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3rd World  作者: 桃姫
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02

 喧騒とする教室。ホームルームの最中とは言え、編入生が来るという珍事に皆が騒ぎ立てるのも無理は無い。しかし、主に騒ぎ立てているのは、エスサイシア出身の男子生徒たちだ。


「編入してきた彼に自己紹介してもらいましょう」


 フューゼが明るい声で言った。それに反して黒真は、暗い。


「えっと、紫藤、黒真です。よろしく」


 その自己紹介に、エスサイシアの男子生徒たちは、舌打ちでもしたそうな顔を浮かべる。エスサイシア至上主義とでも言えばいいのだろうか。エスサイシアの方が偉い。エスサイシアが一番だ。そう主張する人々のことを言う。実際のところ、エスサイシアと地球では、問題の規模が違った。エスサイシアは、他世界に干渉しなくてはならないほどに資源が不足していた。一方、地球は、確かに長期的な目で見れば、危険な事態だったが、それでも後数十年から数百年は保てただろう。だから、どちらかと言えば、地球の方が、貢献度的には高いのだが、技術などを提供してもらっている以上、どちらも対等と言うのが正解だ。

 ただ、そんなことも分からない馬鹿な男子生徒たちは、地球出身の人をあまり快く思わない。


「こ、黒真君!」


 そんな中、一人の女子生徒が声を上げた。黒真は、その女子生徒に見覚えがあった。茶色の髪を片方の耳の上で結ったサイドポニーテイル。胸元にぶら下げられた黄金のネックレス。学園の制服がよく似合った女子生徒。彼女は、黒真と旧知の仲だった。


龍美(たつみ)、か?」


 久しぶりに会った幼なじみに、黒真は、意外そうな顔をした。


「何で黒真君がここに?と言うか、いつ帰ってきたの?」


 黒真が家出したことで交流が途切れていた龍美。立原(たちはら)龍美(たつみ)


「ああ、まあ、色々あってな」


 そう言いながら、黒真は、驚愕に、わなわなと震えている薄い銀髪の女子生徒を見ていた。黒真としては、懐かしき「勇者」を見ていた。


「ええと、彼は、科力適性がAで、異常耐性がEXです。そこのエル・トリアさんと同じです」


 エル・トリア。黒真が見ていた女子生徒である。黒真と彼女の異常耐性が異常に高いのは、同じ祝福を受けた故だ。トリアは、面白いようにわなわなと口を開き続けている。


「ん?どうかしました?エル・トリアさん」


 フューゼの問いかけにも答えない。ただ、見てはいけないもの、見るはずの無いものを見てしまったかのように、目をごしごしと擦る。その様子を尻目に、黒真は、龍美に言った。


蒼華(あおか)の策略でここに来ることになっちまった」


 その一言で、全てを理解したように龍美は頷く。それで分かってしまうのが幼なじみと言うもの。黒真の家の内情を理解しているが故に、黒真が来た理由をなんとなく分かってしまった。ちなみに、蒼華とは黒真の妹の名前である。


「た、大変だったね」


 苦笑いで答える龍美。


「えっと、紫藤君の席は、アルスさんの隣ですね。あの空席の右側に座ってください」


 黒真はスタスタと席に向かう。そんな中、黒真のことを怪訝そうな、それでいて、嫌っているわけではない、エスサイシアの男子生徒たちとは違う目で黒真を見る少女がいた。黒真は、その視線に少女の方を一瞬だけ見る。

 薄い青色の髪。日本で見るとしたら髪を染めた一部の人間くらいだろう。しかし、エスサイシアでは割と一般的な髪色だ。それを肩ほどまで延ばして、そこで切りそろえている。前髪は、眉より少し長いところで適当に切りそろえられている。大きな目と筋の通った鼻。薄白い肌は、まるで人形のようだ。また、背が一般に比べて低そうなのも、人形に見える原因なのだろうか。まあ、今は座っているので、一様に背が低いとは言えないのだが。座高云々以前に、机が少し下げられているのでやはり低いのだろう。

 黒真は、一目見て、そして、どうでもよくなる。少女は、人形のように美しかった。だけれど、黒真は、興味を持たなかった。もっとも、あまりと言う言葉が付属するが。

 黒真が席につくと同時に、始業の鐘がなる。


「えっと、それじゃあ、一限目は、わたしの科力の座学です。紫藤君の編入もありますので、今日は、エスサイシアのことと科力の基礎知識について復習をしていくことにしましょう」


 にっこりと笑みを浮かべてフューゼが言った。黒真は、フューゼの微細動きの変化に違和感を覚えた。昨日よりも、少し動きが鈍い。黒真は、その理由を目を凝らして見て、理解した。


「紫藤君に問題です。科力兵器とは何でしょうか?」


 フューゼが、授業における最も初歩的なことを聞いた。


「科力の内蔵された兵器のこと、だと思います」


 自信なさそうにそう言った。


「そうですねぇ。科力内蔵型の兵器のことです。持っている人も何人かいるですよ」


 そう言ってフューゼがクラスを見渡す。だが、黒真が、言う。


「じゃあ、先生が分解(バラ)して持ってるそれも、科力兵器ですか?」


 その言葉に、フューゼがビクッとなる。教室中が、何を言っているんだ、と言う顔で黒真を見る。しかし、中には頷く生徒もいた。先ほど黒真を見ていた少女とトリアだ。


「やはり、貴様もすぐに見抜いたようだな。ふん。流石は我が怨敵だ」


 トリアは、怨敵と呼称しながらも、黒真に対して恨んだり怒ったりしている様子はあまり見られない。


「嫌ですよぉ~。わたし、持ってませんよ」


「へぇ。その両腕と腰と両足に忍ばせている金属片は武器じゃないのか」


 黒真は適当にそう言った。無論、適当とは、言う様子が適当なのであって、隠し持っている場所は適当でなく、見抜いていた。


「紫藤君。何言ってるんですかぁー。そんなもの持ってませんよ?」


 にこにこと笑うフューゼ。その内心、酷く慌てていた。


(紫藤君って、何者なの。分解した忍刀を見抜くなんて)


 トリアも見抜いているのだが、トリアに関しては、素性が分からないだけあって納得がいく。けれど、紫藤黒真と言う人間に関しては、生まれからこれまで過ごしてきた日々のほとんどが洗い浚い明らかになっている。家出経験があるくらいしか特筆することのない、ただの一般人だ。少なくともフューゼは資料から、そう推察していた。小学校、中学校での運動や勉学の成績も一般的。家柄も、特徴のない普通の家。

 だが、フューゼの隠し持つ忍刀を見抜く辺り、とても一般人とは思えなかった。観察力や聴力に優れていなくてはできない真似だろう。フューゼの挙動の僅かな違和感。金属だと判断したのは、擦れたときの音。だからこそ、フューゼは黒真を一般人と言うカテゴリーから外すことにした。


「まあ、いいですけど。とりあえず、科力兵器について説明しますね」


 そして、フューゼは意識を切り替える。あくまで、教師の自分に。


「科力兵器。その原点は、かなり昔からあったと言われています。そして、そこから、それを機械に組み込むように発展して行ったものが、科力兵器です。昔は、多種多様な科力兵器が作られていたのですが、近年、エスサイシアでは、資源不足により、同等の安くて簡易なものを大量生産することに主軸をおくようになり、昔ほど多くの種類が作られるようなことはなくなりましたです。それでも、いくつか性能の高いものが出来上がり、それを使うために必要なのが『科力適性』と言う、科力兵器をどこまで扱えるかを簡単に表した評価ですね。平均は大体、Bだと言われているです。わたしはAですね。他にも紫藤君とトリアさん、立原さんがA。イヴリアさ……んは、EX+と言う、一番高い値です」


 イヴリアと言う名を呼んだ後、「さん」と言うにしては間と迷いがあった。それと、フューゼの科力適性はEX+だ。


「これだけA以上の人が揃うことは少ないので珍しいことです。エスサイシアの方でもA以上の科力適性を持つ人はそうそう居ませんよぉ~。地球出身の方でも何人か適正が高い人が居るのですから、科力と言うのは、異世界でも共通なのかもしれませんね」


 そんな風に言ってから、フューゼは、話を変える。


「さて、では、エスサイシアについてです。エスサイシアには、この地球とは違い、国と呼ばれる区分けはありません。ですが、ひとつの州、県とも言いますか、それがこの世界で言う国と同じサイズなので県知事が国王みたいなもの、と考えてもらえれば、地球出身の方々はわかりやすいですよね」


 フューゼの感覚で言えば、国や言語がいくつも乱立している地球と言う環境が、不思議しょうがなかった。普通なら、国王の意見、言語の違いや領土問題から戦争が乱立していてもおかしくない。昔戦争があったらしいが、今は、落ち着いていると言うこの現状がフューゼには不思議に思えた。


「統治者と言う呼び方は、あまり好まれないんだけれど、エスサイシアの統治者は、オーディス・エスサイシア様です。彼は、百二十八代目の統治者になりますね」


 日本で言うなら第百二十八代目総理大臣と言ったところだろうか。エスサイシアの歴史の長さが窺える。


「彼の父は、エスサイシアで一番の科学者と謳われるファルセス・ヴィルセム博士ですね。あっ、エスサイシアと言う名は、統治者に贈られる名なので、彼と彼の父は、苗字が違うのです」


 どうやら、エスサイシアは世襲制(せしゅうせい)ではなく、きちんと代替わりごとに統治者の一族が変わるらしい。


「ファルセス・ヴィルセム博士は、今でこそ禁止されていますけれど、危険な命を救うために『科力兵器延命手術かりょくへいきえんめいしゅじゅつ』の第一人者です。これにより救われた命がいくつもあります」


 科力兵器延命手術とは、命の危機に瀕した人間に、科力兵器を手術で入れて、延命することである。しかし、資源不足により、人命を延命できるほどの科力兵器がなくなりつつあったため、禁止されるようになった。


「そんな科学者の息子と言うこともあり、オーディス・エスサイシア様は、統治者に選ばれたのです」


 フューゼは、エスサイシアの説明を、そう締めくくった。


「えっと、では、科力兵器の歴史を辿るデータを配布しますので、個々の机を確認してください」


 机、正確には、机に内蔵されたディスプレイにデータが表示される。どうやら、科力兵器ができたところから順に大まかな画像で歴史を辿っていくようだ。


 黒真にとって、長く、久々に人から教えを請うと言う授業そのものに、懐かしさを感じないでもなかったが、それよりも、授業が大変長く感じ、疲労感が多かった。


「黒真君。授業、どうだった?」


 龍美の問いかけに、黒真は、溜息交じりに言った。


「だるい」


 簡素な一言だった。


「わ、わたしの授業を一言で済まさないでください!」


 憤慨するフューゼ。


「分からないことが多くて大変なんですよ」


 気だるそうに黒真は言う。それに対してフューゼは、笑って答える。


「分からないところがあったら聞きに来てくださいね?」


 そんな風に言うのだった。黒真は、言う。


「じゃあ、ちょっと教えて欲しいことがあるんですけど」


 そう言って黒真は立ち上がる。


「何かな?」


 フューゼは、黒真の意を汲み取るように、殺気を放った。

 その一瞬の殺気に、黒真は、動いていた。動きとしては、フューゼの方が早かったのではないだろうか。しかし、結果として、出来上がったのは、腕を極められ、地に押さえつけられているフューゼだった。

 フューゼは、誰にも見られずに、黒真を脅す自信があった。それに黒真が、堂々と人前でこんな強行をするとは思っていなかったと言う油断もあったのだろう。だからこそ、結果的にフューゼは地に伏せられた。


「なっ。いきなり、何を」


「悪いな。癖だ。殺気を出されると反射的に押さえ込むのが癖になっていた。それにしても、科力、か。なかなかに凄いものだな」


 黒真が周りを見ながら感心する。そして、黒真がフューゼを解放して立ち上がる。


「今のは……」


 フューゼが立ち上がりながら呟く。そして、辺りを見渡すが、フューゼと黒真の先ほどのやり取りがなかったかのように、周りは、普通にしている。

 龍美が少し不思議なものを見たような顔で聞く。


「あ、あれ、フューゼ先生の位置がぶれたような……、って気のせいですよね。気にしないでください」


 フューゼは愕然としていた。幻覚でも見ていたのか、はたまた、黒真が何かしたのか。どちらにせよ、恐ろしい。不思議な体験だった。


「紫藤君。君、科力兵器を所持しているの?」


 フューゼは、静かに黒真に聞いた。黒真は、飄々と答える。


「持ってないですけど?」


 黒真はあっさり答えた。嘘は言っていない。黒真は、科力兵器を所持していない。それどころか、携帯電話すら、使えるものを持っていないほど、今のエスサイシア関係のものを所持していないのだ。


「じゃあ、今のは」


「今の?何のことですか?」


 黒真はとぼける。黒真は、フューゼを試したのだ。その結果、黒真のフューゼに対する評価は、割と高かった。そして、もう一人、高評価を得た人物が居た。薄い青色の髪の少女である。その二人は、唯一、黒真の影響を受けなかったからである。そう、フューゼが影響を受けたのではなく、フューゼは影響を受けなかったから、あのような不思議な体験をしたのだ。

 黒真は、純粋に凄いと評価する。今までに影響を受けなかったのは、黒真が知る限り一人であった。それが、今回二人も現れたのだ。黒真は、科力と言うものの評価を改めた。



         ◇◇◇◇◇◇



 イヴリア・エスサイシア。よく使われる呼称は「イヴリア様」である。エスサイシア出身の人間の多くは、彼女のことを「イヴリア様」と呼んでしまう。しかし、ここは、身分も出身も関係ない、平等な学園。それゆえ、イヴリアは、その呼称を快く思っていない。だから、最初の自己紹介のときに、きちんと言った。


「ここは、身分も出自も関係ない学園です。ですから、私のことを、様をつけて呼ばないでください」


 フューゼは、イヴリアが幼少の頃から彼女を見て、呼んできたため、未だに、「イヴリア様」と言いそうになるが、何とか堪えて「イヴリアさん」と呼んでいる。


 そんなイヴリアだが、彼女は、一般の人間と比べたら少々……いや、少々と言うには無理があるくらい特殊な人間である。エスサイシア現統治者の娘であり、科力適性EX+と言う一般人を凌駕した科力適性の持ち主だ。そして、彼女の持つ科力兵器こそ、最高級の科力兵器の一つである。科力適性がEX以上必要な科力兵器で現存しているのは四つだけである。イヴリアが持つものと、フューゼが持つもの(忍刀は厳密には科力兵器ではない。彼女が前に言っていた【限界を超えし幻灰オーバーリミット・アッシュ】のことである)と、あと二つある。

 科力兵器には、性能、と言うより、異質な力がある。それは、フューゼの【限界を超えし幻灰オーバーリミット・アッシュ】であったり、イヴリアの持つ【創造されし想像クリエイティブ・ドリーム】であったりする。それは、純粋な科学では解明できない、ある種、魔法や魔術のようにも思えるものだ。その原理は、エスサイシアでもよく分かっていない部分が多いらしい。


 そんなイヴリアは、入学してから、学園で平穏な日々を送っていた。あくまで、入学してから二ヶ月の間だったのだが。そう、黒真の編入の前の日。黒真が学園に来た日のことである。夜、イヴリアに一通の電話がかかってきた。

 父からである。


「もしもし、お父様。何か御用でしょうか?」


 イヴリアの父は、用もなく電話をするタイプではない。だから、用があることは確定しているのだが、そこは分かっていても念のために聞くものである。


『ああ。イヴリア。お前に折り入って頼みがある』


 イヴリアは、この言葉を聞いて、何かあるな、と直感した。


「頼み事、とおっしゃいますと、何か面倒なことでも起きたのですか?」


 それは、エスサイシアで面倒なことでも起きたのか、と言う意味の問いだ。ルーチン通り、エスサイシアでの面倒事が持ち込まれるのだろうとイヴリアは思っていた。しかし、違った。


『ああ。とても面倒な事だ。しかも、そちらで、だ』


 その言葉で、イヴリアの表情が歪む。


「こちらで、ですか?」


 イヴリアの知る限り、イヴリアの父が、学園や地球側での問題に、彼女を頼ったことはない。まあ、彼女の話なのだから、彼女の知らないところで、彼女の力を頼られることはないのだが、方便と言うものだ。


『明日付けで編入する青年について気になることを聞いてな。それをイヴリアに頼みたいのだ』


「聞いた、と言うとフューゼ……先生から」


 フューゼと呼び捨てそうになって、自分で、ここが学園であるのだから、自分も立場を尊重しなくてはならないと気づき、「先生」と加えた。


『ああ。そうだ。彼女からの報告だ。紫藤黒真と言う青年について』

 そして、父が語るその数値にイヴリアは、慄いた。ありえる、ありえない、以前に実感がわかない。それほどに異質だった。


「それは、本当だと?」


『ああ、本当だ。それは保障済みだ。だからこそ、イヴリア、お前に頼みたい。お前なら【創造されし想像クリエイティブ・ドリーム】でどうとでもできるだろう』


 父の言葉に、イヴリアは、内心で毒づいた。


(どうとでもなる?そうは思えませんけれど?この人は、いつもこうなのですから)


 イヴリアの内心など露知らず、父は続ける。


『頼んだぞ』


 父の言葉に、イヴリアは、やれやれと言う気分で、しかし、それを隠しながら言う。


「分かりました」


 そして、翌日。編入してきた黒真を見て、イヴリアは思った。


(ただの凡人にしか見えませんが……)


 イヴリアの見たとおり、黒真の容姿は、一般的な日本人に見られる黒髪黒目の青年だ。少し髪が長いがファッションと言うより、切る時間が無く伸びたままと言う感じがする。目つきは、お世辞にもいいと言えない。一見、睨んでいるように見える。


「編入してきた彼に自己紹介してもらいましょう」


 フューゼの言葉の後に、不機嫌そうに黒真が言う。


「えっと、紫藤、黒真です。よろしく」


 そして、エスサイシア出身の男子達は、舌打ちをしたさそうな顔をしている。


(エスサイシアを誇りに思ってもらうのは嬉しいけれど、こう言うのは、あまり感心できないわね)


 そんな風に思いながら、イヴリアは、黒真を見る。


「こ、黒真君!」


 そんな中、一人の女子生徒が声を上げた。イヴリアは、その女子生徒を記憶していた。茶色の髪を片方の耳の上で結ったサイドポニーテイル。胸元にぶら下げられた黄金のネックレス。学園の制服がよく似合った女子生徒。日本人の中でも破格の能力を持つため、少し警戒をしていたのだが、黒真と知り合いと言うことで、イヴリアの龍美への警戒心は、跳ね上がった。


龍美(たつみ)、か?」


 黒真の様子を見て、それなりに親しい仲だとイヴリアは理解した。


「何で黒真君がここに?と言うか、いつ帰ってきたの?」


 帰ってきた、と言う言葉に違和感を覚えた。しかしイヴリアはすぐに思い出す。


(そう言えば、彼は、家出していたのでしたね)


「ああ、まあ、色々あってな」


 黒真は教室を見渡していた。イヴリアは、それをジッと見る。


「ええと、彼は、科力適性がAで、異常耐性がEXです。そこのエル・トリアさんと同じです」


 エル・トリア。黒真が教室を見渡した時に、目を留めた人。


「ん?どうかしました?エル・トリアさん」


 フューゼの問いかけにも答えない。ただ、見てはいけないもの、見るはずの無いものを見てしまったかのように、目をごしごしと擦る。その様子を尻目に、黒真は、龍美に話しかけていた。


蒼華(あおか)の策略でここに来ることになっちまった」


 その一言で、全てを理解したように龍美は頷く。その人物が誰で、何者かは、分からなかったが、二人の共通の知り合いであることは分かった。


「た、大変だったね」


 苦笑いで答える龍美。


「えっと、紫藤君の席は、アルスさんの隣ですね。あの空席の右側に座ってください」


 黒真はスタスタと席に向かう。そんな中、イヴリアは黒真を見ていた。あまり気づかれないように見ていたはずだが、不意に、黒真と目が合う。

 その目は、深淵のように暗く深く不気味な漆黒の瞳だった。だけれど、その奥深く、眩い星のような光が見えた。そんな気がした。

 黒真が席につくと同時に、始業の鐘がなる。


「えっと、それじゃあ、一限目は、わたしの科力の座学です。紫藤君の編入もありますので、今日は、エスサイシアのことと科力の基礎知識について復習をしていくことにしましょう」


 そう言ってフューゼが質問を交えた授業を始めた。

 途中、黒真がフューゼの隠し武装に気づくなど、やはり一般人とは思えなくなりつつあるイヴリア。




 そして、イヴリアの認識が、黒真を完全に、「異質」のカテゴリーに入れたのは、授業が終わってすぐのことだった。フューゼ、龍美、黒真が話している最中に、それは起こった。

 フューゼが地面に叩き伏せられた。


「なっ。いきなり、何を」


 喚くフューゼだが、イヴリアは、当事者ではなかったから、より異質なことが分かる。動かない。誰一人。


「悪いな。癖だ。殺気を出されると反射的に押さえ込むのが癖になっていた。それにしても、科力、か。なかなかに凄いものだな」


 その言葉と共に、視線が自分に向けられたように、イヴリアは感じた。錯覚かと思ったが、どうやら違うらしい。


「今のは……」


 フューゼが立ち上がりながら呟く。イヴリアの眼前では、フューゼと黒真の先ほどのやり取りがなかったかのように、周りは、普通にしている。

 龍美が少し不思議なものを見たような顔で聞く。


「あ、あれ、フューゼ先生の位置がぶれたような……、って気のせいですよね。気にしないでください」


 イヴリアは驚嘆していた。幻覚でも見ていたのか、はたまた、黒真が何かしたのか。どちらにせよ、恐ろしい。不思議な体験だった。


(私の目はどうかしてしまったの?)


 フューゼも同様の感想を抱いたのだろう。フューゼが聞く。


「紫藤君。君、科力兵器を所持しているの?」


 黒真は、飄々と答える。


「持ってないですけど?」


 黒真はあっさり答えた。イヴリアには、それが嘘を言っているようには見えなかった。


「じゃあ、今のは」


「今の?何のことですか?」


 黒真の言葉に、イヴリアは、いよいよ自分の眼前で起きてた光景が、実際にあったことなのかどうか、自分自身を疑ってしまった。


(だけれど、あれが実際に起きたことであるのならば、どんな科力兵器を?幻覚を見せるもの?だけれど、私に影響を及ぼすとしたら、EX+以上の科力兵器が必要なはず。でも、彼は確か、科力適性がAだったはず。だとしたら、あれが科力でない、とでも?それこそ馬鹿げた話ですね)


 イヴリアは、フッと息を吐きながら、考えるのをやめた。考えても無駄だと悟った。あれは常識の埒外だと思ったからだ。


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