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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
潮騒の踊り子とバカ御曹司

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健気な献身

 さらに、皆の目の届かぬところでもまた、別のドラマが展開されていた。


 メルサはアメリとともに時計塔から投げだされ、家屋の屋上へ落下したのち、そこからさらに地面へと転がり落ちていた。


「うっ! ぐっ! あっ!」


 メルサは何かにぶつかって体が跳ねるたびにうめき声をあげ、ゴロゴロと屋根瓦を転がり、最終的には路肩に積んであった藁の上に落下した。

 衝撃で、藁を積んであった木箱は粉々に壊れてしまう。


 これによって落下の衝撃は和らげられ、重傷を負うことは免れたものの、屋根瓦を転がるうちに全身ムチ打ちになってしまった。

 メルサは藁にまみれたまま、地面にうずくまった。痛みで、とうていすぐには動きだせそうもない。


「うううぅ……!」


 しかし、上空からは容赦なくワイバーンが追撃してくる。

 2体のワイバーンが翼をはためかせ、狭い路上へと舞い降りようとしていた。


「クアアアァッ!!」

「クァッ! クァッ!」


 身動きが取れずにいるメルサを、ワイバーンがその尖った鼻先と口でついばもうとした、そのときであった。


「あんたしゃんたち、メルサしゃんから離れるデシュ!!」

「クァッ?」 


 そこに現れたのは、メルサたちの前から姿を消したはずのゲッシ=ポピンズであった。

 彼は不恰好ながらも、短い足を持ちあげて振りかぶり、野球のピッチャーのようなフォームで何かを投げた。

 とはいえ運動神経が悪すぎて、持ちあげる右足と振りあげる右手とで左右がいっしょになってしまっている。


「とあああああ゛ぁ~っ!!」


銭投げ(コイン・トス)』!!


 ゲッシが投げたのは2枚のコイン。

 投げる技術が未熟すぎて、1枚はあさっての方向へと飛んでいってしまったが、もう1枚はたまたまワイバーン1匹の翼に当たった。


「グアゥッ!!!」


 コインが当たった瞬間、ボンッとワイバーンの体は弾け飛び、一瞬で跡形もなく蒸発してしまった!!


 ーーゲッシの固有スキル・『銭投げ』。そのダメージは使い手の所有資産に左右される。

 世界有数の財閥であるポピンズ家の御曹司がこのスキルを使えば、そのダメージは天文学的なものとなるのだ!!

 (ちなみに、使った分だけのお金はきちんと消費される)


 仲間が跡形もなく消滅したのを見てもう1匹がひるんでる隙に、ゲッシはメルサのもとへと駆けより、彼女の前に立った。

 両腕を大きく広げ、メルサを庇うようにして立つ。


「メルサしゃんに手を出すなデシュ! 彼女を傷つけることは、ポックンが許さないデシュ!!」

「ゲッシ……」

「メルサしゃんのことは、絶対にポックンが守るデシュよ!!」


 ……ゲッシの足元を見てみれば、生まれたての小鹿のようにガクガクと震え、必死に恐怖と戦っているのが分かる。

 だが、それは今までの彼であったならば、とうてい考えられないような行動であった。

 

 そんなゲッシの健気さを踏みにじるかのように、ワイバーンはその無慈悲な牙を突き立てようとしていた。

 しかしそのとき、異常に気がついた『ヴァルキリアー』の戦士が駆けつけた!


『飛天突き』!!


 上空から垂直降下し、槍の切っ先に全体重を乗せる技。その威力は体の軽いヴァルキリアーの女戦士でも巨岩を撃ち砕くほど。

 竜の硬い頭蓋をも軽々と撃ちぬき、一撃でワイバーンを仕留めてみせた。


 急場をしのぎ、メルサはゲッシへと問いかけた。


「ゲッシ……どうしてここに? 私たちの前からいなくなったはずじゃ……」

「メルサしゃんに届けたいモノがあって、ここまで駆けつけたデシュ!」

「コレは……!」


 ゲッシがゴソゴソと懐をまさぐって差し出したモノは……ルーフェリア魔導女学院の生徒会長に代々伝わるロッドであった。


「そんな……このロッドは海のなかに落ちたはずじゃ……!」

「相棒のアレクサンドロスといっしょに、このあたりの海辺に潜って探したデシュ。運よく見つけて返そうと思ったところで、時計塔で戦っているメルサしゃんを見つけたデシュよ」

「カメ~♪」

「探したって……この広い海辺を……!?」


 よく見ると、ゲッシの髪の毛はまだしっとりと湿っていたし、ロッドにも乾きかけの海草がこびりついている。


 どこまで見渡しても海岸が広がるこの街で、ロッドを探すために海に潜って探すなんて信じられない。

 それこそ、砂漠に落ちてるゴマ粒を探しだすようなものだ。運よくすぐ見つかったけど、沖のほうへ流れて永久に見つからない可能性だってあったのに。


「あの……ありがと」

「許してくれとは言わないデシュ。ポックンが情けないからこんなことになってしまったけれど、変われるように努力するから、見ててほしいデシュよ」

「うん……」


 メルサはロッドを受け取り、なにやら神妙な面持ちとなった。

 ゲッシがメルサの次の言葉を待っていたところ、あたりに強い振動が起こり、轟音が響きわたった。

 それは丁度、ワイバーンキングが姿を現し、時計塔に再び突撃したところであった。


「そこのおふたり、ここは危険よ! あとは私たちに任せて、早く遠くへお逃げなさい!!」


 助けてくれたヴァルキリアーの女戦士が、メルサたちへと呼びかけた。

 メルサが見あげると、大量の土煙のなかでワイバーンキングが悠々と翼を羽ばたかせ、再び浮上しようとしているところだった。


 状況がぜんぜん見えてこない。サヤは大丈夫だろうか。アメリはこの翼人の女戦士たちに保護された? あの恐ろしいバケモノはいったい……。


「サヤ……!」


 メルサは親友の身を案じ、宙へと向かって彼女の名を呼んだのであった。




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