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私の悲鳴は教室に鳴り響く

「改めて自己紹介をするよ。僕の名前は春房沙耶、飛鳥と同じフェリアスの一員だ。飛鳥の活躍を見ているなら僕のことも見たことはあるだろう?」


教室前だと落ち着いて話ができないということで裏庭に移動して誰もいないことを確認した上で彼女は自己紹介をした。

春房沙耶、フェリアスのメンバーの一人でまとめ役。性格や趣味がバラバラな三人がこうもうまく噛み合ってるのは彼女のおかげだ。


「春房さん、でいいのかな? えーっと、うちに来た理由は?」


「ん? ああ。実は今日、ちょうど三人の休みが被っててね、どこかに遊びに行こうって言ったら飛鳥には断られたんだけど、なんか様子が変だなあと思ったんだ。それで去年の今頃はこの学校は開校祭だったことを思い出してね、様子を見に来たってわけなんだけど、まさか彼氏を見にくるためだけに変装してくるなんて、思いもしないだろう?」


指差しながら言われた言葉に快は素直に頷いていた。

それは確かに快にも言わずにここにきていることには少しの反省はあるし彼女たちの遊びの誘いを断ったことにも同じく反省ではあるが今回はちゃんとくる理由があっての事だ。あの演技のおかげで快の彼女は白兎君のなかでは雨宮雪という架空の存在、他校の年下の子となった結果私と彼に恋人としての疑惑が浮かんでくることは彼の中ではなくなったはずだ。彼からの話だと白兎君は噂を広めやすいタイプの人だからこれである程度はどうにかなるだろう。


「穂香は来なかったの?」


疑問だった一つ、私たちフェリアスの最後の一人、穂香のことについて聞いてみる。だいたい察しはつくけれど。


「穂香は三人揃わないならって一人で映画三昧するって言ってたよ。今頃借りてきたホラー映画でも見てるんじゃないか?」


「よく見れるわよねあんなの。私見れないわ、ああいうの」


本当にどこが面白いのかしら。何処からともなく現れてバク!ってなった瞬間は鳥肌もので隣に快がいなかったら多分一日寝れなくなる、結構冗談抜きである。


「それにしても、本当に一抜けしていたなんて思わなかったよ。そうやって腕にしがみついて胸まで押し付けて自分のものアピールするレベルまでとはね」


「快は物じゃないわよ、私の人よ」


「なお主張が激しい」


だって事実だもの、快は私の人で私は彼の女だ。それはこの先何があろうと変わりはしない。だいたい人を物呼ばわりする風習は良くないと思う。自分の大切な人なんだから物呼わりなんてしなくても他にもあるでしょうに。


「君も大変だね。名前は……そういえば聞いてなかったね、聞いても?」


「織村快。よろしくね」


「こちらこそ、後で連絡先を教えてくれるとありがたいな。有意義な時間を過ごせそうだ」


「それはいいんだけど、あのー、飛鳥? そろそろ離してもらってもいい?」


「いや、今日一日しがみついてるんだから」


「これが毎回?」


「今回のは多分君のがいるからだと思う」


「僕のせいか」


わかってるならそんなに仲よさそうに話さなくてもいいのに。もう連絡先を交換するの決まっちゃってるし、普通は少しは抵抗するものじゃないかしら。まして相手は初対面なんだから戸惑ってくれたって

いいじゃない。


「嫉妬? いやこの場合は独占欲か、飛鳥がこうまでなるなんて君は一体何をやったんだい?」


「何をやったって、特に何かやったってわけじゃ」


「いっとくけど、僕たちフェリアスは『欲がない』で有名なアイドルグループでね、何もなかったじゃ今の飛鳥は説明できないよ」


「何て言われてもなあ」


人差し指で頬をかく彼は言いづらそうにしている。

私と彼の出会いは特殊だ、そこから仲良くなるのも、私が彼を好きになったのも、普通の恋愛とは言いづらい。快がいいづらそうにしているのはそのせいなのだろう。


「そんなに言いづらそうにされたら僕が悪いみたいになるじゃないか。まあ言いたくなら言わなくてもいいけどさ」


「そうしてくれるとありがたいかな」


「ま、無条件とは言わないけどね」


自らの髪を弄りながら不敵に笑う沙耶。

何故だか快を取られそうな気がしてさらに腕を抱きしめる力を強めてしまう。違うとはわかっていてもなんだかこう、そう、女の勘とでも言うべきものだろうか、それが何かを伝えてきている気がしているのだ。


「僕はこの学校にくるのは初めてでね、それに祭りもやっているだろう? 僕は楽しんでから帰りたいんだ。だから学校案内を頼みたい、どうかな? 悪い相談ではないと思うんだ。飛鳥と居るところから考えるに君はいま休憩中なんだろうし」




「ねえ、貴方絶対ここがこういうのって知ってるわよね? ね?」


「いや? 僕はここに来たいとは思ったけどここがそういうのというのは知らなかったよ」


「なら引き返すって選択肢は選べるんじゃないかしら」


「なにを言ってるんだい? 僕は《《飛鳥の教室》》で遊びたいんだ。引き返すなんてとんでもない」


あたりとは明らかに違う黒く怪しい部屋。その部屋の前で絶賛立ち往生中である。

覚えが正しければ今年一の出来、なんて言われていた気がする。なんでもクラスの子の一人がそういう道をたどっているプロの妹さんなんだとか。その人に指導してもらったり道具を借りたりしてなかなかな出来らしい。現に教室から出てくるカップルやらは青ざめた顔でどこかへとふらふらと帰って行く姿が見受けられる。


「も、もしかしたらバレるかもしれないし」


「君の変装は完璧だ。ここにくるまでに誰一人飛鳥だって気づいていないじゃないか。僕は帽子を深くかぶってメガネしてるだけだけど、まさか居るとは思わないだろ。それに対人においてはバレない自信がある。これだけの条件だ、バレる心配はないよ」


逃げ道も完全封鎖。今日快の燕尾服を見るためだけに気合いを入れすぎた変装が仇となっている。完全に八方塞がりだ。


「さあ行こう、楽しい楽しいお化け屋敷の始まりだ。三人だ、よろしく頼むよ」


「はい、ではこれを持ってください」


そう言われて出されたのは白い紙。それには赤色でなにが書いているかいまいちよくわからないものが書かれている。


「その札を一番奥の墓碑の箱に入れて帰って来てください。それでは」


ガラガラと音を立ててドアが開いた。いつも見ているはずの教室は一変してどこかの墓地になっている。他とは違い音楽がないところがなお恐怖感を駆り立てる。


「か、快? 絶対離れないでね? 約束よ? なにがあっても離れないでね?」


「それはいいんだけど、本当にすごいな。噂どおりクオリティ高そう」


「なおの事楽しみになって来た。穂香ほどではないけど僕も耐性がある方だって自負はあるからね。驚かしてくれるのを楽しみにしよう」


そう言ってスタスタ歩いて行く沙耶に続くように私と快も前進する。

机とかで道を作るのではなくダンボールで作った草むらや小道具を採用することでクオリティの域でいえば下手なお化け屋敷にも引けを取らない高校生でやるには十分なものを感じさせている。


「飛鳥まだなにも起きてないから大丈夫だって。そんなに体震わさなくても」


「わ、私がこういうの苦手って知ってるでしょ!? まさか自分の教室がこんな形でっ……!!!」


そう、それは突然に。

後ろの方から気配がする。さっきまではなかったそれは悪寒となって背中をなぞる。嫌な予感を確かめたくもないのに体はそれを知ろうと首を後ろに回す。しかもいつもより軽い気がしないでもないところがまた辛い。私につられたのか快と沙耶も後ろを振り向いた。その先には。


アニメとかなら規制がかかりそうなほどグロいマスクをつけたゾンビのような何かが立っていた。


「きゃあああああああああああああああああ!!!」


「うわっ、びっくりするなあ。ゾンビじゃなくて飛鳥に」


「飛鳥引っ張らないで! それに突っ走ると次のポイントがっ!」


快の言葉虚しく、次は横から白い布の謎物体。


「きゃあああああああああああああああああ!!!」


「止まって飛鳥さん!? それだとまた二の舞にーー」


「きゃあああああああああああああああああ!!!」


三度目。止まることのない恐怖でもはや前が見えない。


「ちょ、さ、沙耶さん!? 飛鳥を止めーー」


「無理だね、存分に振り回されるといいさ」


「まさか見捨てられた!?」


「うおっと。んー、思っていたよりは怖かったかな。さて目的の墓碑はここっと」


難なく墓碑の前に置かれた木箱の中に積み重なったお札の上に新たなそれを重ねる沙耶。当然私はそんなこと知らずに突っ走っている。


「飛鳥! ここはすぐ抜ける方法として沙耶さんのいるところにさっさと札を入れて脱出することを提案したいんだけど!?」


「さ、沙耶!?」


快に言われた通り顔を振って沙耶を探す。

いた。距離にして約10m、もはやそこにたどり着くまでに他の思考はいらない。


「ちょ、飛ばし過ぎ!?」


快が何かを言っているがこっちはそんなところではないのだ。あとで謝るから許してほしい。

目指す墓碑はすぐそこ、快の手に握られた白い紙を取りつつ、目的地に着いたとほぼ同時に髪を強引に木箱にねじ込んだ。


「あと出口に!……!?」


それは最初に感じたのと同じ感覚。

そうよね、これを置いたからといってもう終わったわけじゃないものね。これが折り返し地点なだけだものね。


「きゃあああああああああああああああああ!!!」


「いや、ちょっとまってえええええええええ!!!」



「本当に騒がしい人たちだったね」


「いやほんと、予想をはるかに上回るカップルだったな。付き添いの美人さんも可哀想というか、途中から見捨ててた気がする」


「ま、あれだけ驚かれたならこっちもやった甲斐があるからいいんだけど」


こんな会話があったことを私は知らない。

後日私が彼らから聞いた時は快への申し訳なさで空を見ながら現実逃避していたり。

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