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「そう言えば、君のご両親は、今の状況を知っているの?」
紫月に向かって、フューゼが話しかけた。
「父さんも母さんも知らないと思うけど、いや、もしかしたら知ってるかも知れない。昔、やたらドラゴンの話しをされたから、その頃から知ってたんじゃないのか?と思うこともある」
それは、現在目の前で未来の息子がドライグルにいる現状を見ているわけで、知らないことは無いだろう。
そのとき、急に一人の少女がやってきた。漆黒の髪と巫女のような服を着た神秘的な少女。大きな胸は母性を感じさせる。
「紫月君、やっと見つけたよ~」
朗らかに話しかけてきた少女。
「なんだよ、なんか用か?」
紫月の返答にわざとらしく頬を膨らませる。
「もう、仕事放ってなにやってるのぉ?こっちは、紫月君のことをやっと占い終えたのにぃ……」
占い終えた、と言う言葉に、紫月が酷く驚いた顔をした。
「へぇ、やっと終わったのか。それで、どうだったんだ?」
「それがぁ、ねぇ。いろいろと大変なことになってるんだよぉ。紫月君はぁ、随分と前の御子孫さんのぉ、背負う呪いの様なものをぉ、前倒しでぇ、背負っちゃってるんだよぉ~」
語尾が一々鬱陶しい少女の説明に、紫月は首を傾げる。黒真たちは、首を傾げることが無かった。なぜなら紫月がその呪いを受けた原因は黒真なのだから。
「よく調べるとぉ、紫月君のお父さんがぁ、因果を弄って、自分に呪いを集めちゃったから見たいなんだよぉ~?」
その言葉に、紫月の眉が寄った。そして、叫ぶ。
「あのクソオヤジィイイイイイイ!!!!」
激怒した。
「またか、また親父の所為か!あ~、もう、いつもいつも!」
紫月の言葉から、父親への怒りがよく分かった。自分は一体何をしたんだ、と疑問に思った黒真が、紫月に聞いてみる。
「お、おい、お前の父親は一体どんな奴だったんだよ」
「ああ、どんな奴も何も、家にはいつもいないし、そのくせ、親父に用がるって言う政府のお偉いさんや魔王の側近やら勇者の仲間やら科学者やらがいっぱいやってくるんだぜ?氷雨姉がそのたびに対応するんだけど、なかなか帰らないし、話し長いし、無駄にいろいろと用事あるし、国家関係だから俺には全然情報こないし、母さんが、学園から帰ってくれば追い出してくれんだけど、滅多に帰ってこないし、そのくせ氷雨姉にはしょっちゅう会ってるみたいだし」
大量に出る黒真への不満。俺はそんなに放任な親になるのか、と黒真は項垂れた。
「氷雨姉は、父さんに対して甘すぎるんだよ。だから、いつも父さんの仕事を引き受けたりして苦労ばっかだし」
まだなお黒真への不満をたれる紫月に、龍美は、黒真がかわいそうになり別の話題を振った。
「えっと、紫月君は、お姉さんがいるの?」
先ほどから「姉」と呼んでいるので気になって聞いてみたのだ。
「え?ああ、まあ、な。氷雨姉は、ずっと家で俺の世話をしてくれてるんだ。かれこれ、俺ガ生まれてから十七年、ずっと一緒だ」
それは、家族なのだから当然では、と龍美は思ったが、それを口にするほど野暮ではない。
「そう言えば、氷雨姉と撮った写真だけは、生徒手帳に挟みっぱなしだから持ってるんだった」
思い出したように生徒手帳を取り出した。
「あ、『鷹之町第二高校』の生徒なんだ」
生徒手帳の校章を見て、龍美が、懐かしみの声を上げた。鷹之町第二高等学校は、黒真の家から、さほどない距離にある高等学校だ。
「へぇ、知ってるんだな?その制服、同盟学園だろ?」
そんなことを言いながら、二枚の写真を紫月は差し出した。
「今時、プリントした写真って珍しいね。今は、大体、デジタル保存なのに」
龍美が感心しながら写真を眺める。その写真には、二十歳くらいのやや表情の固い綺麗な女性と五歳くらいの紫月が写っていた。
もう一枚の写真にも、二十歳くらいのやや表情の固い綺麗な女性が写っているが、紫月は中学生くらいに見える。
「え?」
龍美は、よく見るが、女性の見た目は全然変わっていなかった。
「えっと、あの、この人が?」
「そう、氷雨姉だ。綺麗だろ」
自慢げに笑う紫月の耳を、巫女服の少女が思いっきり引っ張った。
「しぃ~づぅ~きぃ~くぅ~ん、君もお父さんのこと言えないんじゃなぁ~い?」
笑顔で怒っていた。
「ち、違ぇよ!氷雨姉は、俺の姉であって恋愛対象じゃねぇって!」
巫女服の少女と紫月がもめる中、黒真は、ようやく、己を取り戻した。
「今はこんなことをしてる場合じゃねぇ!!アン!別世界に移るぞ!!」
黒真は叫んだ。アンは、慌てて【異世界の万魔殿】を発動させるのだった。
「あ、あれ、さっきの奴等どこ行ったんだ?」
紫月のそんな声が聞こえたか、聞こえなかった分からないが、黒真たちは、ドライグルから姿を消した。
眩い光と共に、別の世界の光景が眼前に広がる。
レンガ造りの街並み。暗い夜空。
皆、誰もが、第七の異世界に来てしまったのか、と思った。ただ、アンだけは違った。
「ここは、……私は、ここを」
流れる沈黙。
「知っています」




