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3rd World  作者: 桃姫
drei
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 黒真はアンに、【異世界の万魔殿】で地球に帰れないのか、と問うた。しかし、アンは、伏し目がちに首を横に振った。


「なぜか不安定で、このままだと、場所の指定ができずどこへ飛んでしまうかが分からないんです」


 不安定なのは、いつも、デシスピアや地球といった、【霊子】量の少ない世界で制御していたが為で、【霊子】の量が多すぎて、御しきれないらしい。


「そうか。しかたない」


 黒真は、アンにそう言うと、レイルシル側の存在であるシャルやジュアンナ、レンク、サーラ達の方へ振り返る。そして、話を聞く。


「なあ、俺たちが、元の世界に返る方法ってなんか無いのか?」


 その黒真の問いに答えたのは、レンクだった。


「知らないが、おそらくあるはずだ。知っていそうな相手の心当たりもある」


 意外にもいい反応が返ってきたことに、黒真は安堵した。しかし、事態は、次の一言で変わる。


「しかし、その相手の居場所は分からない。連絡もこちらからは取れない」


 場所も分からず、連絡も取らなくては、意味が無い。


「その相手ってのは?」


 黒真はできるだけ情報を貰おうと、レンクに聞いた。しかし、答えたのはサーラだった。


「相手の名前は、アデューネ。不可侵神域の神醒存在のこと」


 サーラの言葉に首を傾げる黒真。アデューネ、不可侵神域、神醒存在、どれをとってもはじめて聞く言葉に、困惑を隠せない。ただ、アデューネについては、幾度か、レンク、サーラの口から聞いていたので、人物、ないし精霊の名だと言う事は理解していた。


「不可侵神域と神醒存在って何だ?」


 黒真の口から発せられた言葉に返したのは意外なことにフューゼだった。本当に意外だ。


「意外って思ってるんじゃないんですか、紫藤君?わたし、これでも教師なんですが……」


 などと文句を言いながら、解説をする。


「神醒存在と言う存在がエスサイシアで確認されたのは、大分昔、まだ、エスサイシアがエスサイシアと呼ばれる前だと言われています。その存在は、神に目醒めたものであるから神醒存在。安直であるがゆえに、よく表現された言葉だと思います。かつての人々は、如何なる力をもってしてもその存在を倒せず、一時期神として崇めたほどだと言われていますね。その数は七だと言われていますが、その詳細は分かっていません」


 結局フューゼも分かっていないのではないか、と言う黒真の思いを余所に、レンクがさらに解説を加える。


「正確に言うなら【神】の曲に目【醒】めし【存在】だ。アデューネは、その神醒存在であり、不可侵領域に存在する。だから、こちらを含め、誰一人、その場所を知らないし、入ることもできない」


 教典神奏に連なる存在。第一楽曲讃美神奏。第二楽曲結合神奏。第三楽曲夢零神奏。第四楽曲天神神奏。第五楽曲魔境神奏。第六楽曲洗礼神奏。第七楽曲幸福神奏。そのそれぞれの名を冠した七人の存在こそが【神醒存在】。例えば、狂ヶ夜緋奏(第一典)。例えば、蒼刃聖(第六典)。例えば、アデューネ。


 それら、神の曲に目醒めた存在は、元は人間でありながら、人間より数段階上位の位に上がるのであった。


 それはつまり、人間を越えた存在になると言うことである。


「だとしたら、どうすればいいんだよ」


 黒真の問いに、サーラが言う。


「どうしようもない。けれど、もしかしたら、可能性がないことも無い。先ほどレンクもアデューネと心話していた。向こうがコンタクトをとってくれたらどうにかならないことも無い」


 それは、向こうから離しかけてくることが必須であり、そして、こちらからの問いかけができない以上、見てくれているかもわからない相手から離しかけてきてもらうのを待つのだ。はっきり言って無謀だ。


「普通に考えたら無謀な策だ。しかし、紫藤黒真。お前は、アデューネが大変気にかけていた。もしかしたら、コンタクトを受けるかもしれない」


 それが本当かどうかは分からないが、黒真は、それに懸けて見ることにした。


「しかし、本当に……っ?!」


 黒真が「本当にアデューネが話しかけてくるのか」と問おうとした時だった。


(はじめまして、紫の縁者よ)


 その声は、爽やかな風の音のような声だった。


「…………アデューネ」


 黒真の呟きに答えるように言葉が返ってきた。


(ええ、そう、私が不可侵神域のアデューネよ)


 簡潔な回答に、黒真は、深く息を吸った。そして、本題を心の中で思う。


(アデューネ。俺たちがこの世界から元の地球に戻ることはできるのか)


(ええ、できるわ。でもそれにはいくつか条件があるのよ。紫の縁者、貴方は、今、身内に生死を越えし者(フューゼ)万能なる創造主(イヴリア)空間を超越せし者(アンリー)時空を伝えし者(イリューナ)がいるのですから、大抵のことは簡単にこなせるでしょう)


 実際のところ、死んでも生き返れる。何でも創りだせる。世界を移動できる。その他、様々な能力が揃っている、今の面々では、ほとんど何でもできるだろう。


(だが、安全に地球に戻るのは、現状難しいと思うが?)


 黒真の問いに、アデューネが言う。


(そうね。でも、それすらもどうにかできるだけの力が貴方にはある。【誓約】を交わしましょう。貴方たちを安全に元の世界に戻す代償に、貴方には、――私の夫に魂の一部を渡してもらいます)


 魂の一部を渡すというよく分からない話をされ、黒真は「は?」と声を洩らす。


(どう言う意味だ?)


(意味はそのままです。元来、魂の受け渡しは、血の繋がりがなければならないんです)


 黒真は、ますます意味が分からなかった。


(だったら、俺の魂は代償にできないんじゃないのか?)


(いいえ、貴方なら、可能なのです。貴方が、魂を渡すと言う確約をした時点で未来が決まるので、詳細は、貴方が頷いた後でしか話せません。)


 黒真は、気になった。何故だか分からないが、魂を渡す、アデューネの夫とやらのことが。


(分かった、約束しよう。俺は、お前の夫に、俺の魂の一部を譲渡する)


 それは即ち、寿命を少し削るのだ。それを知ってなお、黒真は渡す。


(ありがとう、紫の縁者よ)


 そう言ってからアデューネは言い直す。


(いいえ、紫色(しいろ)の……夫の祖父よ)


 アデューネの不可侵神域は、時空間を超越している。それゆえ……。






 黒真たちは、眩い光に包まれる。

 戻る。


 ――地球へ


 そう、戻る、はずだった……










 気がつけば、そこは、美しい緑溢れる草原……いや、大草原。熱帯の植物が植えられたジャングルのような場所。ここだけ見れば、地球は地球でもアフリカあたりに飛ばされてしまったか……と、それで済む。しかし、黒真は、日の光をさえぎる大きな影に上を見上げて、ここが地球ではないことに気づく。


 その影は、まるで鳥のごとき翼。長い尾。そして、とにかく大きかった。その存在を黒真はよく知っている。


「ドラゴン……っ!」


 それは竜だった。西洋の竜、ドラゴン。よく見れば、ドラゴンだけでない。ワイバーンなども空を舞っている。


――そう、この世界は、ドライグル。竜が犇く竜の世界。


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