ピリオドの向こうへ
◇
「サヤ、いっせいにかかってくるぞ! アメリさんを守って後衛を頼む!!」
「うん、分かった!」
こちらをターゲットと認識してからの、ワイバーンの飛行速度と集合速度は凄まじかった。
たぶん、1回まばたきするあいだに10匹ずつくらい増えてってたと思う。
群れの仲間を殺されたのが、よっぽど屈辱だったみたいね!
「「クアアアアァッ!!」」
最初に到達した2匹が襲いかかってきた!
おっきな口を広げて、窓際に立つメルサに噛みつこうとしてる。速すぎて、建物のなかに逃げこむ暇すらないわ!
「最初からフルスロットルで行くぜ! 炉に戯れし火の精霊よ、我が手により解き放たん、『炎球』!!」
メルサが得意の炎球をたて続けに撃ちはなった!
クラーケンのごろごろカレーで魔力が1.5倍になっていたのもあって、ものすごい火力。光と熱風で目を開けていられないほどだわ。
やっぱりワイバーンの魔法防御力は高い。竜の鱗で魔法を弾かれてしまって、致命傷には至らない。
ただ、確実にダメージは与えており、勢いをとどめることはできてる。
私はへし折ってしまったロッドを投げ捨て、スペアのロッドを懐から取りだした。
「私たちも行くわよっ、ネネミュウ!」
「ミュウッ!」
「精霊よ、赤子のようにあどけなく、泥沼のように深き眠りへと誘え! 『催眠魔法』!!」
ワイバーンがメルサの炎球でひるんだ隙に、催眠魔法をかけた。
ワイバーンは竜種にしては知能が低く、催眠系への耐性が弱い。私の魔法は有効であったようで、地へと落ちていく。
……よし、なんとか戦えてるわ!
図らずも時計塔の塔屋に留まってたのがよかったかもしれない。
大窓の窓際に立っているので、敵の攻めてくる方向が1方向に限られる。1度に少しずつ相手をしていくことができるわ。
ただし、ここから逃げることもできない。
逃げて屋外に飛びだせば、またたく間に囲まれて、いっせいに襲われることになる。
戦闘用の召喚獣にも頼りたいところだけど、機動力が高いワイバーンに対してノギンメイデスは相性が悪い。
ネネミュウも相手に触れなければ『強制催眠』は発動できないし、プリンケッツに至っては問題外だわ!
ここに留まって、懸命に持ちこたえるしかない。
でも、倒さなきゃならないワイバーンは数えきれないほどいっぱいいる。
いったい、いつまで戦いつづければいいっていうの……!?
「はぁっ、はぁっ……! くそっ、キリがねぇ!」
「メルサ、まだ戦える!?」
「ああ、大丈夫だ。でも、終わりが見えないってのはキツいな……!」
「粘りつづければあきらめてくれるかもしれないわ。最後までがんばりましょ!」
「おう!」
「サヤさん、メルサさん、がんばって!!」
後ろではアメリさんも応援してくれている。
アメリさんを守るためにここまで来たんだもの、絶対に勝ってみんなで生き残ってやるわ!
……と、気合いを入れ直したところで。
視界の端に、何か黒い影が映りこんだ気がした。
大きな翼? いやでも、そんな大きなワイバーン、見回してもどこにもいないよね? 私の気のせいかな??
なんて考えごとをしたのは一瞬。建物全体が大きく揺さぶられ、工事中みたいに岩が砕ける音がした!!
「えっ!?」
「なんだ!?」
「きゃああぁっ!!」
3人とも大きな振動でその場にひざまずいてしまったのが逆に幸いした。
頭上スレスレを、何か大きな板のような物が通過した。立ったままだったら、そのままお腹を断ち切られてたかもしれない。
時計塔は板のような物が通過した際に分断されてしまい、上の部分が倒れ、崩れ落ちていく。
「うそおおおおぉっ!?」
「うぁっ!」
「きゃあっ!」
「!! メルサ、アメリさん!?」
私はいくらか降ってきた瓦礫の破片にぶつけられたものの、なんとか塔屋に留まっていた。
でも、頭から上の建物はすべて崩壊してしまい、宙を舞うワイバーンから見て隔たりとなる物は何もなくなってしまったわ。
おまけに、建物が壊れた際の衝撃でメルサとアメリさんは塔屋から身を投げだされてしまった!
メルサとアメリさんは隣の家屋の屋上に落ちた。メルサはさらにそこから転がって、道路の上にまで落ちてしまったわ。
屋根の瓦が緩衝材になってふたりとも一命は取り留めたけれども、ケガをしてしまったかもしれない。
それに何より、3人ともバラバラになってしまった。今はもう身を隠す物は何もなく、宙を舞うワイバーンたちの前に姿をさらけだしてしまっているわ!
「クアアァ、クアアァ!」
「クアアアアアァッ!!」
四方八方、上方含めて全方位。おびただしい数のワイバーンが、いっせいに襲いかかってくる。
どいつもこいつも目を血走らせて、血に飢えた獣のようだ。
「ミュウ、ミュウッ!」
「…………」
ひざまずいたまま動けずにいる私の肩を、ネネミュウが必死に揺さぶっている。
でもゴメンね。どうがんばっても膝に力が入らないの。
隠している手札なんかなんにもない。頭から血の気が引いて、クラクラしてきた。
絶対絶命、最終回。
いよいよ私はオシマイだ。
物語は、ピリオドの向こう側へーー。




