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朝愛おしく思う俺

いつもより早く起きた。

横には少し変わった姿で俺の腕を抱きながらすやすやと眠る彼女の姿がある。珍しいな、飛鳥よりも早起きなのか、今日は。


「さて、早起きしたからにはやらないと」


朝ごはん作れるかなあ。最近どころかここ数年全部彼女に任せっきりだったから作れるかわかんないや。起こさない程度でくすくすと自分のことで笑いながら彼女の拘束を解いてベッドから出た。


部屋を出てリビングに出ると昨日置いた記憶があるバックを見る。

結局あのままにしちゃったんだっけ、準備もしてないからそこあたりもすぐしないと。じゃないよ、早くやることしないと。


「んーっと」


バックの中をゴソゴソといじって出したのは自分のケータイ。

青いケータイを透明のカバーで覆ったそれを手中に収め画面を操作しロック解除を行った。次に画面をスライドし、音楽アプリをタップする。

別に彼女の声が聞きたいからとかじゃないよ? いつも朝一に聞く彼女の声がないから寂しいとかじゃないからね? ……嘘ですすいません結構寂しいです。なので彼女の曲を聴こうと思った次第だ、彼女の曲を集めたフォルダをスライドして目に留まったのは「永遠に」という題名の曲。

彼女のソロ曲の二番目だったか、すごい好評な曲でCDに関しちゃ初日発売して程なくして完売するほどの人気ぶりである、恐ろしい。

俺の場合は本人から直接貰ったから行列に並ぶことはなかったが白兎は「くそおおおおおお!」とか叫ぶくらいには手に入りずらかったらしい。


「『〜永遠に私を愛して、その声で私を呼んで〜』」


イヤホンから流れる曲と一緒に口にしながら冷蔵庫を覗く。うん、和食作れそうなのないな、最近は洋食がブームなのか? でも少し前肉じゃが食べたしそれはないか。

スクランブルエッグにウィンナー辺り? 手頃に作れそうだしこんなのでいっか、何かしょぼい気もするけど。

善は急げ、早速取り掛かる。卵をとってフライパンに落としつつそれっぽくなった焼けたものを白い皿の上に盛り付けてついでに横で焼いたウィンナーを添えて野菜適当に盛り付けてもう一つ皿とってパンのせて完成。割と上出来と言いたいところだが実際ただ焼いただけである。


「私を惚れさせた事を後悔して、か」


耳に流れるこの曲、実は彼女と出会って約二ヶ月後、ある出来事の後に彼女自ら作曲したものだ。後々聞いてみると「全部貴方への言葉よ?」である。恥ずかしいことこの上ない。

彼女自身も相当恥ずかしかったらしい、作ってる途中で一度やめたらしいが中途半端な歌詞が書かれた紙を彼女の仲間が発見して社長に持って行ったところ見事通ったそうだ。さすがに頭を抱えたのだとか。


「やめて、その曲本当に恥ずかしいんだから」


「君が俺に作った曲だろ? 恥ずかしくても恋人としては嬉しいんだよ」


イヤホンからではなく他から聞こえる彼女の声、本物の彼女の声に微笑しながら自分の作った料理が乗る皿を両手に持つ。


「ほら、顔洗ってきなよ。時間がなくなっちゃうから」


「時間? 何かあったかしら?」


顎に人差し指を当て何かを考えながら洗面台へと向かう彼女を見送った後、できた料理を机に並べていく。

今思えば朝ごはんが昨日とほぼ同じだ、何か他のものにしたいけど生憎今の冷蔵庫を見て俺が思い浮かぶ朝ごはんなんてこれぐらいしかない。でもドラマとかでもこういうのが大体だしいいだろう。

うんうん、と自分で頷きながら椅子に腰掛けると頬杖をついて彼女が来るだろう廊下の先を見る。

俺が彼女の後に起きて洗面台に行って帰ってくると彼女いっつもこんな感じで待ってるが、なるほど、なんだかいい気分。きっと彼女もこんな気分なのだろう。


「そういえば珍しいわね、貴方が先に起きてるなんて」


廊下の奥から歩いてくる飛鳥は不思議そうに俺を見る。

事実だからなんとも言えない。彼女はしっかり者だから大体何時に起きるかを決めて寝てるし、それで起きれるところもまたすごい。

それが理由で彼女のほうが早起きなわけだ。今日も彼女が起きる時間帯に起きてきてるし。


「今日は俺の勝ちって事で」


「なんでかしら、妙に悲しい気分」


ケータイを料理の乗った皿から少し離れた場所に置いて、彼女が座ったのを確認すると目を閉じた。

目を閉じてるからわかんないけど、席に座った彼女もそろそろ目を瞑っただろうと見計らい、口を開く。


「頂きます」


いつも通り最初はパンにいちごジャムを塗りたくって一口。その後にウィンナーを齧る。


「ねえ飛鳥、今日は何時に出る?」


「何時かしら、貴方が七時半でしょう? なら私は七時十五分ってところかしら」


うーん、さっきのは俺が悪いのか、意味が伝わらなかったぽい。

頬を指で数回掻いて、言い直してみる。


「飛鳥、今日何時に出ようか」


その瞬間、彼女が持っていたフォークを机の上に落とす。表情を言葉で表すなら唖然というところか。


「……一緒に、行ってくれるの?」


「これまで時間が少なかったのは事実だしね。できる限り一緒にいれる時間を作ろうと思って。一緒に行くなら早い方が良かったりします」


何時もより早めに出てしまえば一緒に居られる時間なんて大して変わらないけれど、それでも少しは伸びる。

時々彼女、家を先に出るとき寂しそうな表情するし、登校するときは大抵一人だって聞いた。人気者だから通学路歩いていれば勝手に人が寄ってくるってものじゃないらしい。

それならば一緒に行くのもいいだろう。朝一なら誰かに見つかる可能性少ないし、少し遠回りになるが滅多に生徒の通らない道だってある。そこを通って登校すればバレる心配はあまりしなくていいはずだし。


「本当に? 一緒に行ってくれるの?」


「もちろん」


信じられてなさそう。これまでがやり過ぎだったか、反省しないと。


「もっと時間作りたい。今日のお昼学校のどこかで一緒に食べよう。今度の休日一緒にどこかに行こう、君が行きたい場所に。家にいたいならそれでもいいよ? 一緒に何かしよう」


「……遅いわよ、馬鹿」



「準備できた?」


「多分大丈夫、教科書とか入れたと思う」


「ならよしね、私も多分大丈夫」


「なんで多分?」


「秘密よ。さ、行きましょ」


彼女が扉を開けて、二人して外に出る。彼女の手をとって、次に彼女が手を絡めてくる。

続いて己が身をそっと寄せてきて、嬉しくてついつい頬が緩んでしまいそう。


「行ってきます、はいらないのかしら」


「いう相手がいないから大丈夫じゃない?」


「それもそうね、これからは一緒だもの。でもこれだと私が仕事で学校いけないとき貴方一人になっちゃうわ」


「我慢するよそれぐらい」


「私が嫌よ、不公平じゃない」


「何が?」


「こんなにも幸せなのに、貴方がそうじゃないなんて不公平だわ。等価交換って言葉があるじゃない、それよ」


「君の恋人でいられるって時点で俺の方がそうならない?」


「ならない、私とあなたは対等な人間よ。普通の学生で、何も変わらない。貴方が言ったことよ?」


過去の話を持ってこられてかなり恥ずかしくなった。

彼女が言うにあの言葉で救われたらしいが思い返せばすんごい恥ずかしい言葉を言い放っている。若さってすごいなあ、まだ若いけどもっと若くなると平気であんなこと言えるんだから、恐ろしい。


「飛鳥の教室は何するの?」


「お化け屋敷だった気がするわ……私には関係ないけど」


上の空な彼女を見てしまった、と思った。

参加できないの忘れてた、地雷踏んじゃった。


「……いいのよ、今年は楽しみがあるし」


「予定とか入れてるの?」


「入ってるわね、大行事」


さっきとは一転して楽しみにしているのがわかる表情を見せた。

よかった、と思う反面、彼女がそう思える行事なんてあったっけ? と疑問を覚えるも特に模索することもなくすぐ考えるのをやめた。

彼女がそう思えるのならなんだっていいと思えた。他の男がなんやかんやらとかだったらすんごい悲しくなるレベルじゃなくなりそうで怖いけど。


「それはなによりだ」


「ええ」


目を細めて微笑む彼女に合わせて俺も笑っている頃にはすでに学校付近だ。すごいな、彼女と登校するといつも長いと思える道がこんなに短く感じるのか。


「そろそろお別れか」


「名残惜しいわ、とても。でも明日も楽しみ。今日のお昼も」


「それは何よりで」


彼女から手を離そうと動かすもすぐ様に彼女の手に捕まる。本当に名残惜しいらしい。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


今度こそその手を離して、俺は自らの教室へと足を運ぶのだ。


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