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ちっちゃい癖に偉そうな……とか、そんな事思う間もなく、旧校舎まで連れて来られる。
うぉ、真っ暗じゃないか。駄々を捏ねてる間に陽が暮れたのか。
イヤだなぁ、本当に。
夜空をバックに聳える廃墟のような旧校舎。ホラー映画かよってぐらいサマになってるじゃないか、オイ。
うぅ、絶対出る。これは絶対に奴らが出るぞ。イヤだ、怖い!
財布に入れてあるお守りを引っ張り出して握りしめる。それに目敏く気付いた足立が「何ですか、それ」と問い掛けて来る。
「俺が頼れるのはこいつだけだ……」
そう言って手のひらを開く。俺が握りしめていた物の正体を知って、足立がバカにしたように短く笑う。
「交通安全のお守りじゃないですか。旧校舎の中で車に轢かれるとでも?」
「何もないよりはマシだろ!」
「はいはい」
肩を竦めて中に入って行く。出来る事なら、このまま見送りたいのだが、すぐに「早く!」と鋭い声が飛んで来る。
くそぉ、一年の癖に生意気な。
こんな所で置き去りにされたら、それはそれで怖い。だからでもないが、足立に駆け寄る。
準備よく持って来たらしいペンライトを取り出す足立に問い掛ける。
「肝試しって、出たらどうする気なんだ?」
「連れて帰りますよ」
「幽霊を?」
「はい」
それでいいのか?
確かに、足立が頼まれたのは行方不明になった娘を見つけてくれって事だったから、どんな状態なのかまでは考慮しなくてもいいのかも知れない。でも、だ。
普通、娘の幽霊連れて来られたら困るんじゃないのか。
「それは、もう死んでるって前提でいいのか?」
「これだけ時間が経ってますし、幽霊の目撃証言もありますから」
それはそうだ。
両親としては、一番の希望は生きた娘が発見される事なんだろうけど、五年も経ってるんだから心のどこかでは諦めてもいるだろう。だったら足立に依頼したのは、娘の亡骸、或いは魂だけでもって事なんじゃないのか?
でも、足立の口調が酷く事務的なのが気になる。
「成仏させてやるって事でいいんだよな?」
「そこまでは頼まれてませんから」
いやいや、頼まれなくても察しろよ。考慮しろ。お前には血も涙もないのか。鬼か。
どこの世界に、両親と血まみれの幽霊になった娘を対面させる祈祷師がいるんだよ。酷いわー、こりゃないわー。
足立の性格に呆れるあまり、恐怖を忘れてしまう。
「でも、そう簡単に行くとも思ってません」
そりゃそうだよな。
幾ら何でも悲しみに暮れる家族に追い打ちかけるなんてしないよな。安心したぜ。
そう胸を撫で下ろしたのも束の間。続けられた言葉は俺が思ったのと方向が違っていた。
「目撃情報は全て旧校舎ですから、もしかしたらここから出られなくなっているのかも知れません」
違った。両親の気持ちとか何も考えてないや、コイツ。でも、確かに足立の言う通りだ。
教室でも校庭でもなく、今は使われていない旧校舎にだけ出ると言う事は、そこに引き寄せられて離れる事が出来ないのかも知れないな。
「地縛霊って奴か……?」
信号や踏切にいるのは見かけた事あるけど、その場に突っ立ってるだけで自分が死んだ場所からどこに行けばいいのか分からないって感じだったぞ。
旧校舎に出るのはそうじゃないだろ。驚いて追い掛けたら消えたって言うんだから、多少の距離を移動したんじゃないのか。
それとも、俺の知識が間違ってるだけで、地縛霊ってのは思いのほかフリーダムなのか?
「それを確認する為に来たんですよ」
そう言って足立が手を差し出して来る。
何かくれるのかと見つめるが、別に何も持ってない。
「手を繋いであげますよ、怖いんでしょう?」
そう言った口元にはバカにしたような笑いが浮かんでいる。
顔は可愛いけど、本当に可愛くないな!