表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
個人的要望の通らない日々  作者: 北松文庫
三大欲求さえ通らない日々
10/31

10.ヒーローとは

 ちょっとこの子大丈夫かな。


 自分で聞いといてなんだが、とても悪いことをしている気がする。


 人のことを聞きすぎというか、危機感どころか注意力も、集中力もなさそうだ。


 「ねぇ、好きな食べ物はなんだい?」


 「そうですね。私は苦いお野菜以外なら、なんでも食べれます」


 予想を遥かに上回るおバカ回答だった。そして好きな食べ物を聞いたのに、食べれるかどうかを答えてきた。どうしようもなく心配になる。


 それと同時に、面白くもなってきた。


 「あ、あれ見て」


 「ん?」


 俺が指差した方向に、彼女は当たり前のように振り向いた。すかさず頬の前に人差し指を構える。


 「何もありゅ・・・」


 「マジかよ・・・。本当に引っ掛かりやがった」


 俺の人差し指は、彼女の右頬に突き刺さる。肉付き薄いのに柔らかいな。


 いや俺何言ってんの? いや。言ってないけど。


 これ普通にかくれんぼとか言えば逃げれるんじゃね? そうだよ。逃げれるじゃん。俺今逃げている途中だったし。・・・。


 あれ、なんでのんびりしてんだ。今は逃走の途中だったんじゃ―――――



 「見つけたよ」


 追跡者は、背後から現れた。


 黒いスーツが不釣り合いなその男は、ゆっくりこちらに歩いてくる。表情は前髪で鼻頭(はながしら)まで隠れている為に、よくわはからないが、うっすら笑っているように見える。


 「うわっ。間谷(まだに)さん・・・」


 少女はその男を見ると、明らかに顔をしかめた。どうやらこのアホの子が嫌がるくらいには悪い人らしい。もしくは、単にいつも怒られているか。


 男は落ち着いたようすで前進してくる。


 「み、見てみて間谷さん。私ターゲット捕まえたよ」


 「そうだな。彼が、君のとんちんかんな言動に呑まれている間に、僕も追いついたよ。でもね・・・」


 急に辺りが静かになった気がした。と、思ったら、周囲の電気がいっせいに消える。停電とかではなさそうだ。月明かりだけが今のこの場所を照らす。


 「組織の情報は、簡単に話していいものじゃあ、ないんだよ。特に、僕らのことを知りたい、そこのハッカーとかには」


 いい終えた瞬間、消えていた街灯が爆発した。雷が落ちたのかと錯覚するくらいの勢いで。まるで、流せる電流の許容範囲を越えたようだ。本当にこの男はそんな力を持っているのか?


 電子機器を操るなんてレベルじゃなくないか? こんなの。


 「きゃあ!!」


 その爆音に、少女は驚いて叫ぶ。

 

 「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい。すみませんでした以後気を付けますからゆるしてくださいごめんなさい」


 急に怯えだす少女。まさか今から殺される訳じゃあるまいし。・・・・・・違うよな。


 いくら情報を話したと言っても、そこまでする必要はない。俺を殺したらすむ話だ。


 そんな簡単に仲間を殺していいのか?



 戸惑う扇状を蚊帳の外に、粛清は続く。


 「ああ、ハッカーの捕獲ついでに、騒ぎを起こしたお前を始末に来たのに、僕も大きい音を出してしまったよ。でもいいか。もう騒ぎになってるし」


 近くでヘリの飛ぶ音がする。最初からこちらに飛んできていたのか。それとも爆音に呼び寄せられたのか。どちらにせよ、危険なことに変わりはない。


 そしてもう逃げれる状況じゃない。


 「ちょうどいいなあ。あのヘリを落として、証拠隠滅しよう。事故を起こした車両にヘリが墜落。お前を車両の方の被害者にしようか」


 言うが早いか、男はヘリの方を向く。


 「三人か、尊い犠牲だな。さよなら」


 「あああ。死にたくないよう・・・」


 彼女の虫の羽音のような小さい叫びが、あの日の光景を思い出させる。


 目の前で焼ける故郷。誰かもわからない焼死体。友達にあげたはずのボールの近くで、あいつとよく似た背丈の死体を見た。


 全てが黒赤色に染まるあの世界で、知ってしまった恐怖。


 皆も、こうして死んでいったんだろうか。


 苦しかったんだろうか。


 「いやぁ、死にたくないよぉ・・・」


 こんな悲痛な叫びをあげていたのだろうか。こんなに苦しそうなのに、相手は手を止めようと思わなかったのか。


 それは――――――――。馬鹿げてる。


 「あんまりだ!!」



 少年の、心が動いた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ