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たとえ彼女たちでも私を止めることはできず、こうして

 一、二と心の中で数えながらステップを踏む。続いてターン、そして最後は両手を広げ、思いっきりの笑顔。


「意外と疲れるわね、これ」


 開いていた両手を戻してじっと見つめる。

 今練習しているダンスは近々披露する予定の曲の振り付けなわけだが曲が七分といつもの二倍近い量である。

 よってこうなるのは必然といえば必然ではあるけれど、思っていた以上に疲れるし、むずい。

 さっきのところもステップを踏んでのターン、この次につなぐためにターンは少し抑え目でやる必要性があるわけだがその調整が難しいのだ。ここ以外にもあるわけだが私的にはここが一番難しいと感じた。


「そんなこと言いながらもこれまでとは明らかに違うのは、何かあったからかい? 飛鳥」


「今日の飛鳥ちゃん、すごい頑張ってるよね」


「周りから見たら全然わからないだろうけどね。そこのところ、僕は気になるわけだけど、教えてくれないかな?」


「私も気になる」


 そう言って私に近づいてきたのは私の仲間『フェリアス』のメンバーである二人だ。

 きれいな銀色の腰まで届く髪を揺らしてこちらに近づいてきてモデル体型な方は春房沙耶、もう一人のうっとりしていて見るからに天然な方は久遠穂香、かれこれ五年一緒に仕事をこなしてきた大切な仲間だ。


「何もないわ」


「うーん、白を切るつもりだな」


「飛鳥ちゃん、嘘はいけないと思うと思うんだ。ね、沙耶ちゃん」


「と穂香の意見が飛んできてるんだが、それでも教えてくれないのかい?」


「何もないもの、教えろと言われてもいう内容がないんだからしょうがないじゃない」


 長い付き合いというのはうれしいのと同時に案外悲しいものである。

 様子が違うというのは正直に言って本当の事だ。ほかには隠し通せても快とこの二人にはまるわかりらしい。

 今回に関してはただダンスを練習してるだけでこれだ。自分的にはいつも通りの気しかしないのだがばれてしまってる。嬉しいような、悲しいような、いろんな感情が体の中を渦巻く今日この頃だ。


「第一、仮に私にそういうことがあってあなたたちが知ってどうするのよ」


「仮に彼氏ができたっていうんなら僕たちの中で一抜けかあ、ってなるぐらい?」


「ほんと!? 今度会わせて飛鳥ちゃ、いたっ!? なんで叩くの沙耶ちゃん!」


「実話じゃないのにはしゃぐのはよくないよ、第一今何時だと思ってるんだが」


「完全防音って有能だよねえ」


「完全防音だからって声出していいわけじゃないと思うわ」


 このトレーニングルームはいろいろとお金をかけている場所だ。

 部屋の入り口から向かって右側は全面ガラス張り、更には先ほど言った防音対策、使うことはまあほとんどないだろうにおかれている小道具、まさかの隣にはシャワールームもあったりする。私たちしか使わないというのにこんなに設備を付けてもらったのを知ったときは三人して目をそらした覚えがある。本当に笑えなかった。苦笑いを通り越した現実逃避である。


「そんなことより飛鳥ちゃん! ほんと!?」


「なにが?」


「恋人! 彼氏さんがいるって話!」


 落ち着け、落ち着くのよ渦宮飛鳥、まだばれてないわ。まだいける。


「いないわよ」


「飛鳥ちゃん、普通にモテそうなのにね」


「それをいったら穂香も沙耶もでしょ?」


「僕は何というか、モテるって感じじゃないと思うんだけどな。学校でも男子とはしゃべらないし。モテる人間って毎日とは言わなくても週一か二ぐらいで告白されてるイメージがある」


「あ、分かる。わかるよ沙耶ちゃん」


「二次元とかはそういうものなんでしょうけど、現実で起きるとは思えないのよねそれ」


 いったいどれだけの人間が一人に恋するんだ、って話だ。それにそれは外見がいいだの性格いいだの外だけしか見てない人間の話だろう。私はそういうのは好きになれない。

 快と時々そういうドラマやらアニメを見るのだけどそういうのを見た途端ぷつっとテレビを切ってしまうのだ。意志ではなく体が勝手に、もはや体そのものの拒絶反応である。本当に私は恵まれているということだ。


「いろいろと盛れるというか、作者の願望も入ってるだろうからね。最近のラノベ? はハーレムもの多いよね。そういうことだと思うな。僕はああいうの好かないから手は出さないけど」


「私早々にあきらめちゃいそう。他の子に叶えて欲しいって考えちゃうと思う」


「穂香は諦めても次の日にはもう元気そうよね」


「なんでだろ、心ない人間みたいな事言われてる気がする」


「まさか、褒め言葉だと思うよ。いや、褒め言葉だね」


「なんでか別の意味に聞こえなくも無いところが辛い」


「沙耶の言う通り褒め言葉なのだけど、不満かしら?」


「飛鳥ちゃんのそういう表情は卑怯だと思うの……!」


「飛鳥のキョトン顏は本当に貴重だしね」


「それをこの何気無い会話内で出させる事が出来た私実はすごいんじゃ……?」


「今度は本当の褒め言葉を送るよ。すごい穂香」


「やった嬉し悲しい!」


 なんとも言えない表情を浮かべる穂香とそれを呆れたように見る沙耶を前に首を傾げている私がいたりする。

 快は特にそういう事は言わないのだが、そんなに珍しいのだろうか。自覚があるわけでも無いので良くわからない。


「そろそろ時間だし、着替えて終わろうか」


 部屋の壁の上部に設置された時計を確認しながら沙耶は言う。

 今日は少し頑張りすぎたのとおしゃべりがすぎたようで時計は予定の時間手前にまで至っていた。首に下げたタオルで額にうっすらと浮かぶ汗を拭いて一息吐く。


「この分だともうちょっとで出来そうかしら」


「うーん、どうだろ。今回の振り付けは以外と難しいというか、小難しいの方が表現はあってるかな? からまだかかる気がするな」


「やれるって思わなきゃやれるものもやれないよ」


「「貴方(君)はダンス上手いからでしょ」」


「上手いってだけで生きてけるほどこの世界はできてないよ!?」


「穂香は努力もちゃんとしてるからなにも言えないのよね」


「そ、その分飛鳥ちゃんは歌上手いでしょ!?」


「歌よりもダンスの方がミスって目立つ気がするの」


「あ、わかる。僕の見る限り穂香がミスした事無いからわからないと思うけど」


「二人もミスしてないよね!? 私二人がミスしてるとこみた事無いよ!? 付き合い五年で!」


「気のせいじゃ無いかしら」


「飛鳥と同文だね」


「私だけぼっち!? ひどい!」


 勿論ミスしないようにとは努力している。この仕事をしている以上は当然の心がけだと思うし、やるからには全力が私の信条である。穂香もそんな感じの考えで特にダンスへの熱意は自他共に認めるレベルでフェリアス一のダンサーと言っても過言ではないと思えるぐらいだ。なんというか、穂香がいるだけでライブとかでも安心して踊れるというか、引っ張ってくれるイメージがある。センターとしてどうかと思うかもしれないがフェリアスの場合センターなんて称号は飾りで全員が一丸になってのフェリアスなので気にしたことはない。これに関しては他のアイドルたちも同じだと思うのだが、実際のところ大した交流とかはないので良くわからないというか相手が自分と同じ女という事からそういうのはよく読めない。


「それはそうと二人は明日休日だったかな?」


「あれはそういう風にしてたからそうじゃないかな」


「私もそうね」


「ならさ、明日は三人で何処かに行かないかい? 最近はどこにも遊びに行けてなかったし、少し遠出でもして羽を伸ばそう」


「ナイスアイディア沙耶ちゃん。遊園地とか行く?」


「水族館っていうのも捨てがたいんだけど……てどうしたんだい? 飛鳥」


 二人で盛り上がろうとしてる中私が微妙な反応をしていることを気付いた沙耶が私に問いかけてくる。

 確かに明日は休みだ。三人の休みがかぶる日なんてそうそうないし、いつもの私なら多分二つ返事で答えていることだろう。

 けれどだめだ、明日は待ちに待った重要で楽しみな日だ。例え親友以上の彼女らの誘いであっても妨げられるものではないのだ。


「私、明日は用があるから」


 私達の学校は、明日から開校祭なのだ。



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