表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
18/103

18

教科書を読み上げる教師の声を聞きながら、溜め息をつく。


今朝も変な夢を見た。その所為で眠りが浅く、昨夜の疲れが抜けきっていないような気がする。足立の言う通り、俺に夢を見させているのが花子さんだとしたら、何が目的なんだろう。


佐倉小花のように家に帰りたいとか?

或いは他に何かさせたいのだろうか。


うぅむ。

考えてみるが、さっぱり分からない。

そんな事をしている間に授業が終わり、昼休みになる。

いつものように弁当片手に席を立つと、クラスメイトに呼ばれる。


「一年生が呼んでるぞ」


その言葉に予感がして廊下に出ると思った通り、足立がいた。出来れば会いたくなかった。

いや、会わない事にはどうにもならないんだけど、昨日の今日で顔をあわせるのは非常に気まずい。押し倒したのは俺の方なんだから悪いとは思ってるけど、その件に関してまだ混乱中なんだ、悪かったな。


それにしても、足立は目立つ。小柄だが姿勢がいい。顔の美醜は客観的に判断できるものではないのだろうけど、足立のそれは綺麗と言って差し支えないと思う。

だが、女に対して感じるものとは違う。骨格はどう見ても男のものだ。その所為なのか、凛とした清らかさのようなものを感じる。

何だろう。昨日抱きついた所為なのか、足立を見てそんな事思うなんて少し変だ。少しどころか大いに変だ。


俺の好みは女子。足首がキュッと締まった女の子がいい。網タイツとか赤いハイヒールの似合う足首とそこに繋がる脹脛!

だから違う。足立にトキメくなんてある訳がない!


「お昼、一緒にいいですか?」


上級生を相手にしている所為か、口調だって丁寧だ。でも、こっちが断るなんて微塵も思っていないに違いない。そこはかとなく生意気な気配がする。


「ああ」


頷いて風紀室に行く。

花子さん対策をするのだろう。そう思ったので、誰もいない風紀室に連れて来たのだが、生憎な事に先客がいた。


森だった。


パンを齧りながら何やら作業をしていたらしく、入って来た俺たちを見て盛大に舌打ちする。


「邪魔だったか?」


そう問い掛けると、口の中のものを飲み込んで「別に」と答える。


「そっちは一年生だよね」


森に問われて「足立正午です」と返事をする。

へぇ、足立の名前ってマヒルだったのか。これまで名前を知る機会がなかったから知らなかった。


「今朝の検査の書類作ってただけだよ。お昼食べるんでしょ、どうぞ」


そう言って手際良く書類をまとめだす。

お言葉に甘えて中に入り、適当な椅子に座る。

しかし足立は入り口に突っ立ったまま、動こうとしない。どうしたのだろうかと振り返ると、困惑したように森を見ていた。


「副委員長の森だ」


紹介してやると、やっとペコリと頭を下げる。もしかして人見知りか?

いや、俺に対しては最初から言いたい放題だったからそれはないか。じゃ、女子が相手だと上手く喋れないとか?


向かい合う足立と森を見て、それはないかと首を振る。

森は確かに美少女だが、どこか嘘くさい。やっぱり女装しているように見える。

それに比べれば足立は地味だが、綺麗は綺麗なのだ。男子より女子と仲良くなりそうなタイプに思える。


足立がチラリと俺を見る。その視線で漸く気付く。

昨日の事を話すつもりなら、第三者がいては困る。そういう事か。


「悪いが、席を外してくれないか」


森に言うと何となく察したのか、肩を竦めて立ち上がる。


「まぁ、いいけど……そう言えば教頭から苦情があったよ」


食べかけのパンを袋にしまいながら森が言う。


「旧校舎に出入りしている生徒がいるって」


その言葉にギクッとする。

忍び込んだのがバレたか?


「倉庫の荷物が動いていたらしいよ」


あ、くそ。そう言えば、佐倉小花を探して段ボールを動かしてから戻さなかったな。

でも、まさか教頭が旧校舎に行くなんて思わなかったし。


「……前に見回りした時に少し触ったかも知れない」

「何で?」


俺の言い訳に森が不思議そうに問い返して来る。

そりゃそうだ。見回りはいいとして、教材室にある段ボールを動かす理由なんてない。見て回るだけなら別に邪魔でも何でもないんだ。不審に思われて当然だった。


「僕が触って崩してしまったんです」


そう言ったのは足立だった。


「先輩と二人きりになれたから緊張してしまって……」


ん……何かおかしくないか?

俺と同じように怪訝な顔をしていた森だが、すぐに納得したように頷く。一人で分かってないで俺にも説明してくれ。


「一年生連れ込んで何やってるの」


責めるような森の言葉に心当たりなどこれっぽっちもない。何って、俺が何かしたか?


「林先輩を責めないで下さい、僕が勝手に追い掛けたんですから」


しおらしい態度の足立なんて始めて見たけど、何だか厭な予感がして来たぞ。まさかと思うけど、まさかだよな?


「誰と付き合おうと林の勝手だけど、旧校舎は立入禁止なんだから逢い引きするならよそでやりなよ」


やめおろぉ!

変なフラグを立てるんじゃない!

ただでさえ、今の俺は変なんだよ。だから、そういうフラグ立てられたら流され……いやいや、断固として流されないぞ!!


無意味な自問自答をしている間に、森は足立を見て、俺を見て諦めたように肩を竦める。


「見た目だけで言えばアリだとは思うけど、いいの?」


よくない!

何がアリだと言うんだよ。しかも、どうして足立に聞いてるんだ!


「クールな二枚目に見えるけど、かなりのヘタレだよ、コレ」


そう言いながら俺を指差す。

確かに俺はヘタレだけども!

怖がりのチキンでビビリだけども!


「そのギャップが素敵なんですよ」


足立がニッコリと森に返す。

気持ち悪っ!

『素敵』と言われたのも気持ち悪いが、足立の顔に浮かんでいる微笑みが最高に気持ち悪い!!


「他の委員には風紀室に行くなって言っておくけど、校内で変な事しないでよ」


そう言い捨てて森が立ち去る。

待て、違うんだ。頼むから待ってくれ!

そんな俺の願いも虚しく足立と二人残されてしまう。

やっぱりか。誤解をされた……いや、そう誘導したのは足立だ。

何考えてるんだ、お前。

ギロッと睨みつけるが、涼しい顔で無視しやがる。本当にいい根性してるな。


「お前、何て誤解を……」

「別に構わないでしょう。これで誰も来ないでしょうし」


立ち聞きされないためだと言うのか。本当に効率で物事を考える奴だな。

そのおかげで俺はあらぬ噂を立てられるのか……切ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ