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フューゼのことを「母さん」と読んだ青年。年の頃は黒真と同じだろうか。フューゼは黒真より少し年上と言うことなので、実際に母子であれば、フューゼは数歳で青年を生んだことになる。それは流石にありえないだろう。幾ら彼女が生死を越えた存在であっても、それは変わらない。
「えっと、わたしが、貴方のお母さんってどう言うことですか?」
フューゼがとりあえず青年に聞いてみた。すると青年は笑った。
「あ~、悪ぃ。勘違いだ」
黒真によく似た謝り方で、青年は謝罪の言葉を述べた。
「母さんによく似てるけど、かなり若いし」
若い、と言う言葉でフューゼがピクリと反応したが、黒真は、あえてそれに触れなかった。
「いや~、吃驚、俺の母さん、フューゼ・クランベリール・シドウって言うんだけどさ」
その言葉で、皆に驚愕が走った。
「今、なんて?」
「え?いや、俺の母さん、フューゼ・クランベリール・シドウって言って、教師やってるんだけど」
そこで、先ほどのアイナの少し先の未来と言う言葉を思い出す。
「は?」
そして、フューゼの口から変な声が漏れた。
「は?!」
その変な声の音量が上がる。
「ええええええええええ?!な、なな、なんですか、それ?!え、え?そ、そそ、それって、わ、わた、わた、わたしと紫藤君が、け、けけ、結婚す、するって、こと、ですかぁ?!そ、そそ、そんな、教師と生徒なのに、そ、そ、そそ、そんなわけ……?!」
あまりにも音量が大きすぎて、周りの人間には何て言っているか聞き取れない。
フューゼが一通り騒ぎ立てた後、ようやく落ち着きを取り戻した。
「それで、何でそっちの姉さんは急に騒ぎ出したんだ?母さん呼ばわりが癪に障ったなら謝るが?」
青年がフューゼに声をかけた。フューゼは慌てて首を横に振った。
「そ、そんなことより、き、君、名前はなんていうんですか?」
フューゼが否定しながら聞いた。まだ、彼が黒真の息子であるという確信はもてないからである。
「俺?俺は、紫藤紫月。紫の藤に紫の月だ」
紫月と名乗る青年。名前、容姿からして、明らかに黒真の親類である。
「そ、そうなんですか。あ、ここがどこだか分かりますか?急にこんなところに来ちゃいまして」
フューゼが不自然にならない程度に、自分達の状況を説明し、この場所の情報を求める。
「あ~、もしかして、あんた等も地球から来たパターンか?大変だな、こんな辺境に飛ばされて……。ここは、龍の世界、ドライグルだ。俺は、今、この世界と地球を繋ぐことを目標に活動してるんだ。あんた等も地球から来たなら分かるだろ?今の地球は、他の世界と繋がることで、交流を得て、進歩を進めている。そこにこの世界も突っ込みたいんだよ」
紫月が途中から自分の目標を語っていたが、聞きたい肝心な、「どこ」と言う情報は得れた。
「龍の世界、ドライグルか」
黒真は龍を見上げながら言う。
「『龍、それは、賢く、聡く、気高い』、か……」
黒真の呟きに、龍は喉を鳴らした。
「そう言えば、その言葉、【竜の墓守】様も言ってたな」
黒真は、そうか、と頷いた。この言葉は、黒真が昔読んだ本に載っていたもので、今時、珍しいくらいの純粋なファンタジーだっただけに、記憶に深く残っていたものだ。黒真の記憶では、四人の姫と四つの神器と四人の悪魔と四つの宝石と一人の青年の物語だった。黒真の関係者なら、黒真がその本を読ましていても不思議はない。
「龍美、その【科力兵器】、もしかしたらこの世界に適しているのかも知れないな」
黒真の言葉に、龍美とイヴリアが首を傾げた。
「どう言うことかしら」
イヴリアが問う。黒真は、推察を疲労した。
「お前の造った【科力兵器】だが、【太陽の剣】にしても【龍滅の剣】にしてもそうだ。例えば、シュリクシアは、日が沈むことなく照り続ける。【太陽の剣】は、最も適していると言える。そして、ドライグルは竜の世界。【龍滅の剣】の能力を発揮できるとしたらこの世界が要点だと思わないか?」
黒真の言葉に、イヴリアはハッとなる。
「そう言う可能性もあるわね。だとしたら、世界は、七つ以上あることになるわね……」
地球、エスサイシア、シュリクシア、デシスピア、レイルシル、ドライグル。すなわち人界、機界、聖界、魔界、妖霊界、龍界。これが現在確認されている異世界である。
「ああ。そう言うことだ」
黒真とイヴリアの話に、紫月が割って入ってきた。
「ん?シュリクシアとデシスピアとエスサイシア、ドライグル以外にも異世界があるってことか?」
紫月の言葉に、黒真は聞いた。
「シュリクシアとデシスピアと言う名前は、どこで聞いた?」
「どこでも何も、歴史の教科書に載ってるじゃねぇか。流石に世界の常識くらい知ってる。最初にエスサイシア、次にシュリクシアとデシスピアが地球と同盟を結んだって。そのときのシュリクシアの勇者とデシスピアの魔王が同盟を申請したって話だったな。特に魔王は、デシスピアで人間からも魔物からも信頼が高かったって言うし……。神楽野宮羽酉っつったっけ?親父は交流があったけど、俺は逢ったことなかったからな……」
黒真の次代の魔王、神楽野宮羽酉。その名を聞いて、アンと黒真が、なるほど、と頷いた。
「うちの親父、ホント手当たりしだいだからな~、色んな女の知り合いいるし……。母さんは浮気の心配はないって言ってたけど、俺はあんま信用できなかったな」
紫月が父親に対する不満をぽろぽろと洩らした。それを聞いて黒真に苛立ちが生じたが、紫月は気づかない。その様子に、皆が噴出しそうになったのだった……。




