表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
37/103

37

俺の呼びかけに肩を竦めて、「ここじゃ暑いですから」と言って門の横のドアを開ける。

そんな所にそんな物が。しかも、その横にはインターホンまであるじゃないか。

いやはや、俺の目は節穴かっての。


立ち上がって比与森の家へと入る。

先を歩く背中は華奢で骨張っているのだが、ピンと伸びていて迷いがない。

それを見ながら、ヒントは山ほどあったのだと思う。


始めて会った時、自分の祖母を祈祷師だったと言っていた。そして比与森ツルも拝み屋。

そして、いとこの葬式。だが、叔父の子供は二人いたのだ。

記憶を封印されていた俺は二人のいとこの名前も思い出せない。だが、離れに暮らしていたのは母親と子供が二人、それだけはハッキリと覚えている。

死んだ女の子には兄がいた。だが、二人とも俺より年下だった。その事からいとこは年子か双子だった想像がつく。そして現に双子だったのだ。

生き残った双子の兄、それが俺に『足立』と名乗った一年生と同一人物だとしても年齢的にも矛盾はない。


そこまで分かればあとは簡単だった。

風紀室で森に『足立正午』と名乗ったが、『正午』というのは本名だったと考えられる。正午と書いて『マヒル』と読む名前は咄嗟に思いつけないだろう。だからコイツは比与森正午だ。

そして、こいつから漂う香り。問答無用で仏壇を連想させる、それは間違いなく線香のそれだ。比与森の家にいた頃、俺は常にそれを嗅いでいたのだ。

道理で比与森ツルの事に詳しかった筈だ。何しろ、コイツも当事者だったんだから。しかも俺と違って記憶を封印されていなかったようなんだから誰よりも詳しくて当然だ。

落ち着いて考えたらすぐ分かる事なのに、俺はまんまと騙されてしまったと言う訳だ。

自分の単純さに呆れるしかない。


正午に案内されて、どうやら離れらしい部屋へと通される。

廊下で母屋と繋がっているようだが、独立した玄関があり、そこから靴を脱いで上がり込む。

泥棒を気にする必要がないのか、部屋の窓は開いている。まぁ、こんな山の中だし。

さっきまで汗だくになるほど暑かったのだが、吹き込む風の冷たさに背筋が震える。


すすめられた座布団にドカッと座り込む。

疲れたし、何だか身体が重い。

そんな俺を見て、正午が音もなく近づきポンポンと背中を叩く。


「あ?」

「色んな物が憑いてましたから。シロウを呼べばよかったのに」


あー、さっき見た黒い影みたいなのか。

俺に対する敵意を感じなかったから放っといたんだけど、勝手に取り憑いていたとはね。


「呼んだらどうなってた?」


俺の質問に正午が薄らと笑う。それに余りいい結果にはならなかっただろうと思う。踊り食い状態か。

自分の想像力にウンザリして曖昧に首を振る。


「そんな事より、俺に何か言う事あるだろ」


こいつは、俺との出会いからして嘘をついていたのだ。

前もって佐倉小花の両親にも話を聞いて来た。比与森の家に娘の捜索を頼んだ事は認めたものの、そこに至る経緯はまるで違っていた。

そりゃそうだ。正午はあの学校の生徒ではなかったのだから。

現在、比与森の家は占いを生業にしているらしい。それはまだ来ない未来ではなく、過去を当てるものだと言う。

そんな物に何の意味があるんだと思ったが、案外、需要はあるようで、比与森の占いは失せもの探しや行方不明者の捜索が主なのだと言う。その筋では有名なのだそうだ。

だから、佐倉小花の両親は比与森に娘の捜索を依頼した。


それなのに正午は俺に嘘をついた。何故か。

理由は簡単だ。

正午の目的は俺に近づく事だったからだ。


「いとこですって名乗ったら信じましたか?」


疾しい事など何一つありませんと言った涼しい顔つきで正午が言う。

その言葉に、どうだろうと首を傾げる。

記憶を封印されていた俺は、自分に親戚がいるなんて知らなかった。家族は親父だけで、死別した母親の事も覚えていなかったのだ。

たぶん、信用しなかったと思う。胡散臭いと思って遠ざけたに違いない。


「でしょう?」


俺の顔色から考えを読み取ったのか、クスクスと笑いを滲ませながらそう言う。


「それに最後まで黙っているつもりでしたから」

「どうしてだ」


俺のいとこだと言うのを隠して置きたかったと言うのか。


「厄介だからです」


は……俺の事が厄介だと言うのか。何で。

俺、お前に何かしたか?


「先輩は間違いなく比与森ツルの力受け継いでいるようでしたから」

「同じ学校じゃないんだから名前で呼んでくれないか」


そう口を挟むと、戸惑ったように目を伏せて「分かりました」と頷く。


「犬の紫狼が取り憑いているから幽霊が見えると思ってるようですが、それは違います。司郎は生まれつきそういう物を見てしまう体質なんです」


そうなのか?

それはそれで何だかイヤなお知らせだな。


「それは比与森ツルが霊能者だったからって事か?」

「違います。比与森ツルは祈祷師であり、拝み屋でした。世間で言うところの霊能者とは別物です」


何がどう違うのが分からないけど、そうまでキッパリと言うのならそうなんだろう。


「霊を使役し、調伏する事。それが拝み屋の仕事です」


見えるだけじゃ使い物にならないって事か。

そりゃそうだよな。俺みたいにビビってばかりいたんじゃ仕事にならないだろうし。


「だけど、それらはただの技術です。修行次第で幾らでも手に入れられる……ただ、司郎のそれは何て言えばいいのか……」


そこで急に言い淀むな。

何だよ、俺は修行しても無駄だって言うのか。

へーへー、どうせ俺には才能なんてありませんよ。


「性格って言うか人柄のような物が少し……」


え、何。

もしかして俺って性格悪い?

自分ではそう思わないけど、もしかしたら周囲にはそう思われてるのかも知れない。

思い出してみれば、これまでの人生で人に避けられて来た。中学では可哀想なほど女子から距離を取られていたし、今も同じだ。でも、それは見た目が怖そうって事なのかと思ってたよ。ポジティブシンキングが過ぎたか。


マジかよー。


外見が怖いって自覚はあったから、優しい男ってのを目指していたんだけど全然ダメだったか。近づきたくないほど性格が悪かったのか、俺は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ