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3rd World  作者: 桃姫
zwei
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 黒真は、数時間、森の中で、何か起きてないか、探ってみたが、変化を見つけられず、困っていた。

 諦めて、すごすごと町なかに戻ってきた。


「それにしても、俺の能力ってなんだったんだろうな……」


 黒真は、しょぼくれた気分で町なかをとぼとぼと、しょんぼり歩いていた。悲しくなる単語を多用するほどに落ちこんでいた、と言うことを察して欲しい。


「はぁ。それにしても、まだ就寝時間なのか。長いな。誰も起きてくる気配がないぜ。ふぁあ、流石に眠くなってきたな。町長の家で寝るか」


 ガチャリとドアを開け、黒真は、町長の家に上がり、指定された部屋のボロボロの木でできたベッドで眠りについた。





 どれほどの時間、黒真が寝ていたのか、ゆさゆさと揺さぶられる感覚で黒真は、起こされた。


「黒真さん。起きてください!」


 アイナの怒号が耳に響くが、黒真は、まだ半分寝ている。


「もう、子供みたいですね」


 アイナは、黒真の様子を見て、まるで子供みたいだと思う。見た目は、自分の方が子供なのに。年齢は、遥かに、アイナの方が上だ。それこそ、外見で人を判断してはいけない。見た目は、九歳であっても、百歳を越えるアイナの様な者もいるのだから。


 黒真は、知る由もないことだが、後に、黒真は、アイナの同胞と出会うのだ。アン・リー・メイドと言う少女に。


「そんなに、子供っぽいんだったら、黒真ちゃんって呼びますよ!」


 アイナの声に、寝惚けている黒真は、ぼんやりと答える。


「ふぁあ?別に、いいけど……。それより、あと五分、寝させて、く、れ……」


 再び、ベッドに横たわる黒真に、アイナは、まるで母親になった気分で、黒真を微笑ましく眺め、髪を撫でたり、頬をつついたりした。どちらかと言うと恋人のような仕草なのは言うまでもないが、気分は、母親である。


「うふふっ」


 無論、アイナの背にも、薄透明の煌く羽があるのだが、修道服に隠れていて、それを知る者はいない。


「本当に、子供みたい」


 再度呟いてから、だんだんとアイナも眠くなってきた。うつらうつらしながら呟く。


「わたしの、こども……」


 寝言のように、その言葉を声に出して、眠る。




 なお、二人が寝たために、出発が一日延びたのは言うまでもない。





 黒真は、非常に弱い。それは、黒真自身がよく分かっていた。幼い頃から、何が得意なわけでもなく、かといって、何かを率先してやるわけでもない。物事に流されやすい、一般人だった。出来過ぎた妹と期待にこたえることのできなかった黒真。それはもう、つらかった。親戚の視線が痛かった。凡人。神に愛されなかった者。様々な呼ばれ方をされた。


 ただ、黒真は、甘んじてそれを受け入れた。いかに冒涜されようとも、侮辱されようとも、受け入れた。


 そして、中学生になったころには、彼は自分の無能さが、普通である事に気づく。周りがおかしかったのだ、と気づく。やはり、自分は神に愛されず、周りの人が神に愛されて生まれてきたのだと思うようになる。


 ただ、それは、間違いだった(、、、、、、)


 もし、神が居るなら、神は黒真を愛しすぎていた(、、、、、、、)

 イヴリアやアルス、龍美、トリア、蒼華のように、神に愛された者ですら「一界(せかい)」に愛された者に過ぎない。

 そして、黒真は、「三界」に愛されているのだ。


 勉学よりも、身体能力よりも、もっと凄いものを持って生まれた青年、紫藤黒真。だからこそ、彼は、「勇者」になったのだ。そして、「魔王」にもなったのだ。

 まあ、もっとも、黒真は、知る由もない……。





「凄いっすね!ヴァーナーさん!」


 スーザックの声が森の林道に響く。


「…………」


 ヴァーナーは答えない。

 勇者一行が旅に出てから三日。出てくる魔物の大半は、ヴァーナーがナイフとタガーで殺していた。他のメンバーが出る幕もないくらいに瞬殺だった。


「凄いですな……。まるで、暗殺者のような手際のよさ」


 リュークもヴァーナーを褒める。


「…………」


 しかし、やはり、ヴァーナーは答えない。


「はぁ」


 黒真は、勇者なのに役に立たない自分が不甲斐なく溜息をつく。それをアイナが慰める。


「大丈夫ですよ、黒真ちゃん。今はまだ役に立ててないだけですって」


 アイナ(外見年齢九歳)に慰められ、黒真は、膝をついた。


「何やってるっす?」


「何をしているのだ?」


 スーザックとリュークが変な目で黒真を見た。





 それから幾日経っただろうか。黒真たちの序列は、ヴァーナー>スーザック>リューク>アイナ>=黒真となった。念のために言っておくが、黒真が勇者である。


 グラガドンマ火山。数日間かけて森を抜けた先にあった山である。魔王にたどり着くまでの試練の一つとも言われる標高千メートルの山である。噴火を繰り返して、今の大きさになったとされ、現在も噴火を繰り返す、立派な活火山である。


 そして、黒真たちは、ここで、絶体絶命のピンチを迎えていた。


(いや~、ぶっちゃけ、コレは、無理)


 黒真たちは、現在、火口付近にいた。そして、それを囲むように、シヴリアントジャガーの大群がいた。見た目は、黒いジャガー。しかし、大きさは、ジャガーより三回りほど大きい。

 ガルルルと獰猛な唸りを上げ、口を開ける。そして、巨大な火を吐き出すのだ。


「うおぉおおお!死ぬぅ!死んじゃうぅ!」


 黒真の悲鳴。そして、この気温だというのにローブを羽織っているヴァーナーは、こんな状況でも何も言わない。


「そんなことより、どうにかしてほしいっす!」


 スーザックの絶叫。


「よし、決めた!」


 黒真の声に、皆が黒真を見る。


「おお、とうとう、勇者が力を使うっすか?」


「あの炎をディバイダルフレイムと命名しよう!」


「そんなこと言ってる場合っすか!!!」


 スーザックがマイペースな黒真につっこむ。


「先まであれだけ慌てていたのに、ある意味すごいですな」


 リュークがある意味黒真に感心していた。


「じゃあ、エンシェントフレイムでどうだ!」


「名前に文句は言ってないっす!!」


 黒真とスーザックが名前に関して言い合っていた。


「今はそれどころじゃないですよ!黒真ちゃん!」


「え?じゃあ、テラフレア?!」


「だから、名前の話じゃないっす!」


 襲い来る炎をかわしながらも、そんな話をするあたり、彼らは、余裕があると言えなくもない。ただし、ヴァーナーは別だ。


 火山の火口と言う温度の高いところで、さらに温度の高い攻撃(ディバイダルフレイム)が気温を一気に押し上げる。そんな中、ヴァーナーは、ローブを羽織っているせいで、蒸し暑くて汗が吹き出て、地面には、ポタポタと汗が滝のように雪崩落ちて、水溜りが出来上がっている。


「うおっ?!ヴァーナー?!お前、大丈夫か?!」


 水溜り見た黒真が思わず声をかける。


「漏らしたみたいになってんぞ!」


「心配の方向が間違ってるっす!!!!」


 このころの黒真は、非常に頭の悪い子だったと言える。


「……うる、さいっ」


 かすれた、そんな声が黒真の耳に届いた時、ヴァーナーは崩れ落ちる。

 そこに、放たれた炎。炎は、吸い込まれるように、ヴァーナーに向かう。


「炎が、ヴァーナーに!ヴァーナー(バーナー)だけになっ!って言ってる場合か!!!」


 黒真は、手を伸ばす。ヴァーナーへと、届かぬ距離なのに、手を伸ばした。

 心の底から、「助けたい」と願った。



――そして、動き出す。黒真の眠りし裡なる力が……



――そして、止まる。世界が。人が。モノが。全てが……




「え……?」


 黒真は、思わず、そんな声を漏らしてしまった。


 目の前の光景に、驚かないほうがおかしい。

 止まっているのだ、何もかも。

 いや何もかもが停止した世界、と言うには語弊がある。無論、光は止まらないし、空気も止まらない。熱も覚めないだけ。分子運動も止まらない。

 炎は、ヴァーナーの寸前で停止していた。

 その炎が、普段は、フードで陰になっている顔を煌々と照らしていた。

 大きな瞳とスッと通った鼻筋。白い肌。薄紅の瞳。恐怖に脅えた顔は、儚げでその美しさを引き立たせていた。


「ヴァーナーってイケメンだな……」


 世界が停止する異常な状況の中、真っ先に思ったことがそれである。人間、大きなことになると、意識を逸らしがちになる、と言うことだ。


「とりあえず、ローブを脱がすか」


 黒真は、ヴァーナーのローブを剥いだ。


「は……?」


 思わず黒真の口から洩れた声。それは、ヴァーナーのローブの中に理由があった。大きく実った大ぶりの果実のような胸。細くくびれた腰。長く細い手足。紛う事なき女性だった。


(どうなってんだ?町長も確かに、『倅』って言ってたし、男じゃないのか……?)


 (せがれ)、とは、自分の息子をへりくだって言う場合に使う言葉である。だが、それは、黒真の生きている時代でのことである。


(ああ、そう言えば、国語の先生が、言ってたっけ?いや、歴史だったか?まあいい。室町くらい前、倅は、女を表してるとか、どうとか)


 痩せ枯れているを語源とするとされる倅。そのことにより、室町時代から見られる書物には、女子に対して使われていたらしい。


「それにしても、綺麗だな」


 流れるような銀髪は、輝かんばかりの煌きを放つ。淡い薄紅の目は、美しい色合いを持っている。整った顔立ちに、大きな胸。くびれた腰。白磁のような白い肌。そして、少し尖った耳。


「まるでエルフだな」


 黒真は、そう言いながら、ヴァーナーを抱え、炎の直撃を避けられる位置に移動させ、ローブを再び羽織らせた。


(たぶん、耳を隠したかったんだろうな……)


 黒真は、そう思いながら、魔物へ向かっていく。ちゃっかり、ローブを羽織らせる時に拝借したヴァーナーのナイフを使って、魔物を切りつける。


「固っ?!何コレ、ジャガーじゃないの?!!」


 黒真の困惑。


「あーっと、悪いなリューク、図鑑借りんぞ」


 リュークの持っていた書物を拝借して、シヴリアントジャガーの弱点や性質を調べる。




 シヴリアントジャガー。その黒い体毛の下の皮膚は、まるで鉄のような硬度を持っている。また、特殊攻撃として、口から火を吐く。この火は、個体によって威力が異なる。また、メスは、強い火を吐けない。おそらく、木々を焚き火したりする様子から、日常生活に使うために、そこまで高い威力が必要ではなかったから、メスだけ弱いのだと思われる。

 弱点は、尻尾の付け根である。そこだけ、皮膚が柔らかくなっており、そこを傷つけられると、気を失ってしまうほどである。




「なるほど、尻尾の付け根なのねん」


 黒真は、舌なめずりをして、ナイフで、サクサクとシヴリアントジャガーの尻尾の付け根を切っていく。時折血が噴出して、ビクビクする黒真だが、ようやく全部の尻尾の付け根を切り終えると、ナイフを軽く振って、血を払い落とす。


「フッ、所詮は有象無象の雑魚だ、幾ら束になってかかってこようと俺に敵う道理もない」


 黒真が格好をつけてポーズを決める。黒真は現役中学生だ。仕方がないと言えよう。中二病とは、存外、誰しもかかるものなのだから。

 しかし、時が止まっているため、誰も何も反応をしない。

 黒真は恥ずかしくなって、図鑑をリュークのバッグに戻し、ナイフをヴァーナーのローブの中のヴァーナーの腿にまきつけられたバックルにしまう。


「さて、と」


 一通り作業が終わったところで、ふっと息を吐き、指を鳴らした。



――そして、動き出す。止まっていた全てが



「グギャアアアアラララララ!」


 突如あちこちから悲鳴のようなシヴリアントジャガーの雄叫びが上がった。そして、バタバタと倒れる。


「うお?!なんすかこれ!」


「む?」


「え?」


「…………?……え?」


 四人が、何が起こったのか分からない、と言う顔をする。ちなみに、スーザック、リューク、アイナ、ヴァーナーの順である。


「あぁ。疲れた」


 黒真の一言に、皆が一斉に黒真の方を見た。


「いや~、あれだな。弱点を調べられるのは重要なことだな。サンキュー、リューク!それと、ヴァーナー、勝手にナイフ借りて悪かったな!」


 親指を突き上げサムズアップのサインをだす。その様子に、皆がきょとんとし、ヴァーナーは、すぐさま、自分のローブの中をまさぐり、ナイフを取り出す。


「…………」


 そして、そのナイフを黒真に向かって勢いよく投げつけた。

 すぐさま、黒真は、時を止め、空中で止まっているナイフの柄を掴んだ。そして、時を動かす。


「危ないな、おい!悪かったって、勝手にナイフ使ったことは謝るから!」


 黒真がナイフを掴んでいたことに、全員が驚く。


「え?えええ?!どうやったっすか?!」


 驚きのあまり叫ぶスーザック。


「それは、俺の【聖力】のせいだな」


 アイナが、【彼の者を見通す紙片(ステータス・データ)】を取り出して、今一度、黒真のステータスを確認する。



 Name Kokuma Shidou

 VIT B+

 STR C+

 DEF C+

 AGI B+

 SPF EX+(Spirit Power Fitness)

 BST EX+

 INT B

 TEC A

 SP  Time・Stigma



「タイム・スティグマ……?」


 アイリの呟き。


「【時の刻印(タイム・スティグマ)】だ」


 【時の刻印】【タイム・スティグマ】。勇者の中でも異質な能力。勇者の時代を超えた語り継がれに起因する時間を体現した能力。


「そんな、規格外な……」


 アイナの呟きに、皆が頷く中、ヴァーナーだけは、黒真を睨んでいた。


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