17.初戦2
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バッチを破いた上着に取り付け、それを野生のタヌキに縛り付ける。
後はそこら辺に隠れておいて、彼女が通りすぎればホテルに戻り、この事を伝える。簡単な作戦だったはずだ。なのになぜだ。
彼女はすぐ近くに立ち止まり、辺りの木をなぎ倒して投擲している。もうすぐ俺が隠れているとこにも来るだろう。
見つかるのも時間の問題だ。
早くここから逃げないといけない。バレないように、こっそりと。
いくら彼女がバカであったとしても、視界に捉えた動く標的を逃す筈はない。今さら説得に応じる筈もない。
深く深呼吸をし、落ち着くように自分に言い聞かせる。
「大丈夫」
「大丈夫じゃないよ。扇状さん」
走った。
それはメロスのように。韋駄天のように。そして叫んだ。
「ふっざけるなああああああああ!!!!」
走った。走った。走った。
もつれる足をものともせず、切れる息すら気に止めず。ただ声の主から一目散に逃げた。
元々大した足じゃない。そんなに遠くへは行っていないはず。しかし、それは同時に、逃げ足の遅さも示していた。
「ふ、ふふ、ふふふ。ふふふ、ふふ。逃げれるわけ、ないじゃん」
古乃華は、数歩の間にすぐそこまで迫って、拳を繰り出す。
扇状は即座に身を翻して木に隠れるが、拳はすれすれのところで止まったは良いものの、木を貫通する。腕を引っこ抜く前に逃げよう。扇状はまた走った。
山道は思った以上にキツいと、改めて思い知らされるが、立ち止まるわけにはいかない。止まると死ぬ。早くあのホテルに。
帰りたい。ホテルに、家に!!
「うおおおおおおおっ、があっ!!」
こけた。
「ふふ。あなたの強運もここまでですね」
追い付いた古乃華は、俺を見下ろしながらも、不適に笑う。
「あっはっはっはっ、ふふ、ふふふ、あはははははは。プーックスクス。ははははははははは」
「笑いすぎだろ」
なんかここまで笑われると腹立つ。蹴ったろかこいつ。今から俺を殺すと言うのにこの態度はけしからんな。躊躇をしろ。躊躇を。
正義の味方なのか悪の組織なのか。こいつを入れたのは人選ミスだろうと思う。
「古乃華。しゃがんで」
「はい? なんですか?」
「ほら、後ろに蜂が」
「え!? 蜂!?」
ご丁寧にしゃがみ、なおかつ後ろを振り向いてくれたナイスガールの顎に、思い切り下から蹴りを入れる。深い入り方で、俺の脚力でも後ろに吹き飛んで地面に倒れ混み、古乃華は気絶する。
「嘘だろ・・・」
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