死
夜という私の一番好きな時間が流れていた。音楽は鳴り響いて、背中をぽりぽりなんて掻きながらゆったりと椅子に座っていた。そのままうとうとしていると、勝手に音楽が消えドアをとんとんと叩く音が聞こえた。
はい、と声を出そうにも体がすんとも動かない。蝋人形のように体が固まっている。汗がしたたり落ちる。すると戸が開いた。ドアの先には何もいなく、薄気味の悪さだけが残っていた。奥の明るいはずの廊下は真っ暗でブラックホールみたいに視線を吸い込んだ。すると座っている椅子が動いてドアを通り暗闇に飛び出した。視線の先は真っ暗で度々誰かの声が聞こえる。急に胸の痛みが襲う。
「がん……ば……る」
何か温かみのある、懐かしい声。体を見ると、何も着ていないことに気付いた。着ていないも何も体がさっきと違う。小さい。そして言うことをきかない。
「もう少し。がんばって」
今度は違う声が聞こえた。温かい、何かまた神秘的なことで私は恐怖を忘れた。
明るいところが見えた。すると自分のこれまでのことが何もなかったみたいになくなった。昔のこと、今のこと、はたまた未来のことも何もかもが消えつつあるのがわかる。
「可愛い男の子ですよ」
「おぎゃーおぎゃー」
ああ、どうやら私は死んで生まれたらしい。思わず泣き叫んでしまった。
朝日がちらっと見えた。生かされたのか死んだのか、私は朝日を見ながら眠るようにして消えた。