6.ハッカーは足跡を辿られないのが絶対条件
今回は長くなりました
姉ちゃんが寝るまでの少しの間。添い寝をしていた。
口止め料として隣で共に寝ることを強いられて、十分。
結局、なんで俺の部屋に来たのかは分からずじまいだが、これでいい。厄介事は少ないに限る。
姉ちゃんを起こさないように蒲団から出て、自室に戻る。途中聞こえた寝言は、聞こえなかったものとする。
「んっ、和美。・・・大好き・・・」
おっと、聞こえてないよ。姉ちゃん。
× × ×
部屋に戻ると、もうすでに眠気は覚めていた。無理にでも眠りに付くことも出来たのだが、ハッキングを続ける事にする。
パソコンを途中で落としたので、ハッキングはやり直しだが、どうせ何も分かっちゃいなかった。なのでなにも問題ない。
・・・だからなにも解けてないから問題なんだって。
時計で、今の時刻を確認する。
一時か。
作業を再開して、キーボードから打ち込み続けた。何度も見た画面と格闘する。
なぜこうも長い間ハッキングをかけてバレないのか、それは不安要素でもあったけど、それで中止できるなら、元々こんなことしない。
俺はあの日の光景とトラウマにずっと縛られている。
あの事件の真相と謎の人物を突き止めないと、どこにも進めない。
信条育にも胸を張れない。
俺は、あいつを、救えるようになれと、なると約束したんだ。約束相手が死んだって守るものは守る。
よし、後三十分は頑張るぞ。
そう思ったところで気が付いた。
一時。
あれ? さっきも一時だったよな。姉ちゃんが来る前も。なのにあれから一分も経っていない。時計が壊れたようにも、電池切れしたようにも見えない。切れたら写んないし。
でもまあ壊れたんだろ。
そう折り合いをつけて作業に戻る。
もう少し踏みいれば、携帯も何もかも電子機械が動作不良を起こしていることに気付けたかもしれないのに。
壁に時計がかかっていれば確認したのだが、生憎かかっておらず、無いものは仕方ない。
携帯で調べればいいにも関わらず、それを思いつかなかったのは、扇状和美の生き方そのものと、パソコンに気を取られたからだ。
それは気は取られるだろう。
半年びくともしなかった画面が、変化を見せたのだから。
ふと目を画面に向けると、ロックが開いていた。
「え、まじかよ」
あまりの突然の出来事に、扇状は思わず驚いた。いや、開けたのは自分であるはずなのだが。
今まで苦戦しておきながら、『こんなに簡単に開いていいものなのかよ』と、不安になる。
罠か?
この組織が俺を罠にはめた所でなんになるのかという話だが、情報を盗み見ようとした時点で、目はつけられるだろう。
問題はいつ気付かれたかだ。
しかし、たとえ罠であったとしても、もう戻れない。この先に進まなければ、これまでのハッキングは意味をなさなくなる。
ゆっくり、マウスを握る。
× × ×
あまり長居は出来ないだろうと、急いで目当ての情報を探す。
あの日揉み消された真実。
それを探して手当たり次第にワードを打ち込む。画面を流し読む。
スクロールし続け、やっとそれらしいものを見つける。
急かす心を落ち着かせながら、その一文を読む。
『『『 扇状和美くん。見てるな 』』』
戦慄した。
その一文で。
いったいどこから気付かれていた?
いや、それより今は内容を――――。
『『『 今君の家に向かっているよ 』』』
!!!!
今、この文は今書き足されたぞ。
完全にこっちを把握されている。
サイトの閲覧者をカウントするくらい今のコンピューターでは簡単だが。これは、そんなレベルじゃない。
監視されている?
そのレベルだ。どうやって。
――――ここで扇状少年の思考回路では、いくつかの選択肢を導きだしていた。
家に残る。家を出る。
誰かに相談する。
そうして考えている間にも組織は接近している。
しかしまだ考える。
重度のイタズラ。サイト自体が偽物。警察に連絡。家族ごと逃走。
そして辿り着く。
どうやら今からこちらに来るらしい組織が、自分の住まいの近くに滞在しているはずはない。そうだとするならば、かなり前から目をつけられていたことになる。
ならばある程度の猶予はある。
家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから距離を取る。
家に来られると困るのでサイトに逃げることをわざわざ書き込んだ。これで信じるかは少々不安だが。
家族には書き置きで、旅行にでると知らせておく。
高校の土曜補習は休もう。
強制だが成績は落ちないと言っていたし。評価は落ちるだろうが。
背に腹は替えられん。
県をまたぐ最低限の準備をすべく、パソコンをシャットアウトした。
疲れた。