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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
英傑集結! 花の王都

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12/20

お兄さま、おモテになる

 私たちは女王の間を後にすると、三々五々に帰路へと着いた。

『聖輪騎士』の皆さんはやっぱり忙しいらしく、次の公務が控えているからと足早に立ち去っていった。


 いっぽう、公務を終えたばかりのお兄さまはつかの間の休息らしく、帰り道も私とゆっくり歩いて帰ることができた。


「サヤ、スキル獲得の祝いだ。なんでも好きな物を買ってやろう」

「え、ホント? やった~!」


 夕暮れの城下町。街の明かりもポツ、ポツと灯りはじめていた。

 お買い物をするために、商店街へと入る。さすが城下町、人通りは多いわ。


「英雄・ファスマ=エルローズさまだ!」

「なんと凛々しいお姿……!」

「ステキ……♥️」


 お兄さまが通りすぎるたびに街の人々は振りかえり、そちこちで黄色い声があがる。

 さすがお兄さま、街の人々からも絶大な人気なのねぇ。


 お店を探しながら、お兄さまは私の現在のランクについて教えてくれた。


「サヤ、此度の『召喚』スキル覚醒により、お前はISRR・EランクからDランクに昇格されている」

「え、そーなんだ?」

「まだ召喚できる幻獣が少ないことを考慮に入れてその評価だが、幻獣が増えればランクもあがっていくはずだ。努力するといい」

「はい!」


 私みたいな学生にもランクってきちんと定められているのね。そういえば、メルサもCランク相当だって言ってたな。

 ほとんど魔法が使えなかったから、Eランクなのは当たり前ね。これからどんどん呼べる召喚獣を増やしていって、魔力を開放してかなきゃね!


 いくつかお店を見てまわったあと、私はティーカップセットを買ってもらうことにした。

 白い陶器の、小さな可愛いティーカップ。お兄さまとお揃いで買ってもらう。


「こんなのでいいのか?」

「うん、こんなのがいいの♥️」


 いや、家に帰れば豪華な食器はいくらでもあるんだけどね。逆に庶民的すぎて、あの家では浮くかもしれない。

 でも、それがいいの。私とお兄さま、ふたりでお揃いのティーカップ。


「よし、それでは帰ろう。城門では爺が待っている」

「うん!」


 私は買ってもらったティーカップを入れた袋を大事に抱えて、お兄さまと並んで歩きだす。

 ……でも、ふと思うところがあって、すぐに立ちどまった。

 少し前へと歩みでた、お兄さまの背中を見る。私のほうを振りかえり、ビロードのマントが優雅に揺れる。


「お兄さまが私にこんなにも優しくしてくれてたのは、私に隠れた力があることに気づいてたからなの……?」


 お兄さまは、まっすぐに私のことを見つめ返した。

 見てるとこちらが吸いこまれてしまいそうになるほど深く、澄んだ瞳。

 そこにどんな想いが込められているのかは複雑すぎて読み取れないけれど、何かを伝えようとしているということだけは、痛いほどに伝わってきた。


 言葉を整えているのか少しの間があったけれど、お兄さまは私の問いかけに答えてくれた。


「それもあるが、それだけではない」

「え、どゆこと?」

「私たちの両親が早くに亡くなってしまったことは、聞いているな?」

「うん……」


 両親にあたる人がいないことを不思議に思い、爺やに事の経緯を聞いたことがあった。

 

 ーー両親は、私たちがまだ幼いうちに夭逝ようせいしてしまっていた。

 私はまだ物心もつかないほどに小さかったし、お兄さまは10歳にも満たぬうちにエルローズ家の当主となり、あの広い広いお家の主となった。

 先代の当主である両親が亡くなった当時の状況を思いだし、爺やは涙で鼻をすすっていた。


 エルローズ家に忠誠を誓う執事たちの助けもあって何とかやってこれたけど、お兄さまが死ぬほど大変だったのは想像に難くない。

 幼くしてエルローズ家としての公務をこなしつつ、自分も魔導学院に通って首席の成績を取りつづけ、さらに私のことも一生懸命に育ててくれた。兄としてだけでなく、親としての役目も果たしながら。


 結果として、エルローズ家は最上級貴族としての格を落とすことなく、お兄さまは国内最強の騎士にまでのぼり詰め、私をルーフェリア魔導女学院へと入学させてくれた。

 魔導の力にまったく目覚めない私の才能をなんら疑うことなく信じつづけ、変わらぬ愛情を注ぎつづけてくれた。

 今日までにお兄さまが抱えつづけてきた苦労と、努力と、愛情の深さを、いったいどんな言葉で表現することができるというのだろう?


「まさか『召喚』のスキルに目覚めるとは思わなかったが、お前が力に目覚めたときの喜びを言葉で言い表すことはできない。だが、それ以前に……お前は私にとってかけがけえのない、たったひとりの血を分けた妹なのだ」

「……うん、分かった」


 私は涙ぐんでいることを悟られないように、うつむきながらうなずいた。

 これだけ深い愛情を注がれてきたことを全部忘れてしまっていたなんて、私はなんてひどいことをしたのだろうと、そう思ったから。


 私は先に歩きだしたお兄さまを小走りで追いかけ、背中に寄りそった。

 大好きな大好きな、お兄さま。こんな素敵な兄をもって生まれかわって、私はほんとうに幸せ者だ。


 ……と、あらためて歩きだしたところで、道の横からお兄さまに声をかける人がいた。


「ファスマさま!」

「! レシア」

「ん?」


 私とお兄さまが振りむいた先にいたのは、王国正規軍の鎧を着た女性。

 髪を短く切りそろえた、凛々しいお顔の女性。スラリとしてて、いかにもデキ女! って感じ。

 女性はツカツカと歩いてくると、お兄さまにズズイと迫ってきた!


「ファスマさま! また公務の後処理を私に丸投げして先に帰りましたね!」

「すまぬ」

「「すまぬ」、じゃありませんよ! 戦闘で荒れた農地の整備や地域住民の手当てに、騎士団員の功績の評価。公務が終わったあとにもやることはたくさんあるのですからね? いつも何も言わずに帰っちゃうんですから!」

「先に帰ると言ってあったはずだが」

「ホントに「先に帰る」しか言わなかったじゃないですか、まったくもう! コレ、報告書と始末書にサインしてください! 中身は私が下書きして、名前書くだけにしておきましたから! その他にもたくさん言いたいことはあるんですからね、あとこれも……(キビキビクドクド……)」


「……フフッ♪」


 書類を突きつけられて渋々サインをしてるお兄さまを見て、私は思わずクスッとしてしまった。

 このキビキビしている女性はお兄さま直属の部隊の副隊長、レシア=フランシスカさま!


 お兄さまはお小言をたくさん言われてもどこ吹く風で、適当に聞き流している。

 お兄さまが優秀でものすごく忙しいのは知っているので、仕事がだらしないというわけではないのだろうけれど、お世話してくれてるんだからもっとしっかり話を聞いてあげればいいのにね。


 ……それにしてもレシアさん、まるでお兄さまの奥さんみたいな顔して接してるのが面白い。ぜったい将来、いい奥さんになるタイプね。

 

 と、お兄さまがレシアさんに説教されているあいだに、空から誰かが舞い降りてきた(!)

 空から3人、背中から翼を生やした女性たちだ!


 彼女らも王国正規軍の鎧を着ているが、空を飛ぶために軽量化されているのか、身軽な軽装鎧ライトアーマーの仕様になっている。

 3人はお兄さまの前に降りたつとひざまずき、なにやら報告しはじめた。


「ファスマさま、北方の山脈で大量発生した飛竜ワイバーンの討伐から帰還しました」

「ヴァーナ、スレイユ、クルル。進捗はどうであったか?」

「はっ。近隣の街や村を襲った群れはすべて駆除しましたが、多くは海のほうへと逃げていきました。大量発生の原因も不明です」

「そうか。引き続き警戒せよ」

「「はっ!!」」


 ……彼女らは翼人種族による騎士団『ヴァルキュリアー』の筆頭騎士、ヴァーナ、スレイユ、クルルさん。

『ヴァルキュリアー』もお兄さま直属の特殊部隊で、高い機動力と戦闘力で圧倒的な存在感を放つ。

 翼人種族と言っても、鳥人といった人型の鳥ではなく、有翼人ハーピーに近い。3人とも美しい顔立ちと歌うような声で、男の人を惑わしてしまいそう!


「ヴァーナ、スレイユ、クルル。このたびの遠征、ご苦労であった。少し身を休めてから、次の遠征へと発つといい」

「ありがたきお言葉! ファスマさま、いかがでしょう? ファスマさまも公務からお帰りになったばかりですし、一度我われとお食事などにでも……」

「いや、私は忙しい。お前たちだけで楽しんでくれ」

「「はっ!!」」


(あぁ、今日もそっけない。でも、そこがたまらない……)

(相変わらずステキ……♥️)

(もっとお近づきになりたいッ……!!)


「……う~ん……」


 翼人種族による特殊部隊なんて、カッコいい! 直属の部下に彼女らがいたら、戦略の幅も大きく広がりそうよね。

 でもなんだか、この人たちもお兄さまにメロメロなような? だって、目がハートになってるし……。


 と、お兄さまが『ヴァルキュリアー』の皆さんと話していたところ、遠くから誰かの呼び声が聞こえてきた(!!)

 声はものすごい勢いでこちらに迫ってきた!!


「ファスマさまああああああああっ!!」


 金髪ツインテールの、人懐っこい顔立ちをした女性。小柄で少女らしい体格をしているが、彼女もまた、王国正規軍の鎧を着ている。

 そんな可愛らしい見た目をした彼女だが、今は目を血走らせて迫ってきてて怖い!

 宙を飛んでる? いや、吸い寄せられているみたい。彼女は弾丸のように丸くなって、お兄さまに突撃してきた!


「お会いしとうございました、ファスマさまっ♥️ 王城にお立ち寄りになってると聞いてこのマリリス、馳せ参じましたわっ!」

「それ以上近づくな」

「ウボェッ!!」


 女性はお兄さまに顔を鷲づかみにされて宙に留まった。でも、なんらかの力が働いているのか、首から下は依然としてお兄さまのほうへ引き寄せられているのが分かる。

 お兄さまの腕の血管が浮かびあがっていることからも、かなり強い力で引き寄せられているのが分かる。


 ……彼女は『ひっつき虫(コックルバー)』、マリリス=ヒッペンストリウム。王国正規軍の一部隊の隊長格で、魔導騎士としては極めて優秀。

 固有スキルは『粘着質』で、目的の物体に引き寄せられ、くっつき、貼りつくことができる。

 王国正規軍随一のお兄さまのファンであることを公言しており、ファンクラブ会員第1号であると自負しているのだとかなんだとか。


 マリリスは鷲づかみにされて顔を固定されていたけれど、血走った目だけを動かしてギン! とお兄さまを見おろした。マジ怖い。


「フフフ、ファスマさま? 今日こそはハグしてもらうまではあなたから離れませんからねぇ!」

「いいから離れろ。マリリス、貴様……!」

「あがいてもムダですよ? 私の『ひっつき虫(コックルバー)』は私が能力を解除しない限り、あなたに吸い寄せられつづけますからねぇ!」

「……ッ!!」

「ずるいぞ、マリリス!」

「私たちだって、ファスマさまにおすがりしたいのに!」

「もう我慢できない。ファスマさまっ♥️」

「! どうしたお前たちまで、離れろっ」

「!! ……ッ!!♥️♥️♥️♥️」


「…………」


 もはや呆れて、言葉も出ない。

 私は心を無にして、お兄さまと取り巻きの騎士団員たちが繰り広げるすったもんだを遠まきに眺めていた。


 げに恐るべしはお兄さまの魔性の魅力。レシアさんみたいな凛としたタイプの女性まで取り乱してしまう有り様である。

 お兄さまの前では、女はみんな狂ってしまうというの? みんなメス豚になっちゃうの??


 そんでもってお兄さまもまたぶっきらぼうなもんだから、こんなトラブルは日常茶飯事なのだろう。

 まったく、私に注ぐ愛情のほんの一部でもいいから、彼女らに分け与えられないものなのかしらん?


 分かっていたことではあるが、ひとつ確信したことがある。

 ……お兄さまは、おモテになる。




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