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個人的要望の通らない日々  作者: 北松文庫
三大欲求さえ通らない日々
5/31

5.茶番劇

茶番が終わらない、話が進まない。死活問題ですね。

 普通に流されることとなった俺の痴態談は、パソコンを消すことによって終止符が打たれる。と、いうのが俺の望む結果だが、世界は俺に優しくない。


 「夜中にエロ動画。なるほど」


 「やあ、納得しないで蛍ちゃん」


 「ゴメンね。お姉ちゃん胸大きくなくて。ゴメンね」


 「なんか、その。あの、別に・・・」


 「お姉ちゃんにも。いや、妹の私にもその動画。見せて」


 「バカだろ」


 置いておくんじゃなかったのかよ。誰が姉と姉もののエロ動画見るかよ。そんな地獄みたいな時間耐えれるかって。羞恥心に殺される。


 そっと、姉ちゃん。蛍ちゃんはパソコンに手を伸ばした。


 「させるかよ」


 俺は腕を掴んでそれを静止した。これ以上危害を加えようとするものなら、力と筋肉とこの二の腕で追い払わせてもらおう。

 自然と腕を握る手に力が入る。


 さあ、どう来る。


 蛍ちゃんは。


 いや、もう姉ちゃんと言ってもいいだろう。


 姉ちゃんはゆっくりと口を開いて、頬を赤く染めながらこう言った。


 「やだ。強引」


 選択肢。


 一、殴る。 二、殴る。 三、殴る。 四、殴る。 五、殴る。


 殴る。


 「痛いっ! ひど! 妹を、お姉ちゃんを、姉妹を殴るなんて!」


 「あ、ごめん。つい」


 「つい!? そんなんでお兄ちゃん弟は妹姉(いもうとあね)を殴ったの!?」


 「い、痛ぁい」


 ホロリと涙が落ちる。


 一滴落ちると、次から次へと涙が零れる。


 もはや殴られた頬の痛みのみではない。心の痛みが彼女を苦しめる。


 ずっと仲の良かったお兄ちゃん弟に、殴られたのだ。はっきり嫌いなんて言わずに、こんな妹姉(いもうとあね)に付き合ってくれてたあのお兄ちゃん弟が。


 殴ったのだ。


 嫌われたのか? そう思うと本当に悲しくなってくる。もう自分では抑えきれない感情が、胸の奥から涌き出てくる。


 この小さい胸から。


 いっそ涌き出てくる感情とともに胸も涌き出て来てくれれば、少しはこの悲しみも紛れ。ないな。


 思わずその場に泣き崩れてしまった。


 「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


 膝から落ちた超痛い。 


   × × ×


 語り手を奪うくらい悲しんでいるこの姉を、ひとまず自室に連れていく事にした。


 「姉ちゃん。抱えるぞ」


 そう宣告して抱える。足と身体を支えて。優しく包むように。


 いわゆるお姫様抱っこだ。


 「和美っ、お兄ちゃん・・・」


 「濡れた顔を拭け。言っとくけど俺の服では・・・」


 ごしごし。ごしごし。ごしごし。


 「・・・」


 「えっへへー。お兄ちゃんのお姫様抱っこだ」


 「今夜はもう寝ろ、美容に良くないぞ」


 「うんっ!」


 子供か。


 


 


  

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