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比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
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他に収穫のないまま夜になってしまった。


一応、風紀の記録を調べてはみた。だが、関係ありそうだと思ったのは、肝試しに行って風紀に見つかった生徒のものだけだった。

おかしなものを見たと証言している生徒が数人いて、しかも全員の話が食い違っていた。その事から推測されるのは、矢張り旧校舎には花子さんと佐倉小花、二人の幽霊がいるのだろうと言うことだった。


それが分かったところで、どうしようもない。

このまま家に引きこもってるという選択肢のない俺は囚人さながらの足取りで待ち合わせ場所である公園まで向かう。

幽霊が見えてしまう目、それを何とかして欲しいのは本当だ。だけど、相手は生意気とは言え、一年生。俺が言う事を聞く必要はない筈だ。それでも何故か足立には逆らえないと思い込んでしまっている。どうしてだ。

ジーンズに黒っぽいパーカーを着込んだ足立が俺を見てベンチから立つ。


「何か分かりましたか」


森から聞いた花子さんの話をすると、何故か冷ややかな視線が返って来る。


「何だよ」

「何度も言いますが、昨日の幽霊は佐倉小花とは別人だと結論を出しましたよね」

「ああ」

「だったら、どうして佐倉小花について調べないんですか」

「いや、何て言うか……ほら、関係あるかも知れないし」


モゴモゴと言い訳すると、「もういいです」と足立が溜め息をつく。


「収穫はなかったと言う事ですね。だったら、さっさと旧校舎に行きましょう」


短気だ。ビックリするぐらい気が短い。

しかも言うと同時に歩き出したよ、この子。

いってらっしゃーいって見送ってしまえたらいいのだが、そうは問屋が降ろさない。

足立の右手はガッチリの俺の左腕を掴んでいる。ああ、やっぱ行かなきゃダメなのか。

ズルズルと引きずられるようにして学校の前までやって来る。


流石に教師も残っていないらしく、校舎は真っ暗だった。

大胆にも足立が校門を乗り越えようとするので、慌てて引っ張り裏門へと向かう。

風紀なんてやってると、自然と校内の抜け穴に詳しくなってしまう。その一つに案内してやり、無事に侵入を果たす。

さっさと歩き出す足立に従い、コソコソと旧校舎に向かう。


夜空をバックに聳える旧校舎は冗談抜きで怖い。

しかも幽霊がいると分かっているのだから、本気で逃げ出したくなる。まぁ、足立が逃がしてくれないんだけど。


入り口の鍵を外して中に入る。因みに鍵は職員室と生徒会、そして風紀がそれぞれ管理している。俺が持ち出したと知られたら大問題になる。

それが分かっているのかどうか、足立は平然とした様子で廊下を進み階段へと向かう。


やっぱり二階に行くらしい。

この前みたいに花子さんが出て来たらどうするんだ。

かと言って、ここで置いてけぼりを食ったら失神する自信がある。

慌てて追い掛け、無意識に足立の手を掴む。

それに驚いたのか、足立が足を止め振り返る。僅かな明かりしかないが、それでも足立がバカにしたような笑いを浮かべているのが分かる。


ええ、どうせ俺はビビリですよ。

半ば開き直ってギュッと握りしめるが、振り払われることはなかった。

夜の学校で男が二人きり、手を繋いでいる。

冷静に考えたら寒いことこの上ないが、この状況で冷静な判断なんかできる筈もない。

こわごわ階段をのぼると、どこからかミシッと音がする。


「っ!」


何でもない、きっと何でもないんだ。旧校舎は木造だから何かの拍子にどこかが軋むぐらい普通だ。もしかしたら俺たちの足音かも知れないし!


必死にそう言い聞かせていると、今度は頭上からミシッと音が聞こえる。


ギャー!

もう無理、本当に無理!

帰ろう、今すぐ帰ろう。そして忘れてしまいたい!!


パニックを起こして足立の手をグイグイ引っ張る。それが痛かったのか、邪険に振り払われてしまう。


「ちょっと落ち着いて下さい」


不愉快そうに言い捨てられて俺は涙目だ。

来たくて来た訳じゃないのに、この仕打ち。鬼か、お前は。そんなんじゃ女子にモテないぞ。

言い返そうと口を開き掛けるが、それより早く足立が「静かに」と言う。

何だろうかと黙り込む。すると、どこからか人の声……いや、泣き声が聞こえて来る。


辛そうに時々しゃくり上げる声は、聞いているこちらが悲しくなりそうだ。


「やっぱり二階ですね」

「は……はは花子さんか?」

落ち着いた声で呟く足立に吃りながら問い返す。だが、「いえ」と素っ気ない。


「行ってみましょう」


まだ知り合って数日だけど、本当にこいつのメンタルはどうなってるんだと疑問に思う。

だって、この状況で啜り泣きが聞こえてるって言うのに、この動じなさ。異常だろ。

俺が逃げるとでも思ったのか、今度は足立から手を繋いで来る。

絶対に離すものかとぎゅうっと握ると、うんざりしたように足立が言う。


「汗ばんでて気持ち悪いんですが」

「こんなの緊張して当然だ!」

「はいはい」


どうでも良さそうな返事をしながら階段をのぼる。先ほどよりも声がクリアになった。


「あ、いた」


足立の言う通り、廊下の先で踞る人影が見える。

身体を丸めるようにして座り込んだその人影はチェックのプリーツスカートを履いていた。

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