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私の高校ダイアリー  作者: ぽちゃっこ


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4/4

入学式

 入学式の当日。

 私はいつもより早く起き、新しい制服を着込んだ。新品の服の香りがする。私は息を思いっきり吸い込んだ。

 赤いリボンと紺色のブレザー。自分の姿を鏡で眺めて、嬉しくなった。これからこの可愛い制服を毎日着るのだ、とワクワクした。高校の偏差値など、頭から吹き飛んでいた。


 私が部屋でウキウキしながら鏡に映る自分の制服姿を眺めていると、父が開けっぱなしのドアからひょっこり顔を出した。

 「なかなか似合っているじゃないか。」

 起きかけの顔をしている。

 勝手に部屋を覗かれたことにいい気はしなかったが、ドアを開けっぱなしにした自分が悪いと気をとり直し私は言った。

 「そう?似合う?この制服可愛いんだよね。そういえば、お父さん、今日入学式に来るの?」

 父は一瞬残念だ、という顔をして、寝ぼけ混じりの声で言った。「今日は会社に行かないとなんだ。ごめんよ。ママが行くからね。」

 父の仕事は忙しい。来れないことは聞かなくても知っていた。だから、私はわざと顔をしかめて、「会社忙しいからしょうがないね。」と言った。

 

 キッチンでは、母はすでに入学式用のフォーマルワンピースに着替えて朝ごはんの支度をしていた。母が5人分の朝ごはんを作るのは至難の技だ。だから、小学生の頃から、朝ごはんの支度を手伝ってきた。でも、今日は特別なようだ。母は張り切って早起きして、家族全員分のご飯を何とか間に合わせて作ったようだ。食卓にはクロワッサンや目玉焼き、イチゴなどが並んでいた。新学年を迎える妹たちはすでに食べ始めている。

 「あら、似合うじゃない。」

 母はいい制服だわね、といった表情で言った。

 「今日は晴れて良かったわ。絶好の入学式日和だもの。朝ごはんを食べたら、すぐに出ましょう。」母はご機嫌よく、私のパンを温め始めた。

 私は珍しくやることが無かったので、席に着くと、妹たちが口々に私の制服を褒めた。

 「お姉ちゃん可愛い!その制服似合う。」次女が食パンをかじりながら言った。

 「可愛いー!」三女も言ってくれる。

 「そうかしらー♪」私はルンルンな気分で2人ににっこり笑みを返した。すっかりご機嫌になったので、目玉焼きを口の中いっぱいに運んで頬張った。


 今思えば、この頃はなんと能天気だったことだろうか。まだ何も知らなかったのだから、しょうがない。でも知っとけよ、という感じだ。この頃の私は、面白いほどにこれから入学する高校のことに無知だったのだ。


--------------

 母と家を出ると、冷たい風が身体を包んで身震いした。見上げると、空は晴れ渡っていた。


 第一高校は最寄りのバス停から5駅ほど。住宅地の通りを20分ほど走って着く。母と最寄りのバス停に着くと、すでにバスが行ったばかりで、並んでいる人はいなかった。そして、すぐに次のバスがやってきた。


 買ったばかりの定期を出してバスに乗り込むと、バスの中は既に学生でいっぱいだった。第一高校の制服も見えた。顔をじろじろ見るのも良くないと思い、すぐに手すりに捕まって窓の外を眺めた。


 向かい側のバス停が見えた。行列だった。サラリーマンや学生やOLが列を成している。向こうは駅へ向かうから乗る人も断然多い。こっち方面でよかったな。

 ぼんやりと思っていると、バスは発車した。


 満員のバスに乗りながら、私は昨日のプラネットハンターのオンライン対戦を思い出していた。かなり手怖い相手だった。最後に私が3点を巻き返してなんとか勝利したのだった。かなり切迫した試合だったので、終わったあとには疲れがどっと出てしまった。

 しかし、週末にはさらにチーム戦を控えている。休んでいる暇はない。次はどう攻略しようか。今日帰宅後に考えるつもりでいた。

 私は隙があれば、こんな感じでゲームのことを考えているのだった。


「次は第一高校、杉並学園前です。」運転手のアナウンスが聞こえた。降りなきゃ。誰かが先に停車ボタンを押した。

 バスは平らな一本道をそこそこの速度で走り抜け走け、スーパーやコンビニが見えたところで停車した。


 バスからは沢山の人がぞろぞろと降りた。降りるのは、制服を着た人ばかりだ。少し待ってから、やっと降りることが出来た。


 バスを降りると、先に降車した学生たちや入学式に参加するその親が横断歩道の手前で信号待ちをしていた。学校は横断歩道を渡った先にある。学生は第一高校の制服か、隣に建つ杉並学園の制服を着ている。杉並学園は、親友のゆきが通う高校だ。青色のブレザーが特徴的である。


 茶髪、茶髪、黒髪、黒髪、茶髪…。

 私は信号待ちをしている学生たちの髪を自然と眺めた。そして、彼ら・彼女らの制服を交互に見た。

 絶句した。第一高校の制服を着た生徒は一人残らず茶髪だったのである。まさにギャル・ギャル男である。驚くべきことに入学すると思われる親同伴の子もそうだった。

 私は自分の目を疑ってしまった。

 入学早々茶髪で来る必要あるのか?!私は思った。普通は染めるにしても、学校生活に馴染んでから染めるものではないのか?それを堂々と初日から染めている。


 杉並学園の生徒で髪を染めている子は一人もいなかった。杉並学園は上品な私立女子校である。もちろんどの生徒も黒髪で、私の感覚で常識的と言っていい高校生の佇まいをしていた。杉並学園の生徒がいるおかげで、私の感覚はかろうじて現実に引き止められていた。


 はぁ…。

 私は一瞬で黒い闇に包まれた気持ちになった。

 本当だ。

 これはゆきが話した通りだ。

 こんな生徒たちの中にいたら、私は確実に浮く。

 

 信号が青に変わると、みなぞろぞろと横断歩道を渡っていく。私もその後に続く。

 前を歩く杉並学園生は、ポニーテールにまとめた黒髪を揺らしながら、知的そうに歩いている。実際に知的なのだろう。一緒に歩いているその子の親は、艶やかで上品なコートに身を包み、厳かな雰囲気で隣を歩いている。


 しかし、その親子の前を歩いている第一高校生の女の子に目を向けると、気だるそうな足取りで革靴を鳴らしていた。足を引きずるようにして歩いている。茶髪の髪には大巻のパーマがかかっていて、後ろから謎の威圧感を感じさせた。

 その子の親は、スーパーでなんとか昨日間に合わせて購入したようなポリエステルのコートを着て、生徒とゆっくり歩調を合わせて歩いていた。


 何という対比なんだろう。

 ギャルと真面目。

 こんな景色を私はこれから毎朝見ることになるんだろうか。

 

 杉並学園の親子は、歩みの遅い第一高校の親子を追い越すか追い越すまいか悩んでいるようであった。しかし校門はあと5分も歩けば着く距離である。余計な行動は慎みたい気持ちが勝ったのだろう。最終的には追い越すことを諦めて、大人しく後ろを歩いている。私と母もすぐの後ろに続いた。

 私はこのまま、この杉並学園の親子と一緒の門をくぐりたい気持ちでいっぱいになった。母もきっとそうだっただろう。だって杉並学園の門をくぐれば、大好きなゆきがいる。きっとゆきに似た、私の親友に似た子がいっぱい来ているんだろう。

 そりゃあ、私の学力は杉並学園の生徒には及ばないけどさ…。だからって、ギャルになれってわけ?!そんなの、無理。私にも価値観というものがある。私にはギャルの価値観は一文字も持ち合わせていない。


 でも今日は第一高校の門をくぐらないといけない。私にとってなんとも異質なギャルたちと一緒に、門をくぐらないといけない。


 はぁ…。

 なんという現実を惹きつけてしまったのだろう。

 どうしてギャル高校だということを知らないまま受けたんだろう。


 いや、知っていた。

 でも、そこまで気にならなかったのだ。

 まさか通うことになると思っていなかったから。

 そして春休みもずっと、このギャル高に通う現実と向き合わないでいた。制服が可愛いことしか考えないようにしていた。だって、どうせ行かなければいけないのだから。


 そんな私の完全に現実を無視した生き方が、この瞬間の絶望を生んだのである。

 私は青ざめながら、母と第一高校の門をくぐった…。

 



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