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比与森家の因縁  作者: みづは
白銀の狐
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白銀の狐 1

真新しい部室棟。

木造だった旧校舎とは違い、白くてピカピカだ。これなら怪談が蔓延る事もないだろう。

学校の敷地の片隅、そこにはかつて木造の旧校舎があったのだが度重なる事故と教頭の変死という異常事態を受けて、夏休みの間に取り壊されたのだ。そして新しく建てられたのが部室棟だ。どうしても必要という訳ではないのだろうが、更地にしておくのは勿体ない、そんな感じなのだろう。


運動部文化部あわせて十五の部活が入る予定だ。

幽霊に悩まされていた俺としては、怪談の宝庫だった旧校舎がなくなりホッと胸を撫で下ろした。だが、それも束の間。

通常授業が始まってみると、見回り区画が増えた事に気がついてガックリした。


一階にはバスケ部と陸上部、サッカー部などの運動部が入っている。更衣室は他にあるので、主に物置やミーティングルームとして使うらしい。

そして二階と三階は文化部だ。

部室棟を作ったのは、この文化部の為と言ってもいいぐらい、うちの学校は文化部が多い。

規模の大きな所は既に部室を持っている。だから、新しい部室棟に入ったのは同好会に毛の生えたような程度の物ばかりだ。どういうものかと言うと、漫研に歴史部、野鳥サークル等々。学校の部活として本当に必要なのかと疑問に思うのだが、全て生徒会の許可を得て活動しているので風紀の俺が文句を言える筋合いではないのだ。


その中にたとえ俺の地雷があるとしても、だ。


部室棟の三階、その一番奥を占領しているオカルト同好会。

厳密に言うと、オカルトとホラーは別物らしいのだが、俺にとって怖いという意味では同じだ。

オカルト同好会、略してオカドウは目に見えないものを面白がり、恐怖を共有したいという変人の集まりだ。

見てしまう体質の俺としては、出来る事なら近づきたくない。だが、そうも言ってられない。

放課後の見回りは当番制だが、委員長の肩書きの所為で俺が一番多い。

つまり、俺がオカドウの部室に行く回数もそれだけ多い。


下校時間が近いので、帰ってればいいのに。居残ってたとしても鍵を閉めててくれればいい。部室の鍵が閉まっていたら、それを開けてまで中を見る事はしないのだから。

だが、何故かここの部員は下校時間が過ぎても帰ろうとしない。それどころか、鍵を掛ける事なく昔懐かしのコックリさんなんかやってやがる。

もう本当に勘弁してくれ。


普段から百物語とかしてるもんだから、ここの部室だけ暗いんだよ。新しいってのに天井の蛍光灯はしょっちゅう点滅してるし、ラップ音もバンバンしている。

こんな所で怖い話するなんて、怖い物知らずにも程がある。


今日も今日とて、下校時間三分前だと言うのにカーテン引いて蝋燭立てて何かやってやがるし。


「お前ら、いい加減にしろよ」


校舎内は火気厳禁だろうが。そう溜め息つきながら声を掛けると、何が面白いのか、ここの部長がニコニコと俺を見る。


「おぉ、風紀委員長。丁度いい所に来たな」

「何が丁度いいんだ。さっさと帰れよ、正木」


部長である正木は、変人の親玉みたいな奴だ。成績は常に上位で、素行が悪い訳でもない。だが、趣味が宜しくない。

三年に進級したのを機に、何故か中二病を患ったのだ。十八にもなって中二病だ。永遠の十四才ってか、このヤロウ。

そうは言っても、おかしな言動で周囲を困らせる事はない。ただ、無闇矢鱈とオカルトに首を突っ込みたがるのだ。きっと正木自身も幽霊の存在を信じている訳ではないのだろう。単に面白いから、その程度の理由だと俺は考えている。正木の中二病は趣味なのだ。


「まぁまぁ、すぐに終わるから」


そう言って部室の隅っこに俺を引っ張る。

他二人の部員たちは俺にビビっているのか顔が強張っている。この二人は正木の信者だ。

変人だと言うのに正木には何故か人を惹き付けるオーラのような物がある。俺にはよく分からないけど。


二人とも一年で、小さい方が相沢、ノッポが清村だったか。相沢の方は小さいから仕方ないとは言え、清村もどこか頼りない感じがする。これは一歩間違えたらイジメにあいそうだ。


上機嫌な正木を眺めて、ああ成る程なって納得する。

優等生と言う周りの評価を気にする事なく、我が道を進む正木。その奔放さに一年生の2人組は憧れているのだろう。

風紀としても、正木がこの二人の世話を焼いてくれるのは助かるとも言える。

相沢にしろ清水にしろ、その背後に得体の知れない秀才がいると全校生徒が知っているのだ。この二人に嫌がらせする奴なんかいる筈がない。

校内でイジメなんかあったら教師の次に風紀が責められるしな。


そう楽観視していたんだが、振り返った正木の笑顔を見て物凄く厭な予感がする。


「これで四人集まったから出来るな」

「おい、こら。何する気なんだ」

「部屋の隅にそれぞれ立って、壁伝いに移動してそこにいる相手の肩を叩くんだよ。叩かれた人は同じ事を繰り返して、それで何周できるかカウントするんだ」


バカか。

地味だし、それのどこが面白いのかサッパリ理解できない。ってか、四人じゃ一周も出来ないだろうが。だいたいからして俺を巻き込むんじゃない。

そう言ってやると、「だからやるんじゃないか」と言い返される。


「四人しかいないのに一周したら、もう一人いるって事になるだろ。その五人目は幽霊って事じゃないか」


えーっと、これはもしかしてちょっと形の違う交霊術みたいな物なのか?

幽霊呼び出すならもっとこう……手っ取り早い方法とかあると思うんだけど。そもそも、呼び出しといて部屋の中をグルグル歩かせるだけって、何がしたいんだ一体。幽霊に失礼だろ。


「まま、一回やればこちらの気も済むんだから付き合ってくれよ」


そう言って問答無用とばかりに蝋燭の火を吹き消す。

パタパタッと走る足音がして「それじゃ行くぞー」と声を上げ、残りの二人がそれぞれ「はい」と返事する。

こいつらにはどうぜ反省文を書かせるんだ。ここで言い合うより、さっさと終わらせた方が早いか。


カーテンが引かれた真っ暗な部屋の中。聞こえるのは上履きでペタペタ歩く足音のみ。


「はい、タッチ」


やってる事の割りに正木の明るい声が聞こえる。それに答えて部員が歩き出す。だいたい同じ間隔で同じやり取りがある。


あ、何か厭な予感がする。

だって、俺が最後に歩くんだよな。んでもって、歩いてった先には誰もいない筈なんだが……もし誰かいたらどうするんだ。

そう思った時、肩をポンと叩かれ飛び上がらんばかりに驚く。


「委員長の番です」


この声は相沢か。聞こえて来たのが肩より下だったのでそう思う。


「……分かった」


距離はだいたい3m、そんなの大股で行けばアッと言う間だ。ビビる必要なんかない。

部屋の中は暗いけど、時間としてはまだ夕方だ。大丈夫、この先に誰かいる訳なんかない。落ち着け。

ビビるな、俺。


壁に手をつきながら歩き出す。

こんなバカバカしい遊びはさっさと終わらせて、こいつらに反省文の提出を命令する。そのあとは戸締まりを確認して、担当教師に報告して終わりだ。

予定を反芻していると、不意に人の気配がする。咄嗟に手を伸ばし、その肩を叩いてしまう。

タタッと小走りに去って行く足音。程なくして正木が「はぅ!」と大声を上げる。


「部長、どうかしましたか!」

「電気だ、早く!」


その声に答えるように蛍光灯が瞬き、部屋の中が明るくなる。

俺以外の三人がキョロキョロと左右を見回す。


「今、誰か私の肩を叩いたか?」

「いいえ!」

「と、言う事は……五人目がいたんだな!」


そう叫ぶと嬉しそうに三人で手を取り合って歓声を上げる。

それを白けた気分で長めながら、俺は肩を叩いた手を握り込む。叩いた時、手が髪に当たったよな……それって相手の髪が長いって事だ。つまり女子。そして、俺にはそういう事を仕出かしそうな相手に心当たりがある。

喜び合う三人に反省文を書くよう短く言いつけて風紀室に走る。


「くっ……花子さんめ!」


ここ、旧校舎を縄張りにしていた幽霊の花子さん。過去に殺され、片足を切り落とされた女の子だ。

以前は血だらけの姿で廊下を這いずっていたのだが、今は元の可愛らしい姿で、何故か俺に取り憑いている。

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