13.誰もがそれぞれ主人公
最近一話が長くなってる気がする。
× × ×
そろそろ章変わりというのに、大事件が起きた。
俺にとっては、結局。目の前でひとが一人死んだだけの大事件だが、古乃華明所にとっては、人生を変える大事件だった。
塞翁正人。彼は古乃華の命の恩人。そして親代わりだそうだ。だったそうだ。
小さい頃。現在十二歳の彼女からは五年前。両親を事故で無くしたらしい。
そんなこと、世間ではありふれていて、目立つ事件ではなかった。
彼女の親の事件が数分のうちに終わり、そこから結婚騒動やら、芸能界引退やら。色んなニュースが流れた。
本当に何でもない事件として取り扱われる。
ありふれた事件。
× × ×
私を引き取ったのは、親戚でもなく、知人でもない、見知らぬ男だった。
小さい頃の私は、どうしてこの男が親の変わりになるのか理解出来なかった。
分かったのは、ただでかくて。
優しいということ。
暖かいと感じた。親のように思えた。本当の自分の子みたいに接してくれた。
でも、頭を撫でてくれたり、抱き上げてくれたりはしなかった。
「もうそんな年じゃないだろ」
そう言われても、そうして欲しかった。いなくなったお父さんみたいに。
その理由を知ったのは、教えてくれたのは、十歳の頃だった。
何気なく昔の事を聞いてみると、あっさり答えてくれた。
「俺の手は汚れているからな。そんな手でやすやすと触れれるものか。同じ道を歩んで欲しくない」
でも悪いな、結局この仕事をさせてしまって。何度も組織に抗議したんだが。戦力は多い方がいいって、無理を通されて。
それに、元は戦士を増やす為に・・・悪い、今のは聞かなかったことに・・・。
「いいよ。別に。全然お父さんのこと恨んでなんかいないよ。それにね、私嬉しかったんだ。血は繋がってないけど、お父さんと似てる『力』を使えるようになってさ。ああ、家族だなって思えた。うん、嬉しい」
昼間は女子中学生。夜時々朝ヒーロー。
カッコいいし。ね。
「お前・・・・・・」
家以外で俺をお父さんと呼ぶなよ。はずかしい。
「えー、いいじゃん。いいじゃん」
「駄目だ。仕事と日常を分けるのは、学校に通うことにも大切なことだから、分ける練習だ」
「恥ずかしいだけのくせにー」
は、はは。はははははは。
ねえお父さん。
私のウェディング姿見るまで死なないでよ。
ああ? お前はバカだからなあ。誰かが貰ってくれるかなぁ。
む、仕事で勉強出来ないだけだし!
それだけじゃないだろ。
まあ、いつかいいやつと出会えたときに。幸せにな。
ゆうのはやい!
ねえ、お父さん――――――――――
× × ×
「お、おお。お父さん!!!!」
古乃華はその場に崩れる塞翁を抱えた。
「あ、ああ、あああ、ああああ、あああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
耳をつんざく叫び声をあげながら泣き崩れる。
結局崩れたじゃないか。
俺は間谷さんが、見つめる先を、同じように見つめる。
「敵ですか?」
「ああ。警察の来る気配が一向にないし、誰も騒いでいる様子もない。何者かが『力』を行使して結界のようなものを張ったんだろうが、さっきの銃撃を放ったのもそいつかな?」
この人、塞翁さんが死ぬのになにも揺らいでない?
「取り敢えず射線切るためにどこか隠れよう。駅とか。近いし」
言うが早いか、間谷さんは駅に向かって走る。その足元に、銃弾が撃ち込まれた。
「お父さん、お父さん!」
「バカ、仕事で俺を、そう、呼ぶなって、いっ、ただろ」
塞翁は苦しそうに、途切れ途切れに話す。
「でもっ、お父さん!」
「おい、兄ちゃん」
「俺を兄ちゃんと呼ぶな。俺をそう呼んでいいのは、愛しの妹姉だけだぜ」
「? 何でもいい。こいつを、任せた。守ってく・・・」
「?」
「悪いな、明所。ウェディング、見れねぇどころか、高校の、制服も、見れねえ・・・」
こいつ、今一瞬意識飛んだろ。長くないな。
「行くぞ、古乃華」
「話してぇ! 違った。離してぇ!!」
「行け、明所」
「いやっ! お父さんを置いていけない!!」
「俺は、残りの力全部使って、俺を撃って、きた奴を、殺す。明らかに、害を与え、てくる敵だ」
「そんなの、私が!」
・・・・・・・・・。
長いな。全然撃たれないぞ。間谷さんが戦ってんのか? 遠距離戦得意そうな能力だし。
俺ら相手にされてない。
「うわ、銃と妨害は別だった! 銃の方が厄介だ! 誰か手を貸して」
駅から間谷さんの声が聞こえた。
そんなこと、こっちの女は気にしてないが。
そして俺はなにも出来ないからここにいる。助ける義理ないし。
「てか、行けよ。塞翁さん。最後の力ここで使い果たすぞ。なあ」
「せ、扇状さん! 君に人の心は・・・」
「お前は噛みすぎ。煩いよ」
「っつ!!」
「その、っつ!!。も、うざい。こんな仕事してんのに、同業者死んだからって落ち込んでいる場合かよ」
「でも、お父さんが!」
「塞翁。な。そう言えと言ってたろ。ちなみに俺は人の死を悲しみたいのでこの仕事却下」
後ろで、ゆっくりと立ち上がる塞翁。その目には、再び命の炎的な何かが灯っていた。
「扇状、和美。娘を、頼んだ!」
そう言い残し、脅威的な脚力で、跳躍して行った。
叫ぶな。
生涯をヒーローとして過ごしたその男の最後は。
全く事情を知らない俺にも、かっこよく見えた。
× × ×
個人的に塞翁正人さん。殺したくなかったな。