あぶないヤツら
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街の南側でサヤたちがワイバーンキングと遭遇していたころ、北西部では王国正規軍とヴァルムンクが対峙していた。
双方互いににらみあい、いつ戦火の口火が切られても不思議ではない状況。
しかし、そんな人間の機微など知る由もないワイバーンたちは、空気を読むことなく両軍へと襲いかかっていた。
「「クアアアアァッ!!」」
このワイバーンの襲撃に対し、まず最初に動いたのは正規軍の隊長であった。
「バクハハハァ。バカなワイバーンどもが、見境いなしに襲ってきやがる。蛮族どもとやり合う前に、まずはコイツらを片付けてやるぜ!!」
力士のような並外れて巨大な体躯に、オーバーオールで身を包んだ男。両手には身の丈ほどの長さもある戦搥をにぎっている。
彼の名はバルサム=ロズホーセン、ISRR・Aランク。
栄光ある正規軍のなかでももっとも攻撃的で、突破力の高いといわれる部隊『閃光爆砕騎士団』の隊長である。
彼は身をねじって持っていた戦搥を大きく振りかぶると、思いっきりスイングした。
戦搥の振りとともに空気の振動が伝わり、その延長線上にいたワイバーンたちへと直撃した。
『爆裂搥』!!
戦搥の振りに当たったワイバーンたちは轟音をあげて爆発し、粉微塵に弾け飛んでしまった!
爆風が吹き荒れ、宙にいくつもの爆発の火玉があがるさまは、豪快かつ壮観ですらあった。
隊長の性質が、その部隊の特徴を決める。
まさしく斬り込み隊長。このバルサムの圧倒的な攻撃性能と突破力こそが、『閃光爆砕騎士団』を正規軍の特攻部隊たらしめているのである。
「バクハハハァ! 戦いの幕開けにふさわしい花火だなぁ、オイ!」
「バルサム隊長、お見事です! しかし、このあとヴァルムンクとの戦いも控えております。いかがいたしましょう、兵を分けますか?」
「あぁ? しゃらくせぇ、向かってきた敵を片っ端からブッ飛ばせ! 手柄は早いモン勝ちだ!!」
「ハッ!」
戦略もクソもあったものじゃない指示。
表向きは素直に指示を聞いているものの、兵士どうしでひそかに囁く声が聞こえてきた。
「あいかわらずパワー馬鹿の脳筋だな……」
「言うなって。普段も粗野でお馬鹿だけど、戦闘中はしこたま頼りになるぞ?」
「バクハハハァ。なんか言ったかァ?」
「「ヒッ!!」」
バルサムのにらみに震えあがる兵士たち。
いっぽう、隊長のお許しが出たことで、嬉々として飛びだしていく者がいた。
「あははぁ。タイチョー、早い者勝ちって言ったよね? それじゃ好き勝手に暴れちゃお~っと♪」
彼女はカミリア=バキャット。『閃光爆砕騎士団』の副隊長、ISRR・Bランク。
天真爛漫な笑顔に、『天使』と形容されるほど透明感のある美少女。
しかし、手に持つ特注のメイスは凶悪なほどに刺が付けられており、古血がこびりついている。
彼女はメイスを振りかぶり、ワイバーンへと襲いかかった!
「ボッコボコにしてやんよぉ♪」
『疲れ知らず』!!
カミリアは凄まじい手数の多さでワイバーンを滅多打ちにした!
しかも1体をタコ殴りにしたのち、メイスについた返り血が乾く暇もないまま次の個体へと殴りかかる。
通常であれば疲労が蓄積していくはずであるが、彼女の攻撃の手はいっさい緩む気配が見られない。
ーー彼女の固有スキル・『疲れ知らず』。
無意識に筋肉にかけられているリミッターをはずして最大筋力を発揮することができるうえ、疲労を感じずに打撃を繰りだしつづけることができる。
笑顔で敵を徹底的に叩きのめすさまは、まさしく『暴虐天使』とも呼べるものであった。
たしかに戦いぶりは見事だが、どう見てもオーバーキルである。
カミリアが次々とワイバーンを撃ちのめしていくなか、再び兵士たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「うげええぇ。何度見てもおっそろしいなぁ、副隊長の戦闘シーン」
「戦闘中はすごいけど、反動で次の日から丸2日間寝こむことになるらしいぞ?」
「普段は隊長に負けず劣らず馬鹿だしな。影で『おバカのバキャット』と呼ばれてるくらいだしな」
「あははぁ。なんか言ったぁ?」
「「ヒィッ!!」」
いっぽう、ヴァルムンクたちも黙ってはいない。
軍団の隊長となる男が1歩前に進みでた。体躯の大きなバルサムよりも、さらにひとまわり大きな巨漢である。
彼の名はウガオ・ボルゴー。
ヴァルムンクを率いる若き首領であり、ISRR・Aランクに認定される超危険人物である。
「ウゴウゴ、ウガー」
「「ウゴ!」」
ウガオは取り巻きの楽隊に指示を出すと、楽隊は彼を中心にして取り囲むように配列しなおした。
合わせて、若い衆も意気揚々とその輪のなかへと入ってきた。
ボンゴボンゴボンゴボンゴ……♪
「ウゴ♪ ウゴ♪」
楽隊が盛りたてるように太鼓を叩きはじめると、ウガオは部族の者たちとともに胸を叩き、リズムに乗りはじめた。
『原始のリズム』!!
ウガオ・ボルゴーの固有スキル。
リズムが高揚するほどに飛躍的に身体能力が向上し、周囲の自然の加護を受けることができる。
効果はともに躍りを楽しむ部族の者たちにもおよぶ。
「ウゴー!!」
じゅうぶんに高揚したウガオは潮風に乗って軽やかに飛びたった。その巨体からは想像もつかないほどの軽やかさだ。
上空を飛んでいたワイバーンの高さまで一気に到達。その大きな拳をにぎりしめ、思いきりワイバーンの頭をブン殴った!!
『たつまき殴り』!!
「クァエ゛エエエエェッ!!!」
ウガオのパンチとともに、横向きに伸びる竜巻が射出された。
ワイバーンは絶命したのち、キリモミ状に回転しながらバルサムのほうへと落下していく。
バルサムは自身に迫る竜巻とワイバーンの遺体を認識すると、『爆裂搥』を振り、空中で爆砕させた。
塵が舞いおちるなか、バルサムは上空に浮かぶウガオをにらみあげる。
「バクハハハァ。ずいぶんとふざけた攻撃してくれるじゃねぇか。同じAランクのヤツが率いる隊どうしのぶつかり合いかよ。楽しみだなァ、オイ!!」
「ウゴー!!」
正規軍 対 北方の蛮族ヴァルムンク、強者どうしの激突。血で血を洗う決戦になることは、予想に難くなかったーー。




