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【掌編】ダンジョンマンションは優良物件です

作者: 天城らん
掲載日:2026/02/24

 

「マンションの内見……?」


 彼女……、もとい俺の嫁さんが言った言葉を復唱した。

 何かとんでもないことを言われた気がするが、きっと聞き違いだ。

 マンション、マンションに決まっている。


「ヴァン、違うよ。『ダンジョン』の内見よ!」


 いやいや、何を言ってる新妻よ……。

 ダンジョンに内見とか、ありえないだろう?


 だって、俺たちが探しているのは新婚ほやほやの愛の巣だぞ!?


 *


 俺と嫁さんとの出会いは、この街のパン屋だった。


 冒険者の俺は、依頼クエストの為に、仲間と共にこの街に来た。

 なかなか勢いに乗った、腕利きの仲間パーティだったりする。

 俺はその頑丈(タフ)前衛(タンク)だ。


 そして、俺は運命的な出会いをした!

 パン屋の娘フロルに一目ぼれをしたのだ。


 コロッケパンとメロンパンとどっちにしようかとでかい図体でうろうろと悩んでいた俺に、フロルは臆せずビシッと『冒険者は体力勝負なんだから、どっちも食べなさい!』と、ぐいぐい売り込んできた。


 彼女は、空色の大きな目をしていて、いつも金髪のポニーテールに赤や黄色の小花(チロリアン)柄の三角巾をかぶっている。

 それがよく似合っていて人形かと思うくらいに可愛らしいのだ。

 なのに、口を開くとしっかりもので元気で押しが強いという。


 そのギャップに俺は二度惚れた。




 そうして、俺より七つも年下で、成人したばかりの彼女に俺は、依頼クエスト間中(あいだじゅう)ずっと通い詰めて、口説き落とした。

 根なし草の冒険者の俺の言葉など、最初は信じてくれなかった彼女だが、簡単な依頼ではなかったために時間はいくらでもあった。

 そうして、半年ほどたって何度かデートを重ねた後、俺は意を決してプロポーズをした。


「俺はこの街に住む。だから、この依頼(クエスト)が終わったら、俺と結婚して欲しい!」


「ええーっ!? それあんまり良くないよ!」


「ダメなのか……?」


 ツタの透かし模様の入った金の指輪を手に、しょぼくれる俺にフロルは言う。


「だって、死亡フラグっぽいよ……?」


 た、確かにそうかもしれない。

 もっと、仲間に相談してプロポーズの言葉を考えてくればよかった。

 でも、アイツらに言ったらめちゃくちゃからかわれそうだからなぁ。

 あと、ブレイブなんかイケメンだから絶対にフロルに会わせたくない気もするし……。


「ごめん。もっと何か気の利いた言葉を考えて来るよ……」


 意気消沈で今にも泣き出しそうな俺は、金の指輪を胸にしまおうとした。


「ちょっと待って!」


 剣と盾を持つためにグローブのように分厚くなった俺の手に、彼女は爪の先を桃色に塗った小さな両手でしがみつく。


「帰ってきたらふわっふわのパンをいくらでもごちそうするから、その指輪ちょうだい!」


「それは、朝コーヒーも付くのかな?」


「も、もちろん。だから、怪我なんてしたら許さないんだから」


 こうして、彼女の逆プロポーズをいただいて、根性で帰還し晴れて今に至る。


 *


 そんな、ちょっと押しの強い年下の妻に連れられて来たのが、地下ダンジョンだ。

 なんでも、地下ダンジョン跡を利用したマンションが今、ちまたでは話題だそうだ。


「いらっしゃいませ。ダンジョンマンションへようこそ。ここは今、大人気の物件なんですよ~」


 案内人として現れたのは、上着を羽織った二足歩行の銀の狼人(ワーウフル)だった。

 おいおい、獅子王(ダンジョンマスター)の副官が何をやってるんだ……。

 俺と目が合うとワーウルフは息を飲み、何かこびへつらうように言おうとしたが、俺はそれを首を小さく横に振って制した。

 俺の隣で、目を輝かせている妻の期待は裏切りたくない。


「んんっ、可愛らしい奥様ですね~。この攻略済ダンジョンを利用した住居は利点がたくさんあるのです」


「うわさには聞いてます! なんでも有名な方もお住まいとか?」


「ええ、どなたとは言えませんがこのダンジョンを攻略した勇者パーティーの魔法使い様もお住まいです」


 おいおい。ほぼ言っちゃってるじゃないか!?

 それだけ言えば、個人が特定できるだろうが……。

 っていうか、マリーランここに住んでるのか……。

 ツッコみたい気持ちもあるが、下手なことを言うのはよそう。


「やっぱり! セレブマンションみたい。すごい~。私、ダンジョン初めてなんです。なんだかワクワクします」


「では、ご案内しましょう」


 嫁さんは、足取り軽くワーウルフの案内人に付いて行った。


 *


「ダンジョンマンションの一番の利点は、その安全性です。勇者が攻略済みだからというだけではなく、ここは地下に深くなっていく構造ですので耐震に非常に優れているのです」


 なんだかもっともらしい説明だなぁ。

 俺は、確かにそうかもと頷く。

 塔のようにそびえるタイプのダンジョンは、地震で倒れることはないものの、なかなかに揺れる。

 風が吹こうものなら、虎落笛もがりぶえのような、風音が鳴ってうるさいのだ。


「耐震構造がしっかりしてるのは、安心ね!」


「それはもう、台風、竜巻、酷暑、極寒など、たいていの自然災害からは守られる造りになっています」


 妻のフロルは、ふむふむと何か一生懸命にメモをしている。


「築年数で言うと、どのくらいなのですか?」


 本気なのか? 本気でここに住むことを検討してるのか??

 俺は、単なる冷やかしなのかと思っていたが、どうやら違うらしい。


「ダンジョンマスターである獅子王様がここを建設してから大体100年程度なのですが、先日勇者一行が攻略しましたことで完全に浄化され、ほぼ新築同様に生まれ変わっております」


「だから、すごくキレイなんですね~。もっとダンジョンってじめじめしていてカビ臭いのかと思っていました」


「そういうイメージが強いですよね。でも、それは人間を寄せ付けないためなので、すでに攻略されてしまったので、その必要もないですし、獅子王様が生まれ変わって勇者に従属してしまっていますので、それを機に全面改装(浄化)したんですよ」


 浄化ってそういう意味(全面改装)だったのか??

 確かに、壁面も床も白い煉瓦でできていてとても清潔感がある。

 俺が知っているダンジョンとは大違いだ。


「そして、この物件はなんと光熱水費込みなんです! といいますか、殆ど冷暖房が必要ないのです。夏は涼しく冬は暖か。温泉水も湧くので使い放題! 光と火は、ダンジョンの構造上、事故があっては困りますので魔法ですべてまかなっています。ここはもともと魔素が多いので問題ないのです」


 最近はやりのすべて魔法(オール電化)住宅というやつか?

 俺は驚きで案内人のワーウルフを見ると、得意そうにニカッと笑った。

 犬歯がこわいぞ……。


「温泉!? 温泉があるんですか?」


「はい。各部屋に温泉水の蛇口がついてますよ。あと、30階にはスーパー温泉。40階には温水プールのアミューズメント施設があります」


「ヴァン、帰りによってこうよ~」


「おいおい、着替えも水着もないぞ……」


「入場制限がありますが、居住者以外も利用できる施設となっていますので、水着の貸し出しもあります!」


 なんと、至れり尽くせりな……。

 ちょっとまて、30階や40階に気軽に外部の人間がこれるのか?


「全フロア、転移陣完備ですよ。その分、セキュリティは厳しくしています。魔法使い様と共同開発させていだだきました」


 それって、さっき住んでると言ってた国家魔術師のマリーランだろう。

 ある意味やばいな……。

 俺は、あまりこの物件にかかわってはいけない気がして、何か断る理由を探す。


「ここは、あんたみたいな魔物が多いから、ペットは飼えないだろ?」


 フロルは、パン屋を営んでいるから今までペットが飼えなかったと嘆いていた。

 新居では、絶対に何か飼うのだと意気込んでいる。


「それは、ますますもってご安心を。ここはペット付き住宅です」


 は? ペット付きだと……?


「もともと、ここは獅子の獣王のマンティコア様のダンジョンですから、動物系魔族はいっぱいいるんですよ」


「いやいや、それはペットとは言わないだろう……」


「ウサギ型に猫型、鳥型魔族各種いますので、気の合う子をお連れ下さい。寿命も長いですし、人間の言葉が話せなくとも理解力はあるので飼いやすいですよ」


 お前らには、人間や冒険者に対する恨みはないのか??

 もう、そういう心も浄化されてしまったのか??

 俺は、頭の中の整理がつかず短く刈られた黒髪を掻いた。


「このダンジョンマンションの2階に、ウサギカフェと鳥カフェがあったじゃないですか? あれですか? あの子たちですか!?」


 嫁さんは、頬を上気させやや早口に言う。

 そういえば、チラッともふもふかわいい系の魔物がいたなぁ。

 一角兎アルミラージュとか宝石兎カーバンクルとか小型のグリフィンとか……。


「今、10階層までは飲食店等の商業施設に貸していて、なかなか繁盛させてもらってます」


 ニカッと笑うワーウフルの物件案内人。


 だから、犬歯が怖いって……。

 なんだか、俺の左腕の古傷が疼く。



「と、とにかくこれだけ色々サービスがついてるなら、お高いんでしょう?」


 なんで、俺は通販の相方みたいな(とい)をしてるんだ!?

 条件反射か!? まあいい。

 それなりに家賃が高ければ、嫁さんも諦めるだろう。


 確かに条件だけはいい。

 怖いくらいによすぎる。


「この街の相場に合わせていますから、それほどではないですよ~。

 うちダンジョンマンションは、優良物件です!」


 聞けば確かに払えない家賃ではない。

 いやしかし……。


「ヴァン、ここにしようよ~。それでペット見に行こうよ!」

「え、いやそれは……」


 俺が、色々な考えを巡らせもごもごと口ごもっていると、ワーウルフの案内人は嫁さんの後ろでニカッと笑いながら、口をぱくぱくさせて俺に伝えてくる。

 だから、犬歯が怖いって……。


『攻略者様特典で、お値引きさせていただきますよ!』


 やっぱりバレてるのか……。


 そう、このダンジョンを攻略した勇者パーティーというのは俺たちのことだ。


 前衛の俺は、だいたい鎧を着ているし、兜や面頬めんぼうなどで顔を隠してしまうため、それを脱いだら仲間以外には分かりやしない。


 冒険者ガードを提示してまで、名乗るのもばからしいので、嫁さんにはただの冒険者だと伝えている。


 だって、かわいい嫁さんにいらぬ心配をかけてもなんだろう?



 それにしても、フロルのキラキラ視線の圧が強すぎる。

『絶対に、ここにしよう!』という期待感がにじみ出ている。



 フロルの願いは、何でもかなえてやりたい。やりたいが……。


 ある意味、元職場みたいなものだぞ?


 いくら、条件が良くてもここに住むのはちょっとためらいがある。




「フロル、少しだけ、少しだけ俺に決心する時間をくれ……」



 とりあえず、30階のスーパー温泉に入ってから考えよう。


 うん、そうしよう……。



 * お わ り *



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