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3rd World  作者: 桃姫
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08

 授業中、にも関わらず、黒真は、教室にはいなかった。黒真が居るのは生徒会室。正式には、「異世界間同盟学園学生徒会会議室」。生徒会の会議をするために使われる場所だ。しかし、今居るのは、次期生徒会長候補の神楽野宮夜午とその弟の神楽野宮摩申、そして、紫藤黒真だけだ。本来なら、付き添いの生徒会顧問を入れて、そのメンバーで、次期生徒会の勧誘をするのだが、夜午は、顧問を追い出して、「今から個人的な会話があるので待っていて下さい」と告げたのだった。顧問は唖然としていたが、今、彼女の家で起こっている事情をある程度知っていたので、それの関連なのだろうと、おとなしく出ていった。そして、今に至る。


「それで、紫藤黒真君、だったかしら?教えてくれる?何故、貴方が、私の家族の名前を全て知っていたのかを」


 夜午の問いに黒真は、静かにそっと、手紙を差し出した。

 夜午と摩申は、疑りつつも、その手紙を受け取り、開く。そこには、見慣れた、愛しい妹の字でこう書かれていた。


『拝啓、と言う言葉を習ったばかりなので、使いたかったのですが、なにぶん、ならったばっかりなので、わたしには使いこなせそうにありませんでした。

 わたしは、今、「まおう」をやっています。安心してください。べつに悪いことをしているわけではないのです。ただ、お城の人たちが困っていたので、わたしが、力をお貸しすことに決めたのです。

 お城のゆんさんも、さりぃなさんも、ぎゅばすちゃんも、みんないい人なので安心してください。

 夜午お姉さま。いつもわたしにやさしくしてくださってありがとうございます。心配かけてごめんなさい。

 摩申お兄さま。夜午お姉さまと同じで、いつも、わたしのためにいろいろありがとうございます。

 南寅お姉さま。お母様のことでわたしを嫌いなのに、ごめいわくをかけてごめんなさい。しばらく戻れないので、お姉さまにとっては喜ばしいことかもしれませんね。

 鈴子お姉さま。いつも南寅お姉さまを止めてくださって、かんしゃしています。鈴子お姉さまもわたしを嫌っていたのに、南寅お姉さまがわたしにイジワルをしていると、きちんと止めて下さったのは、お姉さまのいいところだと思います。

 卯龍お兄さま。この間までお姉さまだと思っていて、大変申し訳ございませんでした。これからは、きちんとお兄さまと呼びたいと思います。

 巳丑ちゃん。辰朧くん。二人は、わたしのはじめての妹と弟です。これからも頑張ってください。

 未春ちゃん、司戌くん、由亥ちゃん。三人は、三つ子でした。わたしは、三人も一気に妹と弟が増えてうれしかったです。

 お城の人たちの話だと、ぜんにんの「まおう」さんは、一年ほどで、元の世界に帰ったそうなので、わたしもそのくらいで帰れると思います。

 それでは、また会える日まで。――とこやみのせかいで心待ちにしております。

          三鷹丘学園付属小学校五年七組 神楽野宮 羽酉』


 その手紙に目を通し終えた二人は、息を呑んだ。そして、摩申が言う。


「遺書かっ!ってつっこみたくなる内容だが、そこが、また、真面目な羽酉らしい内容だ。どうよ、姉ちゃん」


 摩申の問いに、夜午が答える。


「内容は現実味がないけれど、間違いなく字は、羽酉ちゃんのものだわ。信用できる、と思うわ」


 夜午の答えに納得がいったのか、摩申は、黒真の方を見た。


「紫藤君、だったな。これをどこで?」


 至極当然の質問だが、黒真は、答える気が無かった。それは、黒真の力を隠すためである。


「教えられない」


「教えられない、とはどう言う意味かしら?もしかして、誘拐犯、だとでも言うんじゃないでしょうね?」


 夜午の言葉に、黒真は、「少しならいいか」としぶしぶ話す。


「その手紙の前任の魔王が俺だ」


 その言葉に、夜午は、怪訝に眉根を寄せる。


「魔王、ね。何かの比喩かしら?」


「比喩じゃない、と言っても信じないだろ?」


 黒真の言葉に、夜午は頷く。摩申も同様の反応だった。


「だが、いるんだよ。魔王って存在は。存在する。その上に、必要とされている。安心しろ。役目が終われば、帰ってこれる」


 黒真の実体験に基づいた言葉を鵜呑みにするほど、ファンタジーな性格を二人はしていない。


「じゃあ、あれか?魔王がいるなら、勇者とかもいるのか?」


 摩申の質問に、黒真は、やれやれ、と肩を竦める。


「ああ、いるよ。これで満足か?」


「満足すると思っているのかしら?」


 夜午の鋭い声は、満足していないことを物語っていた。


「いや、思ってなかったが、俺には、魔王がいる、いないの証明のしようがないからな。せいぜい、こんなところか」


 そう言って、指を鳴らす。すると、机上のメモ帳が破裂するように弾けた。


「きゃ」


「うおっ」


 夜午、摩申が驚いた。姉弟ゆえか、似たような反応をする。


「似てるな」


 黒真の感想に、摩申が、不審そうな目で黒真を見た。


「あ?似てないとはよく言われるんだがな」


「いや、動きとかが似てるな」


「そうか、まあ、双子だしな」


 摩申が現実逃避するように、黒真の質問に次々答えた。


「双子?そうなのか。それにしては、似てないもんだな」


 黒真は、二人をジロリと嘗め回すように見た。


「まあ、そんなもんだろ。双子でそっくりな一卵性なんて、滅多にいねぇよ。男女ならなおさら、な」


 摩申の言葉に、「ふぅん」と頷く黒真。


「それで、夜午は、いつまで固まってるんだ?」


「は?……って、姉ちゃん?!しっかりしろ!」


 ずっと固まりっぱなしだった夜午を揺さぶる。


「……ハッ!わ、私は何を……。そう、メモ帳が、バーンって、バラバラって、粉々に、跡形もなく、弾け、弾けた……の?かしら?」


 だんだんと、声が沈んで言った。そして、夜午が次に言ったのは、こんな言葉だった。


「なぁんだ、夢だったのね」


 典型的夢オチと言うやつである。しかし、この場合、夢でないので、使用できない。


「いや、姉ちゃん?!現実から目を背けるな!夢じゃないから!」


 摩申が必死に夜午を揺する。


「いえ、夢よ。現実なんかじゃないわ。摩申こそ現実から目を背けちゃだめよ。叛逆しちゃだめなのよ」


「え?俺が現実逃避してる側?!」


 摩申の驚愕。


「いやいや、実際、ほら、ここにバラけたメモ帳あるんだぞ!姉ちゃん、しっかりしろ!」


 摩申が夜午を現実に引き戻す。


「だって、科力兵器を持ってない人間が、あんなことしたらそれは夢よ」


 夜午は、ありえない、と頑なに主張する。しかし、摩申は、溜息をつきながら言う。


「だから、だろ?」


「へ?」


「科力兵器を持ってないのに、あんなことをできるのが、魔王である証拠ってことだろ?姉ちゃんしっかりしろよ。あれこそ確たる証拠じゃないか」


 暫し黙る夜午。三秒ほどの沈黙。


「何で?何で、羽酉ちゃんを選んだのかしら?」


 その鋭い声は、黒真に投げかけられた疑問のように思えた。


「別に、俺が決めたわけじゃない。俺は俺で、トリアと殴り緒あってる途中でこっちの世界に戻されたしな。アンも、自分が選んでいるんじゃなく、召喚対象は、世界に選ばれる的なことを言ってた」


 かつて聞いたことをそのまま教える。


「後任を自分で決めることはないのか?」


 摩申の言葉に、黒真は、飄々と言う。


「俺も、こっちに帰ってくるために必死だったからな。勇者達がとろとろしてたから、一年もかかっちまったし」


「一年も?!」


 摩申が驚いた。


「驚くことじゃねぇだろ?それに、魔王っつっても、勇者と戦う以外、やることがなくて、暇で暇で仕方ないんだからよ」


「勇者と戦うって言ったって、羽酉ちゃんは、ただの小学生なのよ。そんな子が戦えるのかしら?」


 夜午の言葉に、黒真は、やれやれと肩を竦めながら返す。


「見せただろ、俺の力。あれと同じで、羽酉って子も、それなりの力を得てるはずだぜ?」


 黒真の言葉に、二人は、信じられない、と言う顔をした。


「【地獄に咲く黒き花】って能力だ。【科力】と同等の力を手にできる。かなり強いだろうな。勇者がどのくらいの実力であれ、対等以上に闘えるだろうぜ」


 そもそも、勇者の加護は【礼装】による異常耐性だけなので、肉弾戦になれば、【魔術刻印】で身体能力を遥かに強化された魔王が有利だ。


「そ、そんなこと言っても、羽酉ちゃんは心優しい小学五年生なのよ!」


 わりと手紙に酷いことを書いてあったような気がしたが、と黒真が思う中、二人は、「う~ん」と唸りだす。


「心配だわ。心配すぎるわ」


「いや、それよりも、行方と言うか現状が分かったんだから、今探してるメンツに連絡入れようぜ」


 二人が色々と話すなか、黒真は、何か脳の片隅に、引っかかりがあった。


(世界が繋がってから現れるようになった怪物。眩い光。魔物。アンの力に類似した力。これら全てを繋げると、もしかして。すると、綻び、とか言うやつなのか?)


 黒真の推察は、おおよそ、的を射ていた。


「しかたないかしら。おおよそ不本意ながら、あの子達を呼びましょう」


 夜午が、メールを兄弟姉妹に一斉送信する。


「これでよしっと」


「集まったら、手紙を見せて、大まかな説明をして納得させるか?」


「そうね。それがいいかしら?」


 二人で話し合いを始めたので、黒真は、次期生徒会への勧誘と言う目的が果たされていないと分かっていながらも、もう、二限開始のチャイムが鳴ってしまったを聞いて、こっそり、会議室を後にしたのだった。





 黒真のクラスの二限目は、実戦経験の授業だった。担当は、科力実技担当でもあるセーラ・イスバーンと体育教師で武道の心得のある岸谷(きしたに)晃一郎(こういちろう)だ。二人に加え、今日は、フューゼが見ている。そんな三人の教師の視線を受けながら、十分遅れで、黒真は、部屋に入った。


「紫藤君、遅かったですね。生徒会勧誘にしては、時間がかかりすぎではないですか?」


 フューゼの質問に、黒真は、肩を竦めながら答えた。


「いろいろと詰問されてまして。しかも、なにやら次期会長候補の身内的問題の話になりつつあったので、授業を優先して、こっちにきました」


 黒真の解答に、三人は、顔を見合わせ、黒真を列に並ぶように指示した。そして、話が始まる。


「まず、実戦だが、今日は俺が、【科力】なしの対人戦をしこんでやる。今までの、ぶっ通しの【科力兵器】を振り回すだけの戦闘じゃ、話にならんからな」


 普通の身体能力において、地球とエスサイシアは、大差ない。これがデシスピアなどになってくると、普段から魔物と言う恐怖があるために、鍛える人も多く、少しこちらよりも高いと思われる。ただし、それでもあまり差はない。


「じゃあ、端から順番にかかってこい!」


 岸谷教師の言う端から岸谷教師と対人戦をする。黒真は、遅れてきたため、列の一番後ろだ。


「うおりゃ!」


 エスサイシア出身の生徒が飛び掛っていく。が、岸谷教師の繰り出す拳に、一撃で顎を打ち、倒れてしまう。女子は、それを「うわぁ」と言いた気な顔で見ていた。


「ハッハッハッ!女子もかかって来ていいんだぞ!」


 岸谷教師の余裕の笑み。男子達は、一層燃え上がる。しかし、手も足も出ない。

 そして、黒真の前の生徒が、岸谷教師の拳を、腹にくらい、悶絶。黒真の番となった。


「ハッハッハッ!弱い!弱いぞ!ウォーミングアップにもならん!」


 黒真は思う。確かに、岸谷教師の体術は、速くて重い。だが、避けられないほどではない、と。


「かかって来んのか?だったら俺からいくぞ!」


 岸谷教師の拳。それが、黒真の顎を捉える寸前、黒真は、上体を少し横に逸らした。

――スッ

 ブワッと黒真の前髪が風で上がる。それほどの拳速だということだ。


「ほう、避けるか」


 岸谷教師の教師らしからぬ獰猛な笑みに、黒真は、アルベントサーベルキャットを思い出した。


「ふんぬっ!」


 腹目掛けての、先ほどよりもさらに速い拳。これは、黒真でも避けられない。黒真は、その拳を左手で受け止めた。


「なっ、……に?!」


 流石の岸谷教師も予想外だったらしい。


「これを受け止めただと?面白い!」


 だが、すぐに、猛禽類のような目で、まるで、久々の得物を狙うように、黒真を睨みつけた。それは、もう、殺気と表現しても遜色ない闘気。


「うおおおおおおお!」


 凄まじい勢いで岸谷教師が拳を繰り出してくる。もはや、教師が生徒に教えているのではなく、ただの野試合、いや、もっと酷い言い方をすれば、喧嘩だ。ただの殴り合い。いや、黒真は、殴っていないので、一方的暴力をひたすら避けるだけ。


「どうした!避けているだけでは、俺を倒せんぞ!!」


 叫ぶ岸谷教師。対して黒真は、いたって冷静に、拳を躱す。


「どうしたどうした!!!」


 黒真は、この対峙で一定の法則性を見抜いていた。だから、分かる。次の攻撃が何か。


「横に薙ぐ」


 黒真は、そう呟きながら、予想通りに来た腕を受け止め、そのまま、背負い投げた。

――ズゥン!

 まるで床が揺れるような大きな音がし、岸谷教師が落下した。きちんと受身を取れていたので大丈夫だろう。


「ふぅ。こんなものか」


 黒真の呟きは、大きな拍手にかき消された。一応、言っておくと、黒真はこれでも手加減をしているのだ。


「ハッハッハッハッハッハッ!!」


 急に笑い出す岸谷教師。皆何事かと、拍手が止み、岸谷教師を見る。


「久しぶりに、いい戦いだった!」


 大声で笑いながら言う岸谷教師の顔は、いい笑顔だった。まあ、巌のような顔をした男のいい笑顔は、とっても不気味なのだが。


「貴様、名前はなんと言う?」


 おおよそ、教師の言葉遣いだとは思えないが、黒真は、ぼそりと答えた。


「……紫藤黒真」


 黒真の言葉に、岸谷教師は、もう一度大きく笑った。


「ハッハッハッ!世界とは、いかに狭いものか、よく分かるな!」


 黒真は発言の意図が分からず、首を傾げたが、岸谷教師は、ただ、笑うだけだった。


「さすがでしたよ。紫藤君」


 フューゼの声。声こそ、褒めているようにも、聞こえるが、その目は「手加減したわね」と言っている。まあ、黒真なら、あの岸谷教師の攻撃が顎を捉える前に、躱すのではなく、取り押さえることが可能だったことをフューゼは知っているのだから、その反応も当然と言える。


「凄いね、黒真君」


 龍美も寄ってきて黒真に声をかける。


「龍美か。あんなの、誰だって、やろうと思えばできるだろ?」


「できないよ!」


 黒真の軽口に、龍美は、軽く怒る。あんな真似が、誰でも出来ていたら、怪物だらけだろう。


「ん?そうか?アルスやトリアなら軽くできそうだけどな」


 黒真の口から自分の名前が出たからか、トリアが、黒真のところにやってくる。


「我でも流石に、あそこまで速い動きは、無理だ。貴様のような身体能力を与えられたものならまだしも、私は、万人と変わらぬただの人間だ」


「その言い方だと、まるで俺が人間じゃないように聞こえるんだが……」


 黒真の沈んだ声に、トリアが「にやっ」っとした。


「黒真君は、人間だけど、あそこまで凄いと人間じゃなく見えるってことだよ。もう、家出中に何があったらこんなんになっちゃうの?」


 龍美の疑問を大量に含んだ質問に、黒真は、答えない。


「何もなかったさ。いや、一文無しだったから、バスも電車も乗れないって点では、足腰は鍛えられたかな」


 異世界に、そんな便利な交通網はない。せいぜい馬車だ。まあ、魔王城に居た黒真には、あまり関係がなかったのだが。


「無一文でウロウロしてたの?せめて二束三文くらい持っておこうよ」


 どちらにせよ大差ない。


「それにしても、今の言い振りからすると、貴様、アルス・エル・フェリエの実力を知っているようだったが?」


 トリアの言葉に、黒真は、適当に返す。


「う~ん?まあ、お前との関係に似たような関係だよ」


 その言葉に、トリアは、妙なものでも見る眼で黒真を見た。


「我との関係?」


「そう。まあ、あの時とは、善悪が反対だったがな」


 そんなことを懐かしそうに呟きつつ、黒真は、二限が終わるのを待っていた。


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