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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
潮騒の踊り子とバカ御曹司

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海の神の姿

 ヴァーナさんは、ワイバーンキングと激しい戦いを繰り広げていた。

 周囲から『ヴァルキリアー』の仲間たちも何人か集まって、ヴァーナさんを加勢しているわ。


 でも、ワイバーンキングの鱗がブ厚すぎて、槍も魔法もぜんぜん通らない!

 攻撃が効かないのをいいことに、ワイバーンキングはやりたい放題だ。


「ゴアアアアァッ!!」


 噛みつき攻撃、はばたき攻撃、猛毒の霧……。


 噛みつきでは、すばやく飛べるヴァーナさんたちを捉えることはできない。

 でも、顎の力が強すぎて、建物の屋根だろうが、煙突だろうが、なんでも粉々に噛み砕いちゃう。

 それに、あの巨大なワニのような顔で迫ってくるさまは恐怖でしかないわ!


 羽ばたきによる攻撃もかなり厄介。

 とにかく翼が大きいからリーチが長いし、ものすごいパワー。

 翼を広げながらその場でグルンと1回転するだけであたり一帯のものを全て叩きのめし、突風でブッ飛ばしてしまう。


 そして、猛毒の霧。

 ワイバーンの尾についた棘には毒があることが知られているけど、ワイバーンキングはその毒の量もハンパない。


 分泌される毒液が多すぎて尾を振るたびにほとばしり、毒の霧を撒きちらす。

 翼が巻きおこす風も相まって、周囲がどんどん毒に汚染されていくわ!


「左右に挟んで的を絞らせるな! 正面と後ろには行くなよ、噛みつきと毒の霧が来るぞ!!」

「「ハッ!!」」


 ヴァーナさんの的確な指示のもと、『ヴァルキリアー』の皆さんも奮闘している。

 でも、いかんせんやはり人数がぜんぜん足りてない。


 火力が足りなくてワイバーンキングにダメージが通らないし、周囲からまとわりつくようにたかってくるモブワイバーンがウザったくて仕方ない。

 気をぬくと取り囲まれてしまうから、ワイバーンキングとの戦いに集中できないみたいなの。


 モブワイバーンとの戦いに専念している戦士さんもいるみたいだけど……。

 このままじゃモブワイバーンの数が減るのより先にヴァーナさんたちが力尽きてしまうわ。


「きゃあっ!」

「あぁっ……!!」


 そうこう言ってるうちに、ヴァルキリアーの戦士さんたちのなかにも倒れる人が出てきた。

 ヤバいヤバい、私も見てるだけじゃなくて何か手伝わないと。

 でも、私は空を飛べないし、遠距離用の攻撃魔法も使えないしな……。


 なんて考えてたら、急に両肩を後ろから何者かにつかまれた!


「え!? あっ!!」

「クアアァ! クアアァ!」


 1匹のモブワイバーンに足で両肩をつかまれたんだ。

 ワイバーンはバッサバッサと翼を羽ばたかせて、私をつかんだままどんどん上空へと浮かんでいく。

 両肩にワイバーンの足の爪先がしっかり食いこんでて、とっても痛い。必死に足をバタつかせるけど、ぜんぜん抜けだせそうにもないわ!


「わっ! わっ! イタタタタ! ちょっと、離してよ~!!」

「クアアァ! クアアァ!」


 このバカワイバーンはどんどん高度をあげて、上へ、上へと飛んでいく。

 コイツ、さては上空で私を落っことすつもりだわ。なんてひどいイタズラ!


 視界の端でヴァーナさんがこちらに気がつき、振り向いたのが見えた。


「サヤさまっ……ハッ!」

「ゴアアアアァッ!!」

「グッ!!」

「ヴァーナさん!!」

「「ヴァーナ隊長!!」」


 ヴァーナさんがこちらに気を取られた隙に、ワイバーンキングの翼に当てられてしまった!


 ヴァーナさんはとっさに槍を構えてガードしたけれど、そのまま近くの建物まで突き飛ばされてしまった。

 建物が砕け、壁に穴が開くほどの衝撃。背中の翼がクッションになってくれたけど、羽根を傷つけてしまったようだった。

 瓦礫と粉塵にまみれ、彼女は悔しそうに舌打ちした。


「クッ……不覚を取った。おのれデカブツめ……!」


 ーー翼を傷つけられてしまった。飛べないほどではないが、ケガする前の速度はもう出せない……!


 隊長であるヴァーナさんが負傷して、ヴァルキリアーの面々は一気に劣勢になってしまった。


 かくいう私も人の心配をしてる場合などではなくて、バカワイバーンにかなり上空まで連れ去られてしまっていた。

 建物がゴマ粒くらいに小さく見えて、ここから落とされたらと思うとゾッとする。上空の風は強くて冷たいのに、ダラダラと冷や汗が止まらない。


 どうしよどうしよどうしよう……。このままじゃホントにパラシュートなしでスカイダイブして、地面にぶつかってペシャンコだわ!

 

 と、私が内心で焦りまくっていたところ、『魂珀のピアス』から画面が映しだされた。

 画面の向こうではヒヅキちゃんがこちらに冷ややかな視線を送っていた。


『ちょっと、サヤ。何してんのよ。早く振りほどかないと高所から落下してダメージを受けるわよ』

「えええぇ、ヒヅキちゃん!? いやでも、今振りほどいたら落下するでしょ!? ダメージってか、死んじゃうわよ~!!」


 私が言い返すと、ヒヅキちゃんはハァ~と深いため息をつき、頭を振った。

 え。私、何か間違ったこと言ってるかしら……?


『いい? サヤ。ピンチは素晴らしいチャンスなの。高さはエネルギー。そのエネルギーを活かさないという手はないわ』

「え? え? なんの話??」

『誰よりも高い位置にいれば、空を飛んでる敵にも攻撃が届くわ。それに、落下のエネルギーを活かして攻撃の威力を何倍にも高めることができる』

「え? つまり??」

『つまり、上空にいる硬い敵もやっつけることができるってことよ。頑張ってね、そいじゃ』


 言いたいことを言いたいだけ言いきると、ヒヅキちゃんはいつものごとくプツン、と画面を切ってしまった。

 ……高いとこから攻撃できるったって、遠距離攻撃ができないから困ってるのに。どうやって攻撃しろっていうのかしら?

 その前に、まずはこのバカワイバーンの爪を振りほどけって言ってたな。そもそもそれすらできなくって困ってるっていうのに。


 ……そうだ! このバカワイバーンから逃れる方法はあった!


「ネネミュウ、よろしくっ!」

「ミュウ~!!」


 ネネミュウは私の服から潜りでると、私の肩をよじ登って、バカワイバーンの足へとタッチした。


強制フォースド催眠・スリープ』!!


 標的に直接触れることさえできれば、ネネミュウにはこの力がある。

 拒絶リジェクト不可能、相手は一瞬で死んだように眠りこむこととなる。それはこの高さから落下して地面に激突しても、目が覚めぬまま息絶えるほどに深い眠り。


「クァッ……」


 案の定、バカワイバーンは足から力が抜け、私のことを手放した。

 翼を羽ばたかせるのをやめ、眠りこんだまま落下を始める。体の重たいワイバーンは落下速度も速く、いち早く落ちていく。


 と、私とネネミュウも落下に転じた。

 加速するとともに内臓がブワッと浮かぶ感じがして気持ち悪い。

 下から猛烈に風が吹きあげてくる!


「ヒエエエエ~!!」

「ミュウウウ~!!」


 ネネミュウといっしょになって、仲良く絶叫。

 でも、最高速度に達して内臓の浮かぶ感じが落ち着いてくるとともに、少し冷静さを取りもどした。


 頭では理解できなくとも、魂がなすべきことを知っている。

 体に魔方陣の痣が浮かびあがるのともに、自分がやろうとしていることを思い描けるようになった。

 ……見えた、私の求める『必要性』!!


 踏ん張る足場がないところ、私は必死に腹筋をひきしぼって、声の限りに叫んだ。


「ヴァーナさん、ワイバーンキングの動きを封じて!!」

「ッ!!」


 ヴァーナさんは私の声を聞くと瓦礫から立ちあがり、呪文の詠唱を始めた。

 魔力がほとばしり、翼の羽根がざわついて毛羽立っていく。


「サヤさま、ファスマさまの実妹。そのお力、信じます! 『風槍ウインドスピア戦女神ヴァルキリアーズ!!』」 


 それはヴァーナさんの切り札。

 彼女のほぼ全魔力を注がれて放たれた魔法。1度の戦闘で2回と放つことはできず、ここぞというときしか使わない。


 ワイバーンキングを取り囲むように全方位から、無数の風槍が撃ちはなたれた!

 しかも1本1本が高密度に魔力を練りこまれた、必殺の風槍。

 これにはさすがのワイバーンキングの硬い鱗も撃ちぬかれ、ダメージを与えた。


 残念ながら、仕留めるには至らない。

 でも、ワイバーンキングは全身を風槍に刺しぬかれて、その場にピン留めするように動きを止めることができた。

 それでじゅうぶん、私にはこの空飛ぶ大ワニを倒す道筋が見えている。


 そのまま宙を落下しながら、私は再び叫んだ!


「お願い、来て!! アクァーク!!」


 私が召喚スキルを発動すると、宙に水の塊が現れ、巨大な海蛇の姿を取った。


 ーー水の化身・アクァーク。


 アクァークはビロードのように長く艶やかに伸びる襟飾りと胸ビレをなびかせ、空中で咆哮をあげた。


「キシャアアアアアアァッ!!!」


 ーーこのとき、ヴァルキリアーの戦士に家屋の屋上で保護されていたサザ=アメリ=テュミルトは、アクァークがこの世界の空に呼びだされた瞬間を目の当たりにしていた。


 彼女はまばたきひとつすることなく目を見ひらき、その海の結晶のように碧き瞳に、巨大な海蛇の姿を刻みつけていた。


 ビロードのように艶やかな襟飾りで彩られた、美しき顔貌。波のうねりのように力強く躍動する胴体。そして、水面のように繊細にさざめく鱗……。


「これが、海の神の姿……!!」


 そのとき、アメリの目にはとめどもなく涙があふれていた。まるでその海の結晶のような瞳が、溶けだしていくかのように美しき涙。


 ーーあの神々しい姿を、かつて祖先・アラン=テュミルトが幼きころに見たであろうあの姿を、そしてついにその姿を目に当たりにすることができたこの感動を、一生心に刻みこんで生きていこう。

 そうすればきっと、私は海のことをもっと理解できる。今よりもっと強くなれる……!


 事情を知らぬヴァルキリアーの戦士が、涙を流すアメリのことを心配して、労りの声をかけた。


「どこか痛むのですか? 大丈夫……?」

「ううん、違うの。私は今、とてもうれしいのです。ずっとずっと見たくて見たくて仕方なかったものに、やっと出会えたから……」


 涙は流しつづけていたものの、アメリの空を見あげる顔は、今まで彼女が見せたどんな表情よりも晴れやかな笑顔だったーー。


 アクァークは自身の魔力でさらに巨大な水の塊を宙に発生させると、そのままワイバーンキングへとそそぎ落とした。


 それは、ほとんど津波とも呼ぶべき水量。

 この圧倒的な質量は、高低差によってその威力を最大限に発揮されることとなった。


 津波が滝のように垂直落下したとき、その威力が絶大なものとなることは想像に難くない。

 まさしく巨神が振りおろしたかのような絶大なエネルギーをもってして、水のつちがそそぎ落とされた!!


大海衝フラッド・インパルス』!!


 さらにさらに、召喚獣の能力は召喚者のステータスに左右される。

 クラーケンのごろごろカレーを食べていたことによって、私は『魔法攻撃力1.5倍』+『水属性ブースト・改』のバフを受けていた。

 まさしく、アクァークは今このときに召喚されるための召喚獣だったのよ~!!


「ゴアアアアァッ!!!」


 水の塊が、ワイバーンキングの背中を直撃した!

 これにはさすがのワイバーンキングも堪らない。鱗を砕き、全身の骨を粉々に撃ちくだいた。

 竜の王の、最後の瞬間だった。




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