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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
潮騒の踊り子とバカ御曹司

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ヴァルムンク襲来

 サヤとメルサがサザ=アメリの救出に向かっていたころ、リコとノハナは街の人々に『不視化インビジブル』の魔法をかけ、ワイバーンから逃げる手助けをしていた。


「光の精よ、影の精よ、今こそ手を取りあって戯れ、我を隠し給へ。『不視化インビジブル』!」

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「はや! 気をつけて逃げてね!」


 リコは逃げ惑っていた少女に『不視化インビジブル』で姿を見えなくさせたのち、手を振って送り出した。

 うっすらと輪郭のみ見える少女の背中。彼女が遠くまで走り去っていくのを見届けたのち、リコはその場にへたり込んだ。


「はぁっ、はぁっ。いくら補助魔法とは言え、街の人みんなに魔法をかけてたら、魔力のほうが先に底をついちゃうよ~。もうダメかも……」

「リコちゃん、大丈夫。ここは私に任せるのデス!」


 そう言うと、ノハナは自身が持っていたステッキを高々とかざして見せた。

 菜の花のようなノハナによく似合う、可愛らしい装飾のほどこされたステッキ。

 もっとも、『不視化』で互いの姿を見えづらくしていたリコには、その輪郭しか見えていなかったが。


『見習い魔女の練習ステッキ』!


 ノハナの固有武器にして、固有スキル。

 初級魔法に限り、魔力の制限なく繰りかえし発動しつづけることができるーー。


「はや! 無制限なんてスゴい、ノハナちゃん。そんなスゴい固有スキルを持ってたなんて、学院の授業では分からなかったな~」

「エッヘン。使えるのは初級魔法だけデスけどね。モノは使いようなのデス。バンバン魔法をかけて、街の人々を助けるのデス!!」 

「うん、私もいっしょに付いていって、困ってる人の手助けをするよ!」


 上空を見あげれば、まだまだ無数のワイバーンが飛びかっている。

『不視化』で姿は見えづらくしていても、お腹をすかせたワイバーンにいつ狙われないとも限らないし、破壊された建物の瓦礫の下敷きになってしまう可能性だってある。


 危険はじゅうぶん承知のうえ。街の人々を助けるため、リコとノハナは街の探索を再開した。

 しかしーー。


 ズンドコズンドコズンドコドン!!

 ズンドコズンドコズンドコドン!!


 地響きとともに、腹の底から震えるような重低音の太鼓の音が鳴りひびいた。

 あまりの振動に、リコとノハナは思わず足元がぐらついた。


「はや! この地鳴りみたいな太鼓の音は何!?」

「あっ、アレを見るのデス!」

「え!?」


 リコがノハナの指さすほうを見ると、街の北側の境ーー山の森に土煙があがっているのが見えた。

 北側の森から木々の隙間を縫って、謎の軍隊が現れたのだ。


 現れたのは黒いフルフェイスマスクを被った屈強な男たちだ。マスクには覗き穴が付いており、闘牛のような角を生やしている。

 首から下は裸にパンツ一丁、黒いマントを羽織るのみである。

 マントを1枚めくれば、むくつけき上半身を惜しげもなく露出している。どこかの部族の集団なのであろうが、その出で立ちからは文明的な知性は欠片も感じられない。


 突然の謎の軍団の出現に、リコとノハナは戸惑いを隠せなかった。


「あの人たちは誰? 助けに来てくれたの?」

「あの格好は……北方の蛮族『ヴァルムンク』なのデス!」

「はや! 蛮族!?」

「長年にわたって北の国境で王国正規軍と争ってきた部族なのデス。でも、どうしてこんなところに? この街の人を助けにきてくれたとは、とても思えないのデスが……」

「えぇ~!? クラーケンにワイバーンに蛮族って……。いったい、何がどうなっちゃってるの~!?」


 リコとノハナがパニックに陥るなか、空を飛びかうワイバーンたちも、ヴァルムンクの出現に気がついていた。

 血気盛んな群れの若い個体たちが、さっそくヴァルムンクの先頭集団へと襲いかかった。上空で翻り、急降下していく。


「ウゴウゴ、ウガー」

「ウゴ!」


 首領らしき男が指示を出すと、ヴァルムンクのなかからも数人の若い衆が飛びだし、ワイバーンを出迎えた。

 彼らの獲物は、戦斧バトルアックス。それも洗練されたフォルムではなく、荒々しく鉄を打ちこんで作りあげられた原始的な斧である。


 ヴァルムンクは全体的にずんぐりとした体つきをしているが、その体格からは想像できぬほどに軽やかな動き。

 彼らはクルクルと回転しながら飛びあがると、勢いのままに両手で斧を振りおろした!

 

「ウンゴー!!」

「クアアアァッ!!」


 空中でワイバーンの首は見事、一刀両断にされてしまった!

 斬り落とされたワイバーンの首は地へと落ち、待機していたヴァルムンクの戦士たちによって拾いあげられた。

 

「ウンガー!」

「ウゴ♪ ウゴ♪」


 ボンゴボンゴボンゴ……♪


 ワイバーンを仕留めた戦士は己の力を誇示するように両腕を振りあげ、まわりの者たちはワイバーンの首を持って踊っている。

 太鼓の音は獲物を得た喜びを分かちあい、獲物を仕留めた者を讃えるかのように弾んでいた。


「えええええぇ……! ワイバーンって、CからBランクの魔物なんでしょ? あの人たち、ものすっごく強いんじゃない!?」

「あんなのに暴れられたら、この街はひとたまりもないのデス!」

「はや! 私たち、いったいどうすればいいの?」

「わ、私たちにできるのは街の人々が逃げる手助けをすることしか……」


 そう言って、ノハナは震えて、泣いていた。


 ……最初っから、怖かったに決まっている。そちこちにケガをして動かなくなった人がいるし、ひっきりなしに瓦礫の破片は飛んでくる。

 自分が知恵を出さなければ、みんなを危険な目に合わせてしまう。だからこそ気丈に振るまって、平気なフリをしていたのだ。


 だが、次から次へと予期せぬ事態がまき起こって、いよいよどうすればよいのか分からなくなった。

 こんな状況に突然置かれたら、誰だって泣きたくなるに決まってる。


「グスッ。ごめんなさいなのデス。私がもっとしっかりしてれば……」

「はや! そんなことないよ、ノハナちゃん。ノハナちゃんがいたおかげでアメリさんも見つかったし、魔法で街の人たちを助けられてるんだよ?」

「うう。リコちゃん、ありがとなのデス。何かいい手がないか、考えてみるのデス……」


 リコがノハナを懸命になぐさめるものの、ふたりは次の一手が見つからず、途方に暮れてしまったのであった。




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