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prologue




ルビー

サファイア

アメジスト


そして、上質なベルベット生地へ振り撒かれた砂金が、微かな光を受けて小さく輝いていた。

ブルーグレーの色彩を帯びた街は静かな眠りの中で夢を見る。

そんな夢見心地の街に音が落ちる。

並ぶ建物の屋根に闇色に濡れた羽根に純白の胸元が際立つ一羽の鳥の影。

ふわりと翼を広げて舞い上がる姿は重さを感じさせずに少し離れた屋根へ移る。

そうして、優雅に一歩を進めたカラスは燕尾服を纏った人の影へ変化した。


胸元には白いクラバット。

シルクハットからは星屑と同じ艶やかな金色がのぞく。

表情はアイマスクの下に隠され、盗み見ることさえ叶わない。

オフホワイトの掌の上に影が躍り、くるりとステッキを回し幻想に似たときを自由に駆ける。


「ルカス!」


眼下から挙がった声にカラスは薄い笑みを浮かべた。

気付けばぐるりと周囲は同じブルーの隊服で統一された近衛兵に取り囲まれていた。いや、近衛兵とはもう言わないのか。

数年前に整備された警察隊は一向に世間に浸透する気配がなく、未だに近衛兵と同一視する者が多くいた。頭を悩ませた上層部は苦し紛れの策として隊服の色を変更したのだが、それが逆に仇となり近衛隊の下層、と侮蔑の目を向けられる原因となっていた。

それは創設以来、地を這い続ける検挙率のせいでもあるのだが。

今夜はそのなかに、異質な存在をみとめた。

遠目からでも上質とわかる暖かそうな外套とハットにステッキ。そして、向けられた瞳の色は闇にそぐわぬスカイブルー。

明らかな紳士の出で立ちの男はこの場には相応しからぬ存在だった。

微かに眉を潜めた。


まぁいい――


見上げる彼等からは、アイマスクに隠された表情を窺い知ることは出来ないが、唯一さらされた口元が深い弧を描くのを見た。


小さな声が漏れたとき、微かな光に照らされた街の空を背景にして、闇色のカラスが光の粉を空へと振り撒いた。


キラキラと幻想的な輝きの舞いに、見惚れてしまう。

その直後、目も眩むほどの閃光が視界を奪った。

光の渦とともに、白い煙幕が周囲に立ちこめ、先程までのロマンティックな空気は一瞬にして殺気立ったものへと変わる。

やっと視界が晴れたころ、誰となく視線を屋根へ戻したときには、一羽のカラスは浅いまどろみの中にいる街が見せた幻のように、そこから消え去っていた。



Luna Corvus


月のカラス


そう名される怪盗ルカス


これは、

月に背いたルカスの物語



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