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そう思ったのに、教室にいないとはこれ如何に。
クラスを聞いていなかったから、それなりに苦労して突き止めた訳だけど、呼び出して貰ったら「今日休みですよ」と言われてしまった。
キョトンと俺を見上げて来る一年坊主をマジマジと見つめる。だんだん、一年生の顔色が悪くなって来たような気もするが、そんな事に構ってられる筈もない。
休みだと……昨日別れた時にはピンピンしてたじゃないか。どう考えてもサボりだ。その理由はおそらく、俺を避けているのだろう。
昨夜の寝不足もあって、眉間がぎゅうっと狭まって行くのが自分でも分かる。
そう、昨日はあれから眠れなかった。どうなったのか気になったし、何より夢見が悪かった。
佐倉小花の幽霊は泣いてただけで別に恐ろしくはなかった。でも、そう割り切って考えられるものじゃない。
幽霊ってだけで怖いんだよ。
何かされた訳じゃないけど、死んでるのにそこにいるって事実がもう怖い。
その所為だと思うが、うとうとしては目が覚めるというのを繰り返した。しかも、夢の中でまで旧校舎にいたような気がする。
幽霊と出会った恐怖は時間と共に薄まるかも知れない。だが、このモヤモヤは事の顛末を説明して貰うまで消えそうにない。だから何としても足立の説明を聞きたかったんだが。
でも何でだ。
どうして急に避けられるんだ、その理由が思いつかない。
顔を顰めたまま考え込んでいると、目の前にいる一年生が泣出しそうな気配がする。これだから一般の生徒とは口をききたくなかったのに。
「悪い、ありがとう」
そう言うと、ピュッと音がしそうなスピードで一年坊主がどこかへと走り去る。
昔のアメコミでああいう走り方するウサギがいたな。まぁ、あのウサギは怯えてた訳じゃないけど。
さて、どうしたものか。
風紀の権限を使えば、足立の自宅はすぐに分かるだろう。いや、使うまでもなく全校生徒の名簿が風紀室にある筈だ。
だが、居留守を使われたらそこまでだ。むしろ警戒させてしまうかも知れない。
悶々としたまま一日を終え、校舎の見回りに行く。
下校時間が近い所為か、グラウンドから引き上げて行く運動部員たちが俺を見て慌てたように逃げ出す。
森曰く、俺は黙っていれば『怖い』人間に見えるのだそうだ。
実体はヘタレだけどね、と続けられたが。
まぁ、確かに視力がよくない所為で目つきは悪い。180越えの男に睨まれたら、そりゃ怖いのかも知れないな。
校舎を見回り、異常がない事を確認して教頭にそれを確認する。
教頭は生徒たちからMr.神経質というあだ名を付けられている。
実際に神経質なのかどうかは知らないが、そう思わせる外見をしている。
五十を少し過ぎているのだが、メタボとは程遠い痩せ形だし度の強い眼鏡を掛けている。サイズがあってないのか、それを何度も押し上げる仕草は神経質と言うより面倒くさそうな人間に見えて仕方ない。
とは言っても、そんなに関わりはないので面倒も何もないのだが。
何はともあれ、報告を終えて帰ろうかと鞄を取りに行く。
廊下を歩いていると、いやでも旧校舎が視界に入ってしまう。だが、もうあそこに佐倉小花はいないのだ。恐れる必要など何もない。
足取り軽く自分の教室に行くと、そこには思わぬ待ち人の姿が。
「やっと来た」
そう言って俺の席から立ち上がったのは休んでいた筈の足立だった。