20
放課後、見回りの当番だったので一人で校舎を歩く。
俺は基本的に一人で行動する事が多い。
森にはビビリだとバレているのだが、他の委員はそれを知らないからだ。
見た目通り、無口で何を考えているのか分からない。そう思われているのだろう。端的に言ってしまえば、怖がられてるのだ。
だから、見回りなどの時に俺と一緒に来てくれる委員は皆無だ。別に淋しくなんてないんだからね!
と、強がってみるが本当に淋しいとは思わない。
放課後の見回りは時間が遅いので、女子にさせる訳にも行かないし、俺が怖いのは死んでる人間だけだ。生きてる人間相手なら負けないと思っている。
部室棟をまわり、残っていた生徒に注意をして校舎へと戻る。
帰りながら職員室に寄って異常なしと報告すればあとは帰るだけだ。
昨日と、今日の昼間。続けて白昼夢を見せられた所為なのか、ものすごく身体が怠い。早く帰って風呂にでも入ってサッパリしたいところだ。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、見たくもないのに旧校舎へと目が向いてしまう。
明かり一つない真っ暗な旧校舎。そこの廊下に誰かが立っていた。
花子さんか?
腕に鳥肌が立つ。帰ろう、一刻も早く明るい所に行くべきだ!
教室の電気を消すのも怖い。怖いけど、つけたままにしたら後で教頭にお小言食らう!
できるだけ教室を見ないようにして電気のスイッチを押して廊下を早足で駆け抜ける。
矛盾しているようだが、本当に早足で駆け抜けた。だって、走ったりしたら余計怖いじゃんか。
職員室について教頭の貧相な顔を見て、ここまで安堵するとは……花子さん恐るべし!
何とか報告を終えて学校を後にする。だが、「シロウ」と声がして足が止まってしまう。
え?
何で動けないの、俺。
動かないのは足だけだと気付いたのは、キョロキョロと見回してからだった。
何だか知らないけど歩けない。もちろん、走る事もできない。
挙動不審なまでにオロオロしていると、クスクス笑う声がする。
「もしかしたら思ってたんですが、本当に操れるとは」
屈託ない口調でそう言うのは足立だった。
一度帰宅したのか、ハーフパンツにいつかのパーカーという私服姿だった。
「何だ、これは。お前がやってるのか」
「はい」
躊躇いもなくコクンと頷く。
それに怒りが湧くのだが、どこか奥の方で喜んでいる自分がいる。
何だよ、これ。面倒くさい。自分の中に他の誰かがいるような気がして非常に面倒くさい。
「同化しているって言ったでしょう、これからその説明をしますね」
そして何故かの我が家である。
二年前に越して来たばかりの2DKには、親父との二人暮らしなので家具は必要最低限しかない。ま、親父はほぼ会社に泊まり込みなんだけど。
俺が鍵を開けると、どうしてだか足立が「お邪魔します」と言って先に上がって行く。それを止める事もできず、リビングに案内する。
ソファなんて洒落たものはないので、座布団をすすめる。ちなみに俺は床にそのまま座り込んでいる。
「それで、同化って何となんだよ」
そう促すが、足立は聞いているのかどうか興味深そうにリビングを見回している。
「ああ、犬です。シロウって名前の黒犬」
そんな気はしていた。白昼夢で俺はシロウって犬を抱っこしてたし。
ただ、問題なのはそのシロウが普通の犬じゃない気がするって事だ。
散々眺めて満足したのか、足立はやっと俺を見る。
「前に言いましたよね、僕は修行するのを禁止されたって」
そう……だったか?
言われてみれば、確かにそう聞いたような気がするけど、それが何だって言うんだ。
「シロウは僕が作った式神です」
そう言って座布団の上で足を崩す。体育座りのように膝を立てるのだが、何でこんなに色白なんだ。しかもすね毛ないし、女子より綺麗な足してるな、お前。
「まぁ、知らなくてもしょうがないんですが、先輩の出自からして本来なら知ってて当然なんですけどね……」
何を訳の分からない事を。
でも、言い返しても倍以上に言い返されるだけなので黙っておく。
「三年という歳月をかけて僕は何とかシロウを使役する事ができるようになりました。でも、奪われたんです」
「誰に……?」
「先輩のお祖母さん、比与森ツルです」
え……っと?
何で足立が俺の祖母さんの名前を知ってるんだ?
しかも、どうして祖母さんが足立の犬を奪わなくちゃならないんだ?
「比与森ツルは、うちの祖母の同業者でした」
「それって、」
「はい。祈祷師、いえ拝み屋と言った方が分かりやすいですね。彼女は邪道すらも請け負う拝み屋でした」
ジャドウって、邪道?
「人を呪い殺す、それが彼女の仕事でした」
「………は?」
呪い殺すってマジで言ってるのか?
だとしたらお前ちょっとアレだぞ。何て言うか、えっと病院とか行った方がいいと思うな、うん。




