3.夢の国の非公認キャラクター
扇状蛍。姉です。
軽い二度のノックの後、聞き慣れた声がした。
こんな時間にも関わらずに、部屋に訪問してくるとは。
「お兄ちゃん起きてる?」
ベッドから椅子に移動し、待ち構える。
「ああ、起きてるよ。姉ちゃん」
?
返事をすると、扉の向こうにいた人物は。というか姉は、文句を言いながら部屋に入ってきた。
肩くらいまでの髪、前髪は髪止めを片方にしていて、もう片方は普通に分けている。
分け目からは少しピョコピョコと髪の毛が出ている。
側頭部の垂れた犬の耳のような跳ねっ毛が特徴だ。
「もう、蛍ちゃんって呼んでって言ってるのに。お兄ちゃんは頑固だな」
「姉ちゃんがしつこいんだろ。何年言ってんだ」
「小さい頃、妹が良かった。そう言ってたじゃん?」
言ってたっけ、そんなこと。言っていたとしても喧嘩の勢いでだろ。
・・・そんな昔の事を覚えているとは。なにせ俺と姉ちゃんが喧嘩していたのは、だいぶ前のことになる。今は仲良し! (ここ重要)
かなり前。
十年は前じゃないかな。
七歳位か。
なるほど、十年間もの間妹ぶってたのは、そういう意味だったのか。だとすると悪かったな。姉としてはかなりこたえるんじゃないかな。俺だって姉ちゃんに「お兄ちゃんのほうが良かった!」とか言われたら、傷つ・・・かないか。
急に解けた疑問と同時に、今は別に言ってないんだし、姉のままでいいのでは? という疑問も浮かんできた。
俺も姉にお兄ちゃんなんて呼ばれることに納得してないし、友達の前でそう呼ばれた時の――――。あ、これはダメなやつだ。
軽いトラウマだ。「どんなプレイ?」と、真面目に言われた時は殺意が沸いた。
急いで訂正する。
「姉ちゃん、もういいよ。てか止めろ」
「ふっふっふ。しかしもうお兄ちゃんの願いとは別に、私はお兄ちゃんの妹になりたいと。そう思っているのです!!」
「やかましい。何時だと思ってんだ」
いや、そんなキメ顔されても・・・。困るどころではない。
やはり正常な姉じゃないな。
改めてそう思わされた出来事であったが、ハッカーの弟も正常ではないので、なるほど兄妹だなと思わされた。異常しかない。
兄妹?
自然にそう思ってしまった自分に恐怖した。
何だと、十年前から洗脳は始まっていたのか。恐ろしい。距離をとろう。
「まあ、それはそうとしてもだな、こんな時間にどうしたんだ。合法ロリ姉ちゃん」
「合法ロリ姉ちゃん? どういうジャンルだ? それは」
話が逸れる。
「合法ロリなのに姉ちゃん。弟は何歳なんだ?」
「おれが言いたいのはだな、話したいのはそういうことじゃない。なぜ、こんな時間に俺の部屋に来たのかという・・・」
「なあ、お兄ちゃんは逆になんでこんな時間まで起きてたんだ?」
質問を質問で返す。揚げ足の取り合いになるとなぜ気付かないのか。あるいは故意にそうしているのか? だったら普通にムカつくな。
訪ねてきたのに本題に入らない。
まるで勉強をしない勉強会だ。
来ること、会うことの口実のように。
こっちだってそろそろ眠りに付きたいのに。勘弁してくれ。
質問を質問で返してきたのを、質問で返してやろう。
「姉ちゃんこそだよさっきも聞いたけど。わざわざこんな時間を選んで。なんで今まで起きてたの?」
「・・・・・・なんで?」
質問を質問で返してきたのを質問で返したのを、疑問で返してきただと!?
「いや、知るかよ。俺が知っている分けないだろ」
「え、お兄ちゃんならお姉ちゃんのこと大好きだから、なんでも知ってると思って。ほら、パソコンにそう書いてるよ」
お兄ちゃんならお姉ちゃん? どっちが上だよ。
それにパソコン? 顔に書いてるじゃなくて?
× × ×