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新たなる召喚獣

 ゆっくりと話を終えて、メルサたちをお見送りした。

 あんな事件があったばかりだったし、コットリカの最後の言葉が気がかりだったので、エルローズ家の護衛騎士にそれぞれ家まで送っていってもらうこととした。


 エルローズ家付きの精鋭騎士たちなら、任せて安心ね!

 家に帰るまでの護衛だから気休めにしかならないかもしれないけれど、少なくとも今は安心して送り出すことができた。


 彼女たちの後ろ姿が見えなくなるまで、私は懸命に背伸びして手を振りつづけた。みんなも、ずっとこちらを振りむいて手を振りかえしてくれていた。



 ……さて、メルサたちを送り出したあと、私は家の中庭へと戻った。

 室内へと戻らなかったのはもちろん、『召喚魔法』の特訓をするためよ。だって、せっかく新たな力に目覚めたんだもの、磨きあげなきゃもったいないわよね!

 昼下がりの空を見あげれば、気持ちのよい高い空。絶好の特訓日和ね!


 よし、そいでは! 『召喚』!!

 ……とカッコつけて両手を広げて構えてみたはよいものの、何も起こらん。えーと、どうすればいいんだっけ?

 私の肩の上に乗ったネネミュウが不思議そうに「ミュ?」と首をひねっている。


「ねぇねぇ、ヒヅキちゃん! 聞こえてる~?」

『聞こえてるわよ、サヤ。ちょっと、もっとここぞって場面で呼びだしなさいよ。なんの用?』

「いいじゃんいいじゃん♪ あのさぁ~」


 私が宙に向かって呼びかけると、『魂珀のピアス』から映像が映しだされて、ヒヅキちゃんが顔を出してくれた。

 ブツブツ言ってるけど、なんとなくちょっと嬉しそうに見えるような……?


「『召喚魔法』って、どうすればいいんだっけ? どうすれば上手くなるのかな?」

『1回は成功したんだから、そのときのことを思い出してやってみなさいよ。やってるうちに上手くなるんじゃない?』


 フム。それもそうかと、私はネネミュウを呼びだしたときのことを懸命に思い出してみた。


 ……あのときは、とにかくメルサとリコを助けたくて夢中だった。

 私は目をつむり、自身の感覚に全神経を集中させる。

 心を開いて。力を抜いて。

 自分の魂に刻みこまれた筋道を通して、新たな世界へと通じさせる……。


『いい? サヤ。『召喚』の力を目覚めさせるのはあなたの『経験』と『必要性』よ。経験値があなたの器を広げ、『必要性』が新たな世界へとつないでくれる』


 私の体にまた痣が浮かびあがってきて、魔法陣が描かれていく。ネネミュウのときとは、違う魔法陣だ。

 ……イケる。新たな召喚獣との出会いだ。


 強くてカッコいいドラゴンみたいなヤツかな? それともガッシリとしてて頼りがいのあるゴーレム? あるいは妖艶で見る者を魅了する女魔人だったりして……!?

 とにかくワクワクが止まらない。


 私は声も高々に、召喚獣を呼びだした。そうして私はこの世界へと宣言する。これが私の、新たな力だ!!


「出でよ、『召喚』!!」


 ポンッ!


「プリプリ~♪ プリプリ~♪ プリプリ~♪」


「へ???」


 私の両手の振りかざした先に現れたのは、地面を小刻みに振動しながら徘徊する謎の生物。

 それはじつにプリプリとした、桃のような生物。思わず表面を撫でまわしたくなるようなすべやかさ。


 ……何コレ。

 ケツだ○星人? クレヨンし○ちゃん?

 これは本当に、私がこの世界に呼びだしたものだというの……?


 理想と現実とのあまりに違いに愕然としていると、ヒヅキちゃんが画面の向こう側からこちらを覗きこんできた。

 画面越しでも分かるほど彼女の体はプルプルと震え、笑いを堪えているのが分かる。


『おっ、おめでとう。あなたは『プリンケッツ』を呼びだすことに成功したわ。『桃』の神よ。ぷくっ……!』

「ヒヅキちゃん、笑わないでよ~!!」

『フフッ。ごめんごめん、だって……。プクク……!』


 ひどいよ、ヒヅキちゃん。彼女が笑うから、私もふくれてみせた。

 でも、いつもスンとしてて、冷酷の美少女然としてるから、ヒヅキちゃんもこんな顔を見せることがあるんだと思ってちょっと安心したかも。


 ……とは言え、ショックが大きすぎて動揺を隠せない。私は自分の足もとで蠢く桃型の生物を一瞥した。


 なんだよ、『プリンケッツ』って。

 これが自分が召喚したものと思うと、とてもじゃないけど正視できないわ。せめて、おしりた○ていくらいの品性は醸しだせないものかしら?


「プリプリ~♪ プリプリ~♪ プリプリ~♪」

「はぁ~あ。召喚獣って、こんなのしかいないの? これじゃとてもじゃないけど戦えないじゃない」

『フフ、そんな落ち込んだものでもないわ。召喚獣とつながることで、あなたが今まで使えなかった通常魔法も解放されて使えるようになっているのよ』

「え、ホント!?」


 ……サヤ=エルローズの魂には特殊な魔法理論によって構築された陣式が刻みこまれており、そのことが通常理論による魔法の習得の妨げとなっていた。

『召喚獣』との接合コネクトにより、封印されていたサヤの魔法力が解放される!


『オシリ魔法』と『オナラ魔法』が、使用可能となった!!


 ……何それ。

 使用可能となった!! じゃないわよ。

 私が『風刀ウインドカッター』をやったらオナラみたいになんのよ。そんなのいらないわよー!!


 スキル『打撃耐性』もゲット!!


 ……う~ん、これはなんとなく分かるかも。叩かれてもプルルン、って感じで衝撃を受け流すのかな?

 

『サヤ。あなた、ネネミュウとの接合でも力が解放されてるのよ? 『睡眠』系の初級~中級魔法が使えるようになってるし、さらにスキル『睡眠耐性』『催眠攻撃』まで使えるようになってるわ』

「そうなの!? それじゃあ私、もう通常魔法も使えるようになってるんだ!」

『ネネミュウはまだ幼体だからね。召喚獣が成長すれば、上級魔法も使えるようになるかもしれないわよ』


 ……なるほど。新たな召喚獣と出会うたびに、私自身も強くなるってわけね。

 使える通常魔法が増えるし、スキルまで身につく。

 さらにヒヅキちゃんによれば、基本スペックとしての魔法攻撃力・魔法防御力も上がっており、その度合いは接合する召喚獣の位が高いほど高くなるらしい。


『召喚魔法』って、やっぱりスゴいんだ。

 これからどんな召喚獣と出会えるかと思うと、ワクワクしてきた!


『サヤ。あなたは特殊体質、その魂に刻みこまれた魔法陣式によって幻想神フジムラーの想像世界とつながっているの。いろいろな経験を積むことで、まだ見ぬ召喚獣と出会い、新たに呼び出すことができるようになるわ』

「幻想神フジムラー?」

『そーゆー名前なのよ。細かいことは気にしないことね』


 フム。あたりまえのことかもだけど、もっともっと修行して、いろんな実戦経験を積んで、『必要性』が出てくれば新たな召喚獣とも出会えるってことね。

 これは、励むしかないわ!!


「よーし、これから頑張るわよ~! ねっ、ネネミュウ!!」

「ミュウ~♪」

「プリプリ~♪」


 私がネネミュウ(あとケツ)とともに決意を新たにしていると、中庭の入り口のほうから私のことを呼ぶ声がした。


「サヤ!」

「あっ……」


 私が声のするほうを振りかえった、その先にいたのは……。


(つづく!!)

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