11.その時を待つ
× × ×
目標はプロ。勝とうとは思わない。でも、こいつとヘリを逃がす時間は稼ぐ。なんとしても。
なんの間違いがあっても殺させねえ、もちろん俺も死なねえ。
死んでも助けるなんて戯れ言だ。絶対死なねえ。
決意を固めて、荷物の中から友人に貰った木刀を取り出す。腰に仕掛けた、ネットで購入したスタンガンを確かめる。
特製煙幕はどこにしまったかな。あいつから目を話さずに荷物を探る。
「何をするつもりかな?」
男が問いかけるが、答えない。
見つけた特製煙幕と、ついでに別の武器も一緒にポケットに仕込んだ。
「僕に勝つ気か? 無理だと思うけどな」
確かに、さっきは勝とうとは思わないとか思ったけど、逃走成功すれば、一応勝ったことになるかな。
一泡吹かせたとして。
吹かされた。
先手を取られてしまった。
腰のスタンガンを逆に利用され、最小の威力ながらも全身に電流が迸る。
「いっ!」
変な声がでた。
急いで腰からスタンガンを外して放り投げた。
「あれ、全然効いてないな。扇状くんそれ使えんの?」
「・・・っつ!」
大丈夫。体は動く。次の手を取らないと、行動の先を読まれ続けると勝てない。
こいつを使うか。
「おいおい、大人は無視するものじゃないぞ。あんまりなめていると・・・」
「煩いですよ、間谷さん。戦闘中に、殺し合いの途中にべらべらとお喋りするもんじゃないです」
マンガやアニメじゃあるまいし。
俺はポケットからそれを取り出した。
「ん? それは?」
「今、お喋りはしないと、そういったじゃないですか」
気づかれる前に男の方にそれを投げる。野球ボール大の、太鼓をぶら下げた熊の人形だ。
人形は地面に落下すると、肩からぶら下がっている太鼓を叩き出す。
トムトムトムトムトムトム。軽快にリズムよく太鼓を叩く。
「?」
男は、なにがなんだか分からないという様子で、じっとぬいぐるみを眺める。
「あ、もしかして爆弾かな。そうだね」
答えない。
「あの太鼓は時限式かな。近づくわけないよね」
「君はどうやら彼女を逃がしたいんだろうけど、彼女にあの組織以外の居場所はないからな」
「無駄だぞ、自分だけ逃げようとしろ。ヒーローのつもりか?」
「君がなにを知りたかったのかを、僕らは知ってる。証拠隠滅に手出しせずに、誰にも何も言わないと約束するなら、君だけは逃がしてあげよう。君が知りたいことも教えよう。君は損しないだろう。どう?」
「そんな簡単に逃がしてくれるなら、最初から襲撃してこないだろ。こんな大規模の事件を起こしてまで追いかけたターゲットを、そんな風に逃がさないだろ。そう思ってるな」
トムトムトムトムトムトムトムトムトムトムトムトム。
「うるさいなあ、なんだあれ。止まれよ」
男の目はあの熊に向く。
× × ×
今だ、あいつが目をそらす瞬間をずっと待っていた。
本命の武器を取り出す。特製煙幕だ。
あの熊は何でもない、ただの時限爆弾だ。