表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
個人的要望の通らない日々  作者: 北松文庫
三大欲求さえ通らない日々
8/31

8.死にもの狂いの逃走

 空から女の子が降ってきた。


 そんな光景で驚いているようでは、この世界の真実には近づけない。そうだよ、こんなの当たり前のことだ。だって女の子だぜ。プリ○ュアに憧れるんだ。

 空を飛ぶくらい朝飯前さ。



 そう自分に言い聞かせて落ち着こうとするが、そこまでいくとただの偏見だ。


 扇状の前に現れた少女。


 ふさっとしたツインテール。浴衣のような服は、片側が水玉、片側が無地のもの。


 不思議な目。


 どことなく姉に似ている。デジャブを感じた。


 よく見れば棒つきキャンディーをくわえていて、右手に車を持っていた。


 前者はどうでもいいとして、とにかく車を持っていたのだ。

 

 それでも自転車のスピードを落とすわけにはいかない。むしろ立ち上がり立ち漕ぎで威嚇する。

 

 

 おいおい。それ一トンはあるだろ! ええと。今のウェイトリフティング世界記録が、男子トータルで四百七十なんぼで、その片方が二百六十・・・。


 

 思考速度が、いまだかつて類を見ない程に加速している扇状に、少女が狙いを定める。


 「止まらないなら・・・」


 くわえていたキャンディーを手に取り、構える。


 「天誅―――――!!!」


 投擲(とうてき)してきた。



 !!!!


 彼女の投げたキャンディーが前輪に上手く絡まり、ストッパーの役目をして自転車を止める。俺は急に止まった自転車に、体を投げ飛ばされた。


 宙を体が舞う感覚に恐怖し、頭が真っ白になった。


 キャンディーも武器かよ。


 頭を抱えて地面に落ちた後、すぐに起き上がって少女から逃げるように全力で駆け出した。吹き出るアドレナリンにより、痛みは感じない。


 一拍置いて、後ろから爆音と衝撃が伝わる。振り返らなくとも分かる。あの車が降り下ろされたのだ。飛び散るガラスやひしゃげる鉄の音が、聞こえる。


 あの場にいたらどうなったんだろう。そう思うと今にも足が(すく)みそうになる。


 俺は歯を食い縛って走り続けた。



 それが悪かった。


 彼女をやる気にさせた。



 『逃げるようなら殺せ』


 

 彼女は、そう上から命令されていた。車を握り直して、クラウチングスタートからの加速。そして加速ですぐさま追い付いた。跳躍。


 少女は叫ぶ、


 「ストロングアーム! カークラッシュ!!」


 ださっ。


 その手を振り上げて、今にもさっきと同じように降り下ろしてきそうだ。少女は扇状を睨む。



 ああ駄目だ。死んじゃう。一瞬でそう思った。


 だってもう間に合わない。こいつには何いっても通じなさそうだ。何しても助かんない。


 

 そう頭で理解すると、日常に戻るのが、彼の生き方。姉とのやり取りが再開する。


 「いや、そんな攻撃止めろよ。何時だと思ってんだ」


 そう言った、それで助かった。少女はなにもすることなく着地する。

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ