24
デシスピア、魔王城前。
そこには、黒真、アン、アイナ、フューゼ、イヴリア、龍美、シェルファ。そして、ジャネックとリュウだった。
「懐かしいな」
リュウが呟く。
「まったくよ」
ジャネックもリュウに同調した。
「さて、と、じゃあ、魔王城に入るか」
黒真の軽い声に、ジャネックとリュウが「うっ」と言葉を詰まらせた。
「どうした?」
「いや、敵の居城に簡単に入るってのは、なんか、なあ」
「まあ、ねぇ」
ジェネックとリュウがうだうだ言っている間に、黒真たちは、魔王城の扉を開けた。
――バァアン!
大きな音と共に扉が開き、轟音が城内に響いた。
「きゃ、きゃあ、な、なな、何事です?!」
サリーナの声が城の入り口で反響する。
「ま、まさか、勇者が攻め、て……?メイド長?メイド長じゃないですか?!ご旅行から戻られたのですか?」
サリーナがアンを見て、聞くが、アンは首を横に振った。
「いえ、一時的な帰宅です」
アンの言葉に、サリーナが肩を落とす。
「そうですか……」
「ええ、そう言えば、今の魔王の様子はどうです?」
アンの疑問に、サリーナが肩を竦めて返す。
「羽酉ちゃんは、頑張っていますよ。でも、子供ですから、いろいろと……」
その実、百年以内には、地球と交流を持たせているのだから、恐いものである。
「さ、サリーナしゃん……サリーナさん、どうかしました?」
羽酉が現れた。アンが召喚した頃と変わらぬあどけない、屈託の無い笑顔。それを見た黒真が、羽酉に呼びかけた。
「お前が、神楽野宮羽酉か?」
黒真の声に羽酉が「ほぇ?」と声を上げた。
「はい、神楽野宮羽酉でしゅ……です」
羽酉の返事に、黒真は、頷いた。黒真は思う。
(しかし、夜午には似てないな……)
夜午とは違い、柔和な笑みを浮かべる羽酉。
「俺は紫藤黒真。お前の前にここで魔王をやっていたんだ」
黒真の言葉に、羽酉が目を見開いた。そこに龍美とフューゼが話に割って入ってきた。
「黒真君。神楽野宮って、夜午次会長の?」
「夜午お姉さまのお知り合いですか?」
羽酉の言葉に龍美が頷いた。
「はい、夜午次会長には大変お世話になっています」
優しく笑いかける龍美。フューゼも話しに加わる。
「でも、神楽野宮さんにはあまり似てないですね」
フューゼの何気ない言葉に、羽酉の表情が微妙に曇った気がした。
「ええ、夜午お姉さまとは、お母様が違うので。前妻の東お母様が亡くなり、再婚なさって、後妻の紅南お母様の第一子がわたしなんれす……なんです」
大事な時まで噛んでしまうのが羽酉である。
「そ、そうだったの。ごめんなさいね」
申し訳ないことを聞いたと、フューゼが謝る。だが、羽酉は首を横に振った。
「気にしないでください。もう、整理が済んでますから」
そう言って笑う。よくできた少女である。子供っぽさが無いわけではない。しかし、どこか人生に諦めが見えている。達観した様子がある。
「羽酉は、魔物と人間が仲良くした方がいいと思っているのか?」
黒真が話題転換に聞いた。
「はい!もちろんでしゅ!……勿論です!」
力強く断言した。
「黒真さんは、違うんですか?」
羽酉は黒真に聞いた。黒真は暫し、考えるようにしてから頭をかいた。
「そうだな。俺は、人間と魔物が仲良くするのには反対しない。むしろ、仲良くやって行くことは大事だと思っている。だけれど、これでも昔、冒険をやっていた身だ。魔物は何匹も殺してきた。魔物は襲ってくるから、と言って殺して言い訳ではない。だが、俺は殺した。だから、あまり、声を大にして、人間と魔物の共存なんて言えないな。人間も魔物を殺していたくせに、何て言われたら、やられるしかないだろ?だけどな、羽酉。お前は、別だ。魔物も人間も大事にできる。お前なら、いつかきっと、この世界と地球を結んで、平和な世界を創ることができると思う。そのときは俺も協力してやるし、こいつらだって協力してくれる。だから、お前は、人間と魔物が仲良く暮らせる世の中を創ってみろよ」
珍しく、黒真が、優しい言葉をかけた。そして羽酉の頭を撫でた。
「夜午か摩申に伝言はあるか?」
「あ、では、元気です、と伝えてください」
「承った」
黒真はそう言うと、リュウとジャネックの方を見る。
「お前等もコイツに協力してやってくれ。じゃあな。アン、帰るぞ。今度こそ、地球へ」
黒真の言葉に、アンは頷いた。
そうして、たった数時間の他世界旅行は終わった。
戻ってきた黒真達を待ち受けるのは、代わり映えの無いあの日々。しかし、それはある日崩れる。黒真が、倒れている女性を見つけたことが切欠に……




