花の王都
◇
「サヤ!」
「あっ……」
私は中庭の入り口のほう、声のするほうへと振りかえった。その先にいたのは……。
「お兄さま!!」
私の自慢のお兄ちゃん、ファスマ=エルローズさま!
お兄さまはプラチナブロンドの髪をなびかせ、こちらを見ていた。私はぴょんぴょん跳ねて両手を振る。
お兄さまはこちらに向かって、自然に1歩踏みだした……と思ったら、すでにそのお顔が眼前へと迫っていた!!
「サヤ、大丈夫だったか!?」
「ッ!!!」
何コレ、縮地!?
なんで遠くから1歩踏みだしただけで目の前にいるのよ!
そして近い近い! いきなりその美しすぎるお顔を近づけないで、私は転生したばかりでまだ免疫がないのよー!!
「サヤ、熱でもあるのか。やはり先日の事件で心労が溜まっているのだな。労しい……」
「い、いいえぇ、違いますぅ!! 元気元気、元気そのもの! どうぞお気遣いなく~」
……お兄さまは転生した日の朝に会って以来、そのまま帰ってこなかった。
便りが届いて、公務がかなり難航しているということは伝え聞いていた。お兄さまは最強の騎士として、国家の重大事件にもしばしば関わることが多いらしい。
逆に、私がコットリカの事件に巻きこまれたことも連絡が行っていて、無事だということは知っていたけれども、相当心配をかけちゃったみたい。
お兄さまったら、自分の公務も大変だったろうに、私の心配ばかりしていたみたいね!
お兄さまはひとしきり私に労りの言葉をかけたあと、私の肩に停まっているネネミュウに目を留めた。
お兄さまはネネミュウとプリンケッツを交互にまじまじと、それはもう、まじまぁ~じと見つめていた。
「サヤ、この幻獣はお前が呼びだしたのか!?」
「そ、そうかもしれない……」
ああ、そんなに見ないでお兄さま。
そこのケツは何かの間違いなの。決して自分で呼びだそうと思ったわけじゃなくて、ほとんど事故みたいなものなのよ。
恥ずかしすぎて私のケツから火が出そうだわ……!
「サヤ、よくやった!!」
「えええぇっ?」
突然、両手で肩をグイッと引き寄せられた! マジでやめて、死ぬ。
「爺からお前が『召喚』のスキルに目覚めたと聞いて、まさかとは思っていたが……。お前のなかに眠る深遠なる魔力には気付いていた。これ以上ないほどに貴重なスキルだ、よくやったぞ」
「えへへ、そうかなぁ」
「これほど喜ばしき慶事、女王に報告しないわけにはいくまい。ちょうど今日は女王に謁見する予定であった。今すぐ王城へ向かうぞ、サヤ」
「え? え? 女王? これから??」
女王って……この国の女王さまってこと?
え、私、今からこの国の女王さまに会いに行くの??
事態を飲みこむだけの暇もなかった。どこからともなく無敵執事軍団が現れ、メイクアップ魔法でたちまち綺麗なドレス姿に!
強制ドレス!? ……でも、きらびやかなドレスにティアラ。これぞ由緒ただしき貴族の令嬢ってカンジで、まるで魔法をかけられたシンデレラね!
「ファスマさまにサヤさま。表に王城行きの馬車を用意いたしましたぞ、どうぞお乗りくだされ」
「ウム。ご苦労であった、爺」
「あははは……」
こうなったらもう、言われるがままに行くしかねぇ。華麗な貴族の衣装を身にまとって悪い気はしないし、なるがままよ!
「ミュウ~♪」
「プリプリ~♪」
「あ、プリンケッツはもういいわ。元の世界に戻っててちょうだい」
「プリぃぃ……」
私が言いわたすとプリンケッツはしょげた様子でポン! と消えてしまった。
勝手に呼び出しといてなんだかちょっと悪い気もしたけど、そんなこと言ってられないわね。だって、これから行くのは女王さまのところだもの。ケツを連れてなんて歩けないわ。
お行儀よくして、レッツゴーよ!
ガタゴト馬車に揺られて、王都『カピテリス』の中枢、城下町へとたどり着く。
エルローズ家も王都のはずれにあるから、そんなには時間はかからないわ。
城下町は長い長い城壁に囲まれている。馬車置き場から歩いて城門をくぐり、私は思わず声をあげた。
「わああぁ! スゴイ、何コレ!?」
城下町のなかには生け垣と花壇が街いっぱいに張り巡らされていて、迷路のような幾何学的な模様を描いている。
もちろん、花壇には色とりどりの花がいっぱい。しかも、どの花も生きる喜びを表現するかのようにグンと背伸びして、花をいっぱいに広げてるの!
「この生け垣と花壇は、上空から見ると巨大な魔方陣を描いている。それが守護結界となり、王都を守っているのだ」
「へえぇ。コレ、魔方陣になってるの!? スゴイな~、スゴイな~!」
「さらに、王都の土で育つ花には魔力が宿る。魔方陣を構成する花壇の花に魔力が宿ることで、さらに守護結界が強化されているのだ」
「だから、どの花もイキイキとしてるんだ。花に守られる街、まさしく『花の都』ってわけね!」
馬車から爺やに送り出されたのち、私は城下町のなかをお兄さまと歩いていた。
そしたら、記憶をなくした私のためにこの街のことを解説してくれたの。
色華やかな生け垣や花壇のあいだを、お兄さまと並んで歩くのは楽しい。
花壇に囲まれて建つ家々はどれもレンガ造りの美しい建物ばかりで、まるで街全体がヨーロッパの庭園みたい!
「ホントに綺麗な街だね、ネネミュウ!」
「ミュウ~♪」
私は肩の上に乗っかっているネネミュウへほほえみかけた。
……正直、ネネミュウのことはすっかりお気に入りになっていた。
最近では毎晩ネネミュウを抱き枕にして寝ているのだけれど、このコと寝るようになってから毎晩、人生最高レベルにぐっすり眠れるようになったの。
ネネミュウを抱えてベッドに入った瞬間、スットーン! と深い深い睡眠の底に落ち、次の瞬間には朝になってパッチリ! と目が覚めてる。マジで快眠が過ぎる。
眠りの浅い現代人にはうらやましくてたまらないであろう、この能力。このコを大量繁殖させて元の世界で大売り出ししたら、私、大金持ちになれるんじゃないかしら?
そーゆーわけで、ネネミュウは私の大のお気に入りとなっていたのです。プリンケッツには悪いけれどね。
それに、私が『召喚』スキルを身につけたことを女王さまにご報告しに行くんだから、召喚獣を連れて行ったほうが早いに決まってるわよね!
……それにしても、女王さまってどんな人なんだろう?
こんなに素敵な国の女王さまなんだから、とっても素敵な方に違いない。これからお会いできると思うと、楽しみすぎてワクワクが止まらないわ……!
生け垣や花壇のあいだを縫って、街の中央へ、中央と向かって歩いていく。
そうして巨大な魔方陣の中心、生け垣や花壇の集まる先に、王城があった。
「サヤ、あれが女王が待つ王城だ」
「うわあああぁ……!」
本当に、本当に、感動して言葉が出なかった。
巨大な魔方陣の中心に建っていたのは、淡く光るクリスタルのお城。天空に向かって氷柱みたいに伸びでていている。
とても大きな建物のはずなのに、遠くから見ると触れたら壊れてしまうんじゃないかと思うほどに繊細な造りをしていた。
さらに、周囲の花壇から舞いあがった花びらが中央の王城へと集まり、そこから上空へと吹きあげられている。
魔力のこもった花びらは天空へと巻きあげられたのち、国の全土へと舞い落ちていく。そうして届けられた魔力のこもった花びらが、この国の豊かな土壌を造りあげている。
だからこの国は年じゅうを通して花が咲き乱れているのだと、お兄さまは教えてくれた。
……なんか、スゴイな。感動して、涙が出そう。私、この国に転生してきてホントによかったかも。
「さぁ、サヤ。もうすぐで王城だ。早く女王のもとへと参ずるぞ」
「はいっ、お兄さま!」
「ミュウ~!!」
私とお兄さまは早く女王さまと謁見するべく歩を速めて、王城のなかへと入っていったーー。




