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3rd World  作者: 桃姫
vier
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 アンの言葉に、皆が驚いていた。それは当然だ。異世界を知っているなんて、普通ではない。


「たしかに、時間軸は、元の時間軸に戻っているみたいだけど、地球ではないですね。地球換算時刻で昼の十二時です」


 アイナの言葉に、皆が安堵と落胆の両方を同時に示す。


「どうやら位相差がありすぎてきちんとした位置に戻れなかったみたいです、すみません。時間を移動できるなら次の位相の交差点へ飛べるとは思いますが、私には時間移動の能力は無いので……」


 謝るアン。

 位相がずれたところにある場所は、いずれ交差する。理科の授業で習った交流回路の交流波形を思い浮かべてもらえば分かるだろうか。数本の波形が何度(角度の意味の「度」)かずれて、波形ができている。その波形には交差点がある。それは、波形が時間にそって進んでいるからである。時間を移動できれば、近い位置に別の位相の波形がある。しかし、その時間軸上にある波形は、かなりバラつきが出る。だから、遠すぎるといけないのだ。


「それで、ここを見たことがあるとはどう言う意味だ?」


 黒真がアンに問う。それに対して、アンは、静かに息をついた。そして、手である方向を示す。そこには改造された修道服を着た女性がいた。


「ん?どこかで見たことあるな……」


 金髪に大きな胸をした女性。二十代くらいだ。


「ああ!口悪シスターか!」


 黒真は思い出す。かつてトリアと対峙したときにいた、トリアの仲間にして元勇者のジャネック・イスバーン。賢者とは名ばかりで、実際の素行は割りと悪い方。二十代に見えるが、実は六十代を過ぎている。それは【聖力】ではなく、ただの体質だ。大きな胸は、トリアを比較対象とすると、もっと大きく見えてしまう。シスターの着る修道服は、大幅に改造されており、少々露出が高めだ。


「口悪?確かに彼女は【神遣者】にしては少々派手な格好ですね」


 アイナが同業者と思しきジャネックを見た。黒真は、胡散臭そうな目でジャネックを見て、声をかける。


「よう、口悪シスターさん」


 黒真の声に、ジャネックが不機嫌そうな顔をして黒真の方を見た。そして固まる。レンガ造りの家の前でボーっとしていたジャネックは、完全停止した。


「ま、まま、まま」


 まを連発して発音する。


「誰がママだ」


 黒真が冗談交じりに呟く。


「魔王ぅううううう!え?何で魔王?」


 ジャネックの叫び声に、不機嫌そうな顔のリュウ・マシバが出てきた。


「騒がしいぞ、ジャネック!」


 リュウの騒がしい声が響いた。黒真は軽い感じで挨拶をする。


「よう、武道家君。久しぶりじゃないか」


 きょとんとした表情で黒真を見て、ジャネックを見た。


「おい、ジャネック。これはどう言うことだ?」


「こればっかりは、わっかんない」


 てへっ、と舌を出してウィンクするジャネックをリュウが殴り飛ばした。


「それで?魔王……いや、元魔王様がなんのようだ?」


 リュウが黒真へ問うのだが、黒真は、なんとも言えない様な顔をする。


「俺も何で来たのかは分からねぇんだよな……」


 黒真が沈み気味の声で言った。その後、無理矢理話題を変えるように、黒真が聞いた。


「それよりも今の魔王の様子はどうだ?」


 黒真は自分の後任である神楽野宮羽酉の動行が気になるのだ。


「今の魔王、ね。ありゃ、本当に魔王かよって話題になってるぜ?」


 リュウの言葉に、黒真が疑問符を浮かべる。そこに、蚊帳の外になっていたフューゼやイヴリア、龍美、シェルファが話しに無理やり入ってくる。


「あの、黒真君、ここどこなの?黒真君は、もしかして、知っているの?」


 龍美の言葉に、黒真が頷く。


「ああ、昔、俺はここで魔王をやっていたんだよ。俺がここからいなくなって、まだ数ヶ月ってとこだろ?」


「魔王と言うと、フューゼの話していた、異世界、デシスピアでのことね。と言うことは、ここはデシスピアなのね?」


 イヴリアの問いかけにアンが肯定する。


「ええ、町並みと空から、ここがデシスピアなのは間違いないです」


「で、この方たちは、どなたなのでしょう?」


 珍しく口を開いたシェルファに、黒真が返答する。


「トリアの仲間で、俺と戦った勇者一派だ。俺たちの冒険に置けるポジションにたとえると、こっちの武道家君がスーザック、そっちの口悪シスターがアイナとリュークだ」


 トリアが黒真で、ニムルがヴァーナー(シェルファ)である。


「…………」


 そして、いつもは饒舌なフューゼが対称的に沈黙している。黒真と目が合うと、サッと逸らす。黒真と自分の間に子供がいたことが、今更ながら恥ずかしいのだろう。


「それで、今の魔王が魔王かどうかってどう言うことだ?」


 黒真は、フューゼには話しかけず、リュウに話を戻す。


「ん?ああ、今の魔王は、魔王っぽくないっつーか、ほら、お前は、何もしなかったじゃねぇか」


 確かに黒真は、何もしなかった。それゆえに、魔王城から出なかったから、外の様子も知らない。


「今の魔王は、その、なんつーか、よく動くんだよ」


 よく動く、それは征服にだろうか、と黒真が思うが、その動きは、意外な方向だった。


「魔物と人間の友好に、すんげぇ前向きなんだよ」


 魔物と人間の友好、それは、デシスピアの魔王において、前代未聞の行いだった。


「なんか、今まで八対二だった土地を五対五にして、人間を襲うと罰せられるように、【人間襲っちゃダメです法】が作られたしな」


 名前だけ聞くととても法律に聞こえないというかふざけているように聞こえる法律だが、定めたのが十歳程度の少女なら納得のいく名前である。


「なるほど、人魔友好計画じんまゆうこうけいかくですか……」


 アンが何度か頷いた。


「分からない話ではありませんね。それに今の魔王は、十歳かそこら。全てを友好につなげようとするのも納得です」


 アンの言葉に、リュウとリュウに殴り飛ばされて気を失っていたジャネックが反応する。


「じゅ、十歳、だと……?!今代の魔王は十歳なのか?こ、こんなことを言うのもなんだが、本当に大丈夫なのか?」


 リュウが敵である魔王を心配しだす。


「まあ、大丈夫でしょう。けれど、魔王城の様子も気になりますね」


 アンが、暫し思考をめぐらせ、黒真に提案する。


「黒真様、魔王城に行ってみませんか?」


 黒真は、考えるまでもなく頷いた。


「それでは、【異世界の万魔殿】」


 全員が光に包まれる。そして、消えた。






「……ふぁあ、眠い」


 家から出てきたニムルが家の目を見回すが、ジャネックもリュウもいない。


「どこいったの?まあ、いいか」


 ニムルは家へ戻っていったのだった。


最初の方は書き溜め+説明文の多さに自然と長くなっていたものですが、物語が進むにつれ、ストック不足と説明の不必要さにどんどん本編が短くなっています……。そのあたり、ご理解をいただけるとありがたく思います。

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