、コラ。

そう睨みつけるものの、全く意に介していない。それどころか、俺と正木を交互に指差し、次いで何故だかハートマークを作ったりしてやがる。

それだけはやめて、本当に。

俺にはツンデレイトコと言う心に決めた相手がいるんだ。どうして正木なんかとそういう関係だと思われなけりゃならないんだ……そりゃ、正木は一見すると美形だが、中身がアレでアレだからなぁ。


誰がどう見ても正午の方が正木より可愛い。背は俺よりも頭一つは小さいし、顔だって小さい。それに半比例するかのように目は大きい。態度は素っ気ないが仕草は洗練されている上に可憐だ。惚れた欲目ではない。本当にそうなのだ。


いやいや、ちょっと待て。ふと思考が切り替わる。

これまで俺は正午が好きだと思うだけで、正午がどう思っているか考えた事がなかったかも知れない。あれだけ小綺麗な顔をしているんだ、もしかしたら誰かと付き合ってたりとか告白されたりとかあるのかも知れない。

高一と言えば、色気付くと言うより盛る年頃。しかも、正午は男子校。

あんな小さくて可愛い正午が同じ教室にいて、何とも思わない男なんかいるのか。猫に鰹節、鴨が葱しょって豚に真珠……は違うか。


何にせよ、俺なら放って置かない。どこまでも追い掛け回して隙あらば不埒な事を仕掛けてやる。

分かってる。それがセクハラと呼ばれると言う事は。だけど、まぁ……思うだけなら自由だ。頼むから、俺から妄想まで取り上げないでくれ。

考えようによっては、同じ学校じゃないから俺はストーカーにならずに済んでいるのか。


そう納得したところで、不意に「シロウ」と呼ばれる。

正木の声ではない。と言うか、俺がこの声を聞き間違える筈もない。何しろ、俺の中にいる紫狼が尻尾を振りたくって喜んでいるんだから。


あー、待て待て。

ここで飛びかかったら俺の高校生活が終わるからお願い、待って!


右目が熱くなって、念仏のように待てとお座りを繰り返す。それに観念したのか、紫狼がやっと大人しくなる。

はぁ、よかった。主人に会えた喜びの余り俺の右目ごと紫狼が飛び出すかと思った……やだ、何それ。グロい。

ちょっとホラーな映像を想像してゲンナリしている俺に気付かないのか、正木がクルリと勢いよく振り返る。


「誰だ?」


キョトンとしたように首を傾げるので、紹介してやろうかと思ったが、本人の方が早かった。


「そこにいる林司郎のいとこの比与森正午です」


そう言って可愛らしくお辞儀する。そつのない態度と柔らかな声音。それでいてどこか壁を感じさせる絶妙な笑顔。本性を知る俺から言わせて貰うなら、胡散臭いの一言に尽きる。


「へぇ、林のイトコか……似てないんだな」


俺と正午を見比べて、そう言う。

似て堪るか。

小綺麗な顔をした正午と目つきの悪い俺では、外見から内面までまるで正反対だ。

正午は見た目を裏切るクールっぷりで、俺は見た目からは想像も付かないほどのビビリ。しかも、健全な高校生である俺とは違って、正午は学校には通っているものの、拝み屋の家に生まれ今もそこで暮らし占いで生計を立てている。

俺からしてみたら、自分の親戚だけど怪しいしか言いようがない。

とは言っても、幽霊に取り憑かれてる俺がそれを言って許されるとも思えないので言わないけどさ。


「さっき電話を受けたので駆けつけて来ました」


ニッコリと、笑顔だけど何を考えてるのか分からない、表現のしようのない訳分からん顔のまま正木から俺へと視線を移す。

あ、違った。何考えてるか分からないって言ったけど、こりゃ機嫌悪いわ。


「何でも心霊スポットに行く事になったとか。僕がそういうのに興味あるんで、司郎が誘ってくれたんです」


してないよ。電話したのは昨日だし、しかもガチャ切りされたし。

それに正午を誘うなら、そんな怪しげな所じゃなくて、遊園地とか夜景とかもっとデートに相応しい場所に誘うって。


「ほぅ、林のイトコもオカルト好きか」


正木が感心したような声を上げるけど、違うから。オカルト好きなんじゃなくて、専門家だから、この人。

祖母さんが人を呪い殺した事あるし、本人も式神なんか作れるぐらいだから幽霊とか呼び出せるんだとは思う。でも、たぶん得意分野は逆だ。


言うなれば、正午はゴーストバスター。しかも、自分に関わりのない物はとことん無視する。

だから、正午を連れて心霊スポットに行っても意味がない。無視した挙げ句に邪魔だと思ったら無言で追い払うぐらいはしそうだ。


「なるほど、林の血縁者なら一緒に来て貰った方がいいだろうな」


どうして?

正木の言葉にキョトンと首を傾げる。そんな俺を見て正午が似合わないとでも言うように顔を顰めるが、視界からシャットアウトしよう。

それより問題なのは、正木がどうして俺を連れて来たのかと言う事だ。

心霊スポット巡りをしたいなら、一人でもいい筈だ。俺なんかと行っても話が盛り上がるとは思えない。正木の信者どもの方が数倍盛り上がるだろう。

それなのに、どうして俺を引っ張って来たんだ。

そんな俺の疑問に答えるように、正木が正午に問い掛ける。


「君も呼び寄せる体質なのかな」


あ、れ?

俺が見える方だってのが、もしかして分かってるのか?

正木の質問に正午が淡い笑顔を浮かべる。やんわりと答えを拒否しやがった。

それが正木にも分かったのか、「まぁいいか」と頷いている。

頭脳明晰な変人でも、正午の可愛さには文句を言えないのか。案外チョロいな。

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