変態ワイバーンの末路
◆
ワイバーンは時計塔の塔屋ーー自身の巣穴へとたどり着いた。
大窓を破り、なかに置いてあった置き物はすべて粉々に壊しておいてあった。
こうしておけば部屋のスペースを広く使うことができ、ゆったりとなかでくつろぐことができる。
この人間の住む街を訪れて、すぐに自分の巣穴にしようと決めた。
眺めがいいし、広すぎず狭すぎず体のサイズも自分にちょうどいい。
群れのなかでは上位にあたる自分に、文句を言うヤツもいない。
「きゃあっ!!」
ワイバーンは足でつかんでいたアメリを巣穴のなかへと投げこんだ。
巣穴の中央には人間の家を壊して集めたキラキラ光るものーー金銀財宝がどっさりと積んである。
「クアアァ……」
ワイバーンは満足げに喉を鳴らした。
金銀財宝をウットリと眺めたのち、新たに自身のコレクションに加えた品へと目を移す。
倒れこんでいたアメリは上体を起こし、キッとこちらをにらみ返している。
「何よ。私をいったいどうするつもり……!?」
海の結晶のように澄んだ、碧く輝く瞳。数ある自身のコレクションのなかでも、間違いなく至高の一品。
……だが、手足が邪魔だ。
ちょっと目を離した隙に、目玉ごと逃げだしてしまうかもしれない。
それに、時折開け閉めするまぶたも邪魔だ。
いつでもその美しい瞳を剥きだしにしておいてくれないと困るのだ。
そうだ、手足をもいで、目玉をくり抜こう。そうすれば目玉は勝手に逃げだすことも、まぶたの奥に隠れることもない。
ワイバーンは翼と一体になった腕を使って、アメリを再び押し倒した。目玉を傷つけないよう、そっと慎重に。
だが、人間から見れば、その所作はじゅうぶんすぎるほどに荒々しい。
「いやぁっ、やめて!!」
あがきもがくアメリを、ワイバーンは腕で強引に押さえつける。
目玉を傷つけずにくり抜くのは、大変に繊細な作業なのだ。
まずは手足を1本ずつ捥ぎ、身動きを取れなくさせる。そうして獲物の下処理をしてから、じっくりと作業に取りかかるのだーー。
ワイバーンがその尖った鼻先と口でアメリの右腕をくわえ、ねじ切ろうとしたところ……。
ワイバーンの頭に、強烈な衝撃が走った。
「何してんのよっ、この変態ワイバーン!!」
「!!?」
◇
『催眠攻撃』+『腕力強化』!!
「てえええぇいっ!!!」
私は自前のロッドを両手ににぎり、ワイバーンの頭を思いきりブッ叩いてやったわ!
アメリさんを弄ぶのに夢中だったうえ、ノハナの『不視化』で姿が見えなくなってたこともあって、ワイバーンは私たちの接近に気がつかなかったみたい。
不意討ちは、大成功ね!
『腕力強化』の魔法で得た打撃力は凄まじい。
人間を丸飲みできそうなほどの巨体であるワイバーンを、軽々とふっ飛ばしちゃった。
ただ、私がにぎっていたロッドは根元からへし折れてしまったわ。お兄さまに買ってもらった、そこそこ高級なロッドなのにな?
……あらやだ、ロッドは打撃用の武器じゃなかったわね。私ったらはしたないわ、オホホホホ。
「クアアァッ……」
ネネミュウの固有スキルである『催眠攻撃』も強烈だった。
ワイバーンは半分意識を失い、腹をおっぴろげた状態のまま、大窓から身を投げだすこととなる。
すかさず大窓のへりに身を預けて隠れていたメルサが躍りでて、得意の『炎球』を撃ちはなった!
「炉に戯れし火の精霊よ、我が手により解き放たん。喰らえっ! 渾身の『炎球』!!」
「クアアアアアアァッ!!!」
メルサは『炎球』を連射し、ワイバーンの腹めがけて徹底的に撃ちこんだ!!
竜の鱗は硬く、魔法を通さないけれど、腹側はいささかうすく、柔らかい。
リコの『マジカル☆キッチン』でクラーケンのごろごろシーフードカレーを食べたのもよかった。
魔法攻撃力1.5倍。
1.5倍ってスゴいよね。身長2メートルの人が1.5倍なら3メートルになるのよ。そりゃスゴいわ。
ワイバーンは内蔵を焼き焦がされて絶命した。腹から黒煙をあげながら、地面へと墜落していく。
万事うまく行き、私とメルサはホッと息をついた。 さらば変態ワイバーン。
と、そこでノハナがかけてくれた『不視化』の効果が切れた。
アメリさんは私たちの姿を認識して、駆けよってきてくれた。
「サヤさん、メルサさん!」
「アメリさん、大丈夫!? ケガはない!? あの変態ワイバーンにアレやコレやされなかった!?」
「アレやコレやって何だよ、サヤ……」
私はアメリさんの体のどこかに怪我がないか、サッと全身をあらためた。
……うん、大丈夫。ワイバーンの爪に引っかけられて服に破けてるところが数箇所あるけど、かすり傷で済んでそう。
大ケガをさせられる前に間に合って、本当によかった!
アメリさんは私の手をにぎって、お礼を述べてくれた。
碧い瞳をウルウルとうるませて、目を合わせていると吸いこまれてしまいそうになる。
「ふたりとも、ありがとう。でも、どうやってここまで来れたの? 外にはワイバーンがたくさん飛びまわっているし、それに、霊廟からここまで来るのにはかなり距離があるはずだわ」
「アメリさん、細かい話はあとで。こんなところに長居は無用、今すぐここから脱出しましょう!」
「ああ、そうだな。でもサヤ、どうやらこっからが本番みたいだぜ」
「「え!?」」
メルサは壊されていた大窓の縁に立ち、風にその長い黒髪をなびかせながら、外を見おろしていた。
メルサの見つめる先、大窓から外の景色を見てみると、ワイバーンの大群がこちらに向かって飛んできているのが見えた。
群れのなかでも地位の高い個体を殺られてしまって怒り心頭、報復しにきたってわけね。
スーファミ版のロマサガかってくらい、どいつこいつも脇目も振らずに集まってくる。
しかも、怒りで目をギンギンに血走らせているわ。
ノハナの『不視化』も切れてしまったし、強制エンカウント不可避。こんなの逃げられっこないわよー!!




