プロローグ 1.幼いあの頃の記憶
略称、『のらない』でいかしてもらいます。
いつもの世界が黒赤色に染まっていた。
自分の家が燃えているのは、なんとも言えない喪失感を与えられた。
もっとも、当時小学五年生。十一歳の少年の頭に、喪失感なんて言葉が浮かんでたとは思えないが。自分の今感じている感覚が、喪失感であると思ってはいないだろうが。
ただ、驚きはしなかっただろう。
なにせ辺り一体が燃えているのだから。
自分が拗ねて森に逃げていた間に、何があったのか。泣きたい気持ちを抑えていた胸に、込み上げてくるものがある。
ここまで来る途中、人らしきものは見た。
人らしきもの。
焦げてたりバラバラだったり、識別が難しかったのが幸い。狂うことなく受け入れて、しっかり泣いた後に捜索を続けた。
しばらく歩いていると、どこかで声がした。
少し躊躇したが、それでも今は誰かと会いたかった。だから小走りで向かったその場所の光景を見て、三割恐怖し、七割安心した。
まるで何かが爆発したかのような爆炎の中心。
そこに少女がいた。
幼馴染みだ。
急いでその子の下へ向かうと、服がかなり燃えていて、はだけていた。
そんな状況で欲情するような変態性を、この少年は持ち合わせてはいなかったが、眺め続けれる訳でもなかった。
急いで上着を脱いで着せる。
そこで少年は誰かが見ている気がした。辺りを見回すと、遠くの方の民家の上に何かが立っていた。
こちらを見ているが何もしてこない。近づきもしない。
ただじっとこちらを見ている。
助けも襲いもしてこないものに構っている状況じゃない。
扇状和美は、自宅跡で拾った母親の携帯電話で警察に連絡する。そのくらいのことは知っていた。子供の冗談だと思われないように、動画を撮ってネットにあげた。
しばらく警察と連絡をしていると、あいつはいなくなっていた。
姿がしっかり確認できなかったのは、果たして距離が空いていたからなのか。それとも別の理由があったのか。
それでも、扇状はあいつを見たことがある気がした。
× × ×
それから六年が過ぎ、高校に進学してからもうすぐ一年。高校二年生となろうとしていた。
深夜というにも関わらず、そいつは起きている。