勇者の末裔
私の名はユーシス。世界の終焉を救った勇者の末裔だ。
千年の昔、魔王が世界を滅ぼしかけたとき、勇者アリーシャが立ち上がり、魔王の野望を打ち砕いた。
魔王はその最後に『我が身は滅びた。だが、力を蓄え、千年の後、再び世界を滅ぼすために蘇るであろう』そう言い残して消えていった。
そして、それは勇者の伝説として語り継がれていった。
私は村で農家の子として生まれた。
父はすでに他界しており、母と二人暮らしだった。
母は私が物心つく前から「お前は勇者の末裔。いつか世界の危機が訪れたときには、その身を投げ出さねばならぬ」とことあるごとに言い聞かせていた。
私が15の春、王都が魔物によって襲われた。
千年の時を経て、魔王が復活したのだ。
王都は炎上し、人々は方々へと逃げ延びた。
王都から逃げ延びた人々の一部は、私の住む村へもやってきた。
「魔王はこの世界を焼き尽くすと言っておった」
彼らは魔王の恐ろしさを口々に語った。
私は、勇者の末裔として立ち上がるのは今だと決心し、家を出る。
母は私のために装備一式を用意してくれた。見送る母の着るものは、それまでとは違って粗末なものへと変わっていた。金策で相当な無理をしたのだろう。
その母の想いに応えるため、私は戦いに明け暮れた。
魔王の手下である魔物を倒し、倒し、倒し、そして、ついに魔王の住む魔王城へと辿り着いた。
城門の前には魔王配下の見るからに屈強な魔物がいた。
私は気付かれないように気配を消して近づく。
だが、私の思惑とは裏腹に、周囲はざわめいていた。
城門を目の前にして、魔王配下の魔物が手にしているものに気付く。
<魔王討伐の勇者さま、こちらが最後尾です>
魔物が手にしていたもの。それは最後尾札だった。
見ると、城門から城へと続く通路には、装備で身を固めた勇者らしき人物が長蛇の列をなしていた。
私は最後尾札を持った魔物に近づき話しかける。
「これはどういうことだ?」
「千年に一度の魔王復活と言うことで、勇者の末裔さんが大挙して押し寄せてきたんですわ。まぁ、千年も経てば勇者ゆかりの人物なんて、雨後の竹の子並みにいますでっしゃろなぁ。全員いっぺんにっていうのは勇者さんも困るやろ、と言うことで順番待ちしてもらってるんですわ」
魔物は同じ質問に何度も答えてうんざり、といった風だった。
――仕方がない。
私は列の最後尾に並ぶ。そうこうしている内に列は前へと進んでいく。そして私の後ろにも、それに負けないくらいの勢いで列が形成されていく。
どのくらい待っただろうか。
やっと魔王のいる玉座の間へと繋がる扉が見えてきた。
――もうすぐだ。
私は緩みきった気持ちを奮い立たせ、全身に緊張を与える。
ようやく、次が私の番というところで、列を整理していた魔物が、
「すみません。魔王が倒されてしまいました。今回は終了で~すっ」
大きな声を張り上げる。
後方からは勇者の罵声。
「魔王やってるってレベルじゃねー」とか「こっちは借金してまで来たんだから何とかしろよ」といった声が飛び交う、まさに阿鼻叫喚の図が展開された。
だが、魔王が倒されてしまっては仕方がない。
私は他の勇者同様、ガックリと肩を落とし、魔王城の城門をくぐった。
魔物が魔王城を後にする勇者に声をかける。
「ほな、また、千年後」
良くある話(短編的に)