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比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
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片付けを終えて、ピザを注文する。

届いたそれを食べながら足立を見ると、少し困ったように肩を竦める。


「分かりました。説明しますよ」


そう言ってピザを口に押し込むと、ティッシュで手を拭う。


「比与森ツルが行っていたのは丑の刻参りだったのでしょう。一般的には、呪う相手に見立てた藁人形に五寸釘を打つ儀式という事になってます。本来は願掛けの一つだったのですが、いつの間にか相手を殺すための呪術として有名になりました」


もともとは、ただの願掛けだったのか。それは知らなかった。

感心する俺に構う事なく足立が説明を続ける。


「僕個人の意見ですが、これはただの語呂合わせだと思うんです。陰陽道では北東を鬼門と言います。北東は丑寅の方角です。だから鬼は牛の角と虎皮のパンツを履いているんですが、それを更にもじっただけでしょう」


え、それは何て言うか……ちょっとガッカリだな。

だって、漫画とかで陰陽師ってヒーローじゃん。訳分からない呪文とかカッコいいし。

それなのに語呂合わせって……ただのダジャレだったのかよってツッコミたくなるのは俺だけじゃない筈だ。


「呪術なんてそんな物です。でも、言葉は人の精神に影響します。だから丑の刻参りは効くんですよ」


そういう物なのか……?

でも、オヤジギャグで呪い殺されましたって事になったら、確かに死んでも死に切れないよなぁ。


「そして比与森ツルの家は代々拝み屋を営んでいました。色々なものが発達していなかった昔、拝み屋は教師であり医師であり、未来を予言する占い師でもあったんです。そんな特殊な家系ですから、憑き物の一つや二つぐらいあったでしょう。今回の狐もそんな憑き物の一つです」

「あんな物騒なのを代々飼っていたのか?」

「本来は物騒じゃないんですよ。むしろラッキーアイテムです。決められた供物を捧げれば、家に富を運んで来ます。でも、比与森ツルは邪法に使ったんです」


邪法って。ああ、人を呪い殺した事か。


「邪法を行えば、憑き物は祟りとなって、その血を追い続けます。だから、邪法を行った拝み屋は子を成す事はしません。でも、それを行った当時、既に比与森ツルは子供がいた。そこで考えたのが自分の身代わりです」


封印されていたひな人形。それを箱から出した時、呪いは発動したって事か。


「拝み屋の血は母から娘へと受け継がれます。比与森ツルには二人の子供がいましたが、片方は男の子だったので養子に出す事で縁を切る事ができた、しかし、娘の方はそれでは足りない。大急ぎで身代わりを準備をしたけども、間に合わず先輩のお母さんは死んでしまった。比与森ツルは慌てたでしょう、娘の夫とその子供を自宅に呼び寄せて自らの手で守ろうとした。だけど、娘の血を引いた孫は既に狐に呪われていたんです。そこで比与森ツルはどうしたか、養子に出した息子の家族を呼び寄せたんです」


大黒柱を失って路頭に迷うしかない母と子。

住む場所を与え、生活を世話する。そう言われたら、誰だってその申し出を受け入れるだろう。


「身代わりとしてひな人形を選んだのは、どちらの孫も男の子だったから。納戸の奥に仕舞い込んで置けば、男の子なら見つけても飾る事はないだろうと思ったんでしょう。仕掛けを施し、安心したところで比与森ツルの寿命は尽きてしまいます。その後、引っ越しに手間取っていた息子の家族がやって来ました。手違いが起きる時は重なるもので、男の子だと聞いていた子供は男女の双子だったんです」


二つ年下のいとこ。兄と妹だと聞かされたから余り考えなかったが、二人は同い年だったのか。


そして、桃の節句。女の子の祭だ。

父親のいない家庭でそれを祝う事は難しかったに違いない。だから、姑の死後、自宅の納戸でひな人形を見つけた時は嬉しかっただろう。そこに悪意はなく、ただ娘のためを思った母親の心だけだったのだろう。

だが、箱を開いた事で封印は解けてしまった。

解き放たれた呪いは、比与森ツルの血を引く小さな女の子に向かったのだ。


全ては偶然だったのだ。


「孫娘が死んだあと、次に狙われるのは比与森ツルの娘の子供である先輩です。だから、孫のために比与森ツルはあの座敷にあらわれ、シロウを託したんです」

「なぁ……そもそも、そのシロウって何だったんだ?」

「雑種の子犬です。僕が見つけた時には既に死んでいましたが、それに少しばかり手を加えて今の状態にしたんです」


まぁ、俺の中にいるシロウが普通の犬の訳ないから納得できるようなモヤモヤしたままのような……。


「シロウがいるから狐は先輩に手出しできません。でも、これからは毎日、狐の好物を供えて下さい」

「好物って?」

「基本的に雑食ですから何でもいいんじゃないですか」


ここに来て何ていい加減な事を言うんだ。

でも、まぁ……そう言うならここはオーソドックスに油揚げでも供えてみるか。


「あ、だったらシロウにも何かやった方がいいのか?」


狐だけじゃ不公平だろ。むしろシロウの方にこそお礼の意味も込めて何かあげるべきじゃないのか?

俺としては当然の事を言ったんだが、何故か足立は驚いたように目を丸くしてる。


あれ、変な事言ったか……?


キョトンとする俺を見て、うんざりしたように溜め息をつく。


「前にも言いましたけど、シロウは先輩と同化してるんですよ。好物を与えるってことは先輩がそれを受け取るって事なんですが、大丈夫なんですか?」


え……っと、シロウに肉あげるなら俺がそれを食べなきゃいけないって事なのか?

まぁ、それならそれでいいんじゃないか……?

流石にドッグフードは食べたくないが、犬の好物と言えばやっぱ肉だろ。だったら、たまに焼肉でも行けばいいか。

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