言語の神・ヤハナクレム
◇
王国正規軍の人たちから事情を教えてもらった。
あの黒マスクのあらくれ者たちは北方の蛮族ヴァルムンクで、北の国境沿いで戦っていたはずがいなくなってしまい、ここまで追いかけることとなってしまったそうな。
正規軍の特攻部隊である『閃光爆砕騎士団』がせっかく出向いたところであったのにすれ違いとなってしまい、戦いは今日までお預けとなってしまっていたようだ。
「ウゴウゴ、ウゴゴ」
「ウガ~」
ヴァルムンクの男たちがなにやら説明してくれようとしてるけど、ぜんっぜん何言ってるか分からない。
石板に白亜でワイバーンとプリンケッツらしきモノが書いてあって、それに関して説明しようとしてくれてるのは伝わるんだけど、あとはいっさい分からない。
だってウゴウゴウガウガしか言わないし。
「バクハハハァ。やっぱ戦っちまうかぁ? 言葉が通じねぇなら拳で語りあえばいいじゃねぇか」
「あはははぁ。タイチョーにサンセー。そのほうが早いし、考えるのめんどくさいしぃ♪」
「隊長! 副長! 仮にも部下を率いる立場なんですから、もっと思慮深く行動してくださいよ。殴り合うことしか考えてないんだから、まったくもう……」
あらやだ、せっかく戦闘を回避できそうな雰囲気になったのに。
このまま王国正規軍に任せてたら結局戦うことになってしまいそうだわ。それにしても、なんだかヤバンな人たちね~。
無駄に血を流すのはよくないことだし、戦場となるテュミルトの街も荒廃してしまう。
なんとかできないものかしら?
と、再び私の体に魔方陣の痣が浮かびあがってきた!
今度は新しい召喚獣との出会いの導きだ。見えた、新たな『必要性』!
「言葉を伝えて! ヤハナクレム!!」
『◎※€£△¢……』
私が召喚スキルを発動すると、宙に浮かぶ石板が現れた!
人ひとりがスッポリ収まるほどの大きさで、見開きの本型になっている石板だ。
石板には裸の男性が浮かし彫りにされており、手に開いた書を見つめながら、聞いたことのない言語の言葉を延々と呟きつづけている。
これが古の香りただよう言語の神、ヤハナクレム!
ヴァルムンクの人たちがしゃべると、ヤハナクレムが私たちの言葉へと翻訳して話してくれた。
「ウゴウゴ、ウガー」
「ウゴ!」
『我はヴァルムンクの酋長、ウガオ=ボルゴー。このたびは貴国の領地に許可なく足を踏み入れ、申し訳なく思っている。だが、どうか許してほしい。我らが北方の地は今、気候の変化などにより、歴史的な食糧不足に陥っているのだ。しかし、ワイバーンは我らヴァルムンクにとっては貴重な食糧であり、太古より狩猟の対象としていた。ワイバーンの大量発生は貴国にとっては災難であっただろうが、我らにとっては願ってもない僥倖、この食糧危機を脱するための好機と考えたのだ。そうであるな? 我が息子、ウル=ボルゴーよ』
『ハッ! その通りであります、我が父にして我らが酋長、ウガオ=ボルゴー。我らはワイバーンの群れが海のほうへ南下するのを見て、それを追うことに決めました。一族の女子どもを飢えから守るため、国境沿いの持ち場を離れ、貴国の領地に深く侵入することとなったのです』
……え!? そんなにしゃべってる!?
しかも、めっちゃ知性的!
ウゴウゴウガウガで、どうやってその情報量を伝えてんのよー!!
続いて、ウガオとその息子・ウルは姿勢を正して私のほうへと振り向いた。
私の隣ではケツが「プリプリ~♪ プリプリ~♪」と鳴きながら蠢いている。
「ウゴ」
「ウガ」
『神の使い・サヤ=エルローズ氏よ。我らが神・プリンケッツさまを顕現せし偉業に痛み入る。生きてそのご尊顔を拝見できたことに、我らは深く感動を覚えた。もはやこれ以上の望みはないほどだ』
『プリンケッツさまはかつて我らの祖先を生みだした神であると同時に、祖先が滅びかけたときに御姿を現し、幾度となくその危機を救ってくださったと言われています。今では伝承とともに、石板に描かれたその尊き御姿を残すばかりとなっているのです』
このウガオたちの発言を不思議に思い、私はコッソリと『魂珀のピアス』からヒヅキちゃんを呼びだした。
私にしか見えない画面に、彼女の顔が映りこむ。
「ねぇねぇ、ヒヅキちゃん。どーゆーこと? 召喚獣は幻想神の想像世界のなかの生き物だったんじゃないの?」
『召喚師はたしかに珍しい存在だけど、あなたが初めてじゃないわ。かつての召喚師がたまたまプリンケッツを呼びだして、この部族を救ったのかもしれないわね。あるいはこの世界に縁の深い幻獣は、自らの意思で姿を現し、干渉する場合もあるわ』
「ふ~ん、そういうこともあるのねぇ」
それにしても、プリンケッツがまさかこんなあらくれ者たち(しかも実はめっちゃ知性的)にとっての神サマだったとは。
ケツは見た目によらないわねぇ。
それにしても言語の神がコレを真面目に通訳してるの、めっちゃシュールだわ~。
最後に、ボルゴー親子はこう言って話を締めくくった。
「ウンガ~」
「ウ!」
『神の使い・サヤ=エルローズ氏よ。いずれにせよ、我らにはもはや貴殿と戦う意思はない。これも、神の導きなのかもしれぬ。長き戦いの歴史に終止符を打ち、和平の道を歩まんことを誓お~』
『あつかましい頼みですが、ワイバーンの肉だけ我らにいただけぬでしょうか? それさえ譲っていただければ、我らはその恩情に報い、いかなる貴国の危機にも駆けつけ、永遠の友情を約束することでしょう!』
「いやだから、ホントにそんなしゃべってる!?」
なんだかよく分からんけど、こうしてヴァルムンクとの和平交渉に成功したのであった!!




