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いつかのファミレスで食事をしたあと、唐突に足立が立ち上がる。
「行きましょうか」
行くってどこに?
ホケッと見上げていると、焦れたように舌打ちをする。
「花子さんに会いに行きますよ」
「……今から?」
もう暗いし、明日にしよう!
どうせ足立には逆らえないのだから行く事は避けられない。だからって何も深夜のこんな時間にわざわざ旧校舎に行くのは厭だ。誰が何と言っても厭なものは厭なんだ。
「昼間だと誰かに見つかるかも知れないですからね、行きますよ」
そりゃそうだろうけど、だからってこんな夜中に行く事ないだろ!
必死の抵抗にも関わらず、何故か再び学校である。
とは言っても傍目には俺が抵抗していたかどうか分からなかっただろうけどさ。
だって、足立の犬が俺の中にいるんだ。しかも、このワンコ飼い主の言う事には絶対服従なんだよ。俺の意思なんかお構いなしだ。
夜に見ると、半端なく怖い。怪談とか幽霊とか関係なしに、夜の学校とは怖いものだ。
昼間の喧噪が嘘のように静まり返った校舎。それを見上げて、どうしてうちの学校には宿直がいないんだと八つ当たりする。せめて警備会社と契約しててくれたら良かったのに。
風紀室には敷地内全ての鍵が保管されている。それを持って来いと足立に言われて、半泣きになりながら校舎に入りましたよ。
怖い、もう無理、マジで。
何もいなくても夜の学校と言うだけで、この世の何よりも怖いんだよ!
ちなみに今は俺一人。足立は旧校舎の前で俺が鍵を持って来るのを待っている。
どうして一緒に来てくれないんだよ!
そりゃ足立がいたって怖いのは同じだけど、一人よりは二人、二人より三人の方が心強いってものだろうが。
暗がりに何かいるのではないかと思って慌ててそれを打ち消す。そんな事したら何もいないのに、何か見えちゃうかも知れない!
ヒタヒタと歩く自分の足音にすらビビってしまう。いやいや、足音は俺のだけだ。決して他の物音なんか聞こえない!
心臓をバクバク言わせながら何とか風紀室に辿り着いて旧校舎の鍵を取り出す。
もうやだ。廊下を引き返す勇気なんか俺にある訳ない。
風紀室の窓を開けて、そこから外に飛び出す。
明日は朝一で登校して窓閉めとく。森に見つかるより先に登校しなくてはならないから、六時ぐらいか……まぁ、どうせ今夜は眠れないだろうから構わないだろ。
走ると怖くなると分かっているが、すぐそこに足立がいるんだ。目標があるのに走るなと言うのが無理な話だ、そうだろ。
「持って来たぞ……」
ゼェゼェ肩で息しながら鍵を差し出すと、足立がそれに鼻を鳴らす。
「そんなに急がなくても平気ですよ、夜は長いんですから」
長いからこそ急いだんだよ!
一晩中ここにいるなんて事になったら失神するぞ、今すぐに!
何はともあれ、旧校舎に入る。
気の所為かも知れないけど、寒い。鳥肌どころか、背中がゾクゾクする。
「それで、どうするんだよ」
さっさと終わらせて帰りたい一心で足立を見る。
「夢の中で花子さんはどこにいましたか」
そんなのさっきも言っただろ。廊下だよ、廊下。
「何階の?」
そう言われて、「う」と言葉を詰まらせる。
廊下なんてどの階も殆ど同じだから、花子さんが走っていたのがどこなのか特定できない。しかも、窓の外は暗くてよく見えなかったし。
「桃の花が見えてたんですよね、だとしたら一階ではないと思いますよ」
あ、そうか。見上げてたんだとしたら花が浮かび上がって見える訳ないよな。
だとしたら二階か三階。でも、そのどっちかまでは分からない。
「前に花子さんを見たのは二階の廊下でしたよね。だとしたら二階の可能性が高いですね」
俺がこれまで見た事のある幽霊はだいたい同じ場所に立っていた。だから回避する事も可能だった訳だ。
花子さんもそうだと思っていたんだけど、足立はそう考えてはいないらしい。旧校舎の中なら自由に動き回れると思っているようだ。
でも、何で?
「花子さんは廊下を這って移動してたじゃないですか」
俺の疑問に足立がそう答える。
うん、確かにそうだった。思い出したくないけど、傷口から血を流しながら這いずっていたな。
「その事から花子さんは旧校舎の中なら移動できるのだと考えられます。待ってればそのうちまた這いずって出て来ると思いますけど、花子さんは僕たちを認識していないようなので話しかけても無駄でしょう。だったら、花子さんが死んだ場所を特定する必要があります」
何て事ないように淡々とそう言うけど、血だらけの幽霊が這いずって来るのを待つってのは中々な恐怖体験だと思うぞ。お化け屋敷なんか目じゃないぐらい怖いだろうが。
それより、花子さんが殺された場所の特定なんて言われてもどうやってだよ。
そういうのは警察の仕事なんだから俺たちにできるとは思えないんだけどなぁ。
二階に向かいながら足立が言う。
「旧校舎が完全に閉鎖されたのは二十年前だそうです。それまでは幾つか教室を使ってたようですよ」
「だから?」
「二十年前までは人が出入りしてたって事です。つまり、人目があった。そんな所で犯人が花子さんを殺すとは考えられないので、閉鎖されたあとだと断定して構わないでしょう」
それが正しいとするなら、これまでの前提とあわせて考えると、犯人は二十年前と五年前、この学校にいた事になる。いや、今もいるのかも知れない。だとしたら生徒ではないのだろう。教師の誰か……年齢からして当て嵌まるのは誰だろう。当時は学生で卒業したあとに教師として戻って来た可能性だってある。
学生だった犯人が花子さんを殺し、教師として戻って来たあと佐倉小花を殺した。これなら二人の死に開きがあるのに納得できる。




