輝く水面
◇
テュミルトの街では、たくさんの怪我人や、ワイバーンの毒に冒された人で溢れていた。
でも、大丈夫。王国正規軍の医療部隊の人たちが、回復魔法や解毒魔法で治療してくれた。
ヴァルムンクの人たちも、ワイバーンの狩猟の際に毒を受けたときに使う秘薬を分け与えてくれた。
王国軍はヴァルムンクとずぅ~っといがみ合ってきたらしいけど、協力するようになったら最高に頼もしい仲間になるはずよね!
そんなことを考えていたら、王国軍の人に話しかけられた。
誰かと思ったら、王国軍側の隊長・バルサム・ロズホーセンさんだ。デカッッ!!!
「バクハハハァ。まったく見事なケツだったな、嬢ちゃんよ? ケツ神の使いとは恐れ入るぜ!」
「クッ……!」
さっそくイチバン痛いところを突つかれた。そこは見て見ぬフリしなさいよ……!
私は見あげるようにして隊長さんの顔を睨みつけた。
「せっかく蛮族どもとド派手にブチかまそうと思ってたのに、まったく余計なことしてくれたぜ、嬢ちゃんよ?」
「ハイハイ、余計なことしちゃって、スミマセンでしたね……!」
「だが、あのヴァルムンクの連中は相当にやり《傍点》やがる。味方につけりゃ大手柄だろうよ。さすがはファスマの妹ってモンだな? バクハハハァ!」
あ、私のこと知ってたんだ。なんだかお兄さまのことも知ってる風だな?
でもまぁ、軍の隊長格ともなれば、お兄さまのことを知ってるのは当然か。
バルサムさんは大っきな手で私の頭をポンポンとすると、そのままどっかに歩いていってしまった。
今度はバルサムさんのあとを付いて歩いてきてた女の子が、グイッと私に顔を寄せてきた。近い。
「あはははぁ。サヤちゃん、お友だちになろぉ。今度おうちに遊びに行くねぇ」
「えっ。あ、うん! いいよ!」
「これからもよろしくねぇ」
「よろしく!」
この子は副長さんね。私と同い年くらいみたい。透明感のある天使みたいなお顔でカワイ~!
きっと、キラキラした可愛らしい魔法で戦うに違いないわね♪
(背中に背負ったメイスは妙に凶悪な形状してるけど……。しかも血まみれ……?)
バルサムさんとカミリアちゃんが挨拶していってくれたあとは、ワイバーンの掃討を終えたヴァルキリアーの皆さんが続々と降りてきていた。
少人数でホントにあの数のワイバーンをやっつけてしまったのはさすが。
ヴァルキュリアーを率いていたヴァーナさんが、私の目の前に着地し、そのままひざまずいた。
「サヤさま、お見事でした。召喚獣による攻撃の、あの驚異的な破壊力の高さ。感服いたしました」
「いえいえ、それほどでもぉ~」
「これでまだ発展途上のスキルだとは……。まったく、末恐ろしいですわ」
「あはは、褒めすぎだってば~」
ヴァーナさんはひとしきり私のことを褒めたあと、「では、私はこれにて」と立ち去ろうとしたので、呼びとめた。
「あっ、そうそう。ヴァーナさん!」
「ん?」
「今回は助けにきてくれてありがとね。家に帰ったらお兄さまにヨロシク言っておくわ」
「え❤️ ホントですか❤️❤️❤️」
戦いのあいだ、終始冷静な相貌を崩さなかったヴァーナさん。
お兄さまの存在をチラつかせた瞬間、デヘッとだらしなく頬を緩ませた。
フフッ。華麗な翼人女戦士も、お兄さまの名を持ちだせば空飛ぶメス豚になりさがることはリサーチ済みよオホホホ。
ヴァルムンクの人たちは討伐されたワイバーンの肉を受け取ると、ホクホクウガウガしながら帰っていった。
民族は違っても同じ人間なんだから、これからはお互いに仲良くやっていけるといいな。
ちなみに言語の壁を乗り越えるきっかけを作ってくれた幻獣・ヤハナクレム。ヤハナクレムと接合したことで、新たなスキルを獲得した。
『多言語理解』
あらゆる言語を理解し、会話することができる。
これはスゴい! もう『言語学』の授業を真面目に受ける必要はなくなっちゃった!
ただし、文法の難解な言語やなじみのうすい言語など、私の『知性』で理解できない範囲の能力は発揮できないらしい。
『呪文解析』
敵の唱える詠唱を聞くだけで、その理論を解析することができる。
オリジナル呪文でも、詠唱を聞くだけで解析することができ、模倣や反転する際の役に立つ。
これもすごいスキルだけど、やはり私の『知性』で理解できぬ魔法理論を扱うことはできない。
言語の神・ヤハナクレムは幻獣のなかでも上位の存在。
ヒヅキちゃんによれば、接合が深まればさらに秘められたスキルが使えるようになるらしいけど……。
いずれにせよ私自身の『知性』、すなわち能力が高まらなければ、その力の全てを解き放つことはできない。
まだまだ精進が必要ということね。がんばらなくちゃ!
続いて、なじみ深い声が聞こえてきた。またみんなの声が聞けることに、涙が出そうになった。
「はや! いたいた、サヤちゃん!」
「サヤちゃん! みんな無事で、よかったのデス!!」
リコとノハナだ! ふたりとも早々に別行動になっちゃったけど、怪我もしてなさそうでよかった。
さらに、彼女らといっしょにアメリさんもいて……なんと、再会するやいなや抱きしめられてしまった!!
アメリさんみたいなキレイな人にいきなりギュウと抱きしめられて、なんだか訳も分からずドギマギしてしまった。
え? え? いったい何事??
「ア、アメリさん。どうしたの……?」
「サヤさんが、あの海の神が呼んでくれたんだよね? ありがとう。やっと、海の神の姿を見ることができた。あなたと会えて、本当によかった。私は決して、この出会いを忘れないわ」
海の神……?
ああ、アクァークのことか。
……そっか。そうだよね。
がむしゃらになってスキルを発動したら来てくれたのがアクァークだったんだけど、アクァークが選ばれたのはきっと偶然じゃない。
出会いが出会いを呼んで、海の神へとたどり着いたんだ。アメリさんの願いが、私とアクァークを結びつけてくれた。お礼を言うのは、私のほうだ。
アメリさんは喜びでその碧い瞳を輝かせていたけれど、やがて悲しげにまつ毛を伏せた。
「海の神の姿を見たことで、私は祈り子としてより成長することができる。でも、守ろうとしていた肝心の故郷がこうも荒れはててしまっては、元の街の姿を取り戻すのには時間がかかりそうね……」
「あ……」
ワイバーンが暴れまくり、激しい戦いが繰り広げられ、テュミルトの街並みは壊されていた。
王国正規軍の懸命な手当てのおかげで死傷者は最小限に抑えることができたけど、元の街並みを復元するのは容易ではなかった。
街の人々が元の生活を取り戻し、港街としての機能を復活させるのにはかなりの時間がかかりそうだわ。どうしよう……。
「大丈夫なのデシュ。ポックンに任せるのデシュ!」
「あっ、ゲッシ!」
声のするほうを振りむくと、そこにいたのはどこかに行ってしまったはずのゲッシだった。
メルサもいっしょにいる。でも、しおらしくゲッシのそばに立っていて、なんだかカワイイぞ?
「このテュミルトの復興のために、ポックンはポピンズ家の威信にかけて支援することを約束するのデシュ!」
「え、いいの!?」
「もちろんデシュ! ポックンはもともとこの街が大好きで、よく訪れていたデシュ。惜しみなく支援するとデシュよ!」
「おぉ~!!」
ヒューヒュー! さすが大財閥の御曹司、気前いいじゃない♪ よっ、世界一!!
ゲッシは隣に立っていたメルサのほうを振りむくと、ひざまずいて小箱を差し出した。
箱パカすると案の定、なかに入っていたのはエンゲージリング。ダイヤでかっ!!
「メルサしゃん。今回の旅行、君にプロポーズするために計画したのデシュ。恥ずかしいところも見せてしまったけれど、成長することを約束するとデシュ。だから、この指輪を受け取ってクリクリ」
「ッ……!」
メルサは頬を赤らめ、受け取ろうと一瞬手を伸ばしたけど、引っ込めてモジモジしてる。かっ、カワイイ……!!
ダメだ、今日のメルサは私のツボすぎる。
「私、ホントはこんなしゃべり方だけど、いいのか……? じっとなんかしてらんないし、すっごいワガママ言うし……」
「やっとありのままのメルサしゃんを見せてくれるようになってうれしいデシュ。よりいっそう、君のことが好きになったデシュ」
「そう? なら……」
私とリコとノハナはいつの間にか前のめりになって両コブシをにぎり、ゴクリと生唾を飲みこんだ。アメリさんも。
「いいよ……結婚」
「ホントデシュか!? やったー!!!」
「ちょっと待って、ゲッシ! ただし、条件があるんだ」
「え? 条件デシュか??」
「うん。私はまだ、サヤ、リコ、ノハナ、学院の友だちといっしょに過ごす時間を大切にしたい。学院を卒業するまでのあいだ、結婚は待ってくれないか……?」
私たちみんなの視線が、ゲッシへと集まる。
メルサに上目づかいで見つめられたゲッシは、胸を張って見つめ返し……。
「もちろんなのデシュ! メルサしゃんが学院のお友だちとの大切な時間を過ごしているあいだ、ポックンはいつまででも待っているのデシュよ!!」
つまり……婚姻成立ってことよね!!
「「メルサ、おめでと~!!!」」
「うわっ、みんな!?」
みんなで駆けよって、メルサを祝福した。
中心で頬を赤らめて照れているメルサが、なんとも言えずまぶしい。
……これで、よかったんだよね。
ゲッシはたしかに情けないところもあるけど、成長して変わろうとしてるし、なんだかんだ言って優しいし。あとお金持ちだし。
危うくメルサに婚約破棄させるトコだったけど、きっと、ゲッシはメルサを幸せにしてくれるに違いない。
いいなぁ、早く私にもステキな人が現れてくれないかしら♥️
ゲッシはひとしきりピョンピョン飛びはねて喜びを表したあと、私たちのほうへと振りむいた。
「いつもメルサしゃんを支えてくれているお友だちの皆しゃんにも、感謝の気持ちを伝えたいデシュ!」
そう言って、ゲッシはこちらに向かってズンズン歩いてきた。
なんだかイヤな予感が止まらない。
「友だチ○コ!!」
だから、それはもうやめ~い!!
幸いなことに、ワイバーンたちは魔導列車の路線には興味を示さなかったみたい。
山側にある線路には被害がなく、ほぼ通常どおり運行ができた。
飛空艇でお迎えがきたゲッシと別れ、私たちは帰りの列車に乗りこんだ。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
車窓から、後方へと遠ざかるテュミルトの街並みを覗きこむ。街の向こう側に広がる海の水面がキラキラと陽の光を照りかえしている。
それは、今までに見たどんな海よりも綺麗に輝いて見えた。




