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兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だった。  作者: 京栞


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9/14

#9 悪「役」令嬢の秘密ー3(レイチェル視点)

年内最後の更新です!

「……以上がご報告になります、閣下」

「……」

「いやぁ、これは……」


 明朝、お兄様の執務室。

 ミスティの報告を聞いたお兄様は険しい顔で黙り込み、ジュリアンが呆れたように呟く。


 一晩で集めた情報にも関わらず、報告書が辞書のような厚さになっているのは影が優秀なだけではなく、公爵家の情報管理の杜撰さも理由の一つだろう。

[pagebreak]

「若様が連れてきたときから噂よりまともそうだとは思ってましたけど、まさかご令嬢の実家が噂を流してるだなんてとんだ悪党ですね。商品価値のある娘の評判をわざわざ下げるなんて、公爵家の連中は頭がイカれてるんじゃないですか?」

「ジュリアン、閣下とレイチェル様の前だというのに口が悪いですよ。内容に関しては同意しますが」


___________

 報告書に書かれているのはヴィオラ様の素行と公爵家の動向、そして市井に広がる彼女の悪い噂——―「悪役令嬢」の評判の出どころだ。

 そもそも、社交界におけるリドニクス家の評判というのはそう良いものではない。


 ヴィオラ様の父親である当代の公爵は、学生の頃から遊び癖が酷く、当時の婚約者であるヴィオラ様の実母を放置し、結婚後も娼館に顔を出しては朝まで遊び歩いていた。

 先代の公爵が生きていた頃はまだ妻や父にもそれなりには尽くしていたが、先代公爵が引き継ぎを終える前に事故死してしまった後、跡を継いだ当代は公爵領の領政を家臣に丸投げ。ヴィオラ様の実母がヴィオラ様の出産と同時に亡くなったのと同時に、当時入れ込んでいた男爵家の私生児だった女性を妊娠させ、喪中に結婚したのだ。

 この国では戦時中を除き、伴侶を亡くした場合の再婚は半年はしないことがマナーであるのに、二週と空けずに再婚。結婚式も王都でこそ控えたが、領都では二週間続けて祭りを開催させたそうだ。


 皇族を除いた国の頂点である公爵家の一つが、そんなマナー違反の行為をしでかした。しかもヴィオラ様の実母は国の創成期から皇帝に仕える名門侯爵家の末娘である。

 当然のことながら、国内の良識ある貴族はヴィオラ様に同情的になり、庶民からもやりたい放題の公爵家への批判の向きが起こったという。皇帝陛下がヴィオラ様の立場を心配し、血筋の釣り合いも考えて第一皇子カリュエン殿下の婚約者に指名したのもこの頃である。

 公爵はヴィオラ様より半年遅れて生まれた異母妹を皇族に嫁がせたいと随分ごねた様だが、由緒正しい侯爵家とさした功績もない男爵家程度では比べるまでもないと一笑に付されたらしい。

 そういった訳でヴィオラ様は、幼い頃から王宮に通い皇族妃教育を優秀な成績で終えている。性格も柔らかく、城の使用人たちにも随分と好かれていたようだ。


 風向きが変わったのは三年前。第一皇子カリュエン殿下、ヴィオラ様、ヴィオラ様の異母妹ステラ嬢の貴族学園入学がきっかけだ。

 我が国の貴族学園は貴族籍にある令息令嬢が十五歳から三年間通う帝国の独立した教育機関で、大人からの干渉を受けにくい。その分、しがらみもなく同世代同士で交流することで将来の国を担う者の結束力を高めることが狙いである。


 しかし、その大人の目の無いことが仇になった。

 ヴィオラ様の異母妹ステラが、第一皇子を篭絡したのである。

 既に妃教育を終えているヴィオラ様には、基礎学問科目も専門科目もそう難しいものではなく、当然のようにトップを取り続けていた。遊んでばかりで教育が十分に進んでいなかった第一皇子はそれをやっかみ、次第にヴィオラ様を避けるようになった。

 そこを上手く突いたステラが皇子と恋仲になったのだ。そうなると、二人より優秀なヴィオラ様は二人の仲を阻む大きな壁となる。

 それを排除する為に利用したのが姿勢で流行りの小説だ。彼らはその筋書きの中の悪役にヴィオラ様を当てはめたのである。自分たちの罪を隠し、濡れ衣を彼女に被せて噂を広めたのである。


 例えば、マナー違反をステラに指摘したことを「異母妹を虐めている」。

 例えば、第一皇子がステラに送るために散財した金をヴィオラ様が使っていることにし、「王宮予算を使い込んでいる」。

 例えば、皇族妃の手伝いとして官吏と話し合いをしていたのを「男を侍らせている」。


 どの噂も調べてみればはっきりと、ヴィオラ様に非が無いことが分かるものだが、皇子の側近や公爵令嬢の取り巻きがこっそりと教えてくれる情報は、世間を知らない若者たちにとっては真実そのものに見えてしまう。

 そうでなくとも、生まれて間もないころから皇族になる事が決まっていたヴィオラ様をやっかむ家系の者は多かったから、元々皇宮に通うばかりで友人の少ないヴィオラ様は学園内であっという間に孤立したのだった。

 さらに、第一皇子とステラの恋仲に気付いた公爵夫妻は、このまま長女を始末しようと余計なことを外に漏らさぬよう「躾」と称して鞭を打ち、市井にまで彼女の悪評を広めたのだ。

___________


「……これでは正に、役割を与えられた悪「役」令嬢じゃないか」


 お兄様が悔しそうに下を向く。

 お兄様は三人が入学するのと入れ違いで卒業しているので、当時知っていたとてたいしたことはできなかっただろう。

 本人もそれは分かっていて、それでもやるせない思いがあるようだった。「人間を苦しめる魔王」の役割を与えられていた前世と重ねているのかもしれない。


「……私の判断で昨日のうちに皇城には知らせを送りました。ヴィオラ様を一旦こちらで保護できるよう交渉していらしたらどうですか?」


 私の言葉に驚いて顔を上げるお兄様。屋敷の権限や、領政に関しては私にかなりの権限を預けてくれているお兄様だが、私がそこまでやっているとは思っていなかったようだ。


「いったいいつの間にそんなことを? というか陛下はそれを知っておられるのかい?」

「お兄様が感情的に出てきたことは想像がつきましたから、早めに城に知らさねば誘拐犯として罰せられる可能性も捨てきれませんでしたし。陛下に関しては元々私と陛下は「昔」からの知り合いなのでそれに気づいてもらえれば問題ないかと」

「「昔」? ……ああ、陛下は「そういう方」だったね。それなら早速出仕してくるよ。その間ヴィオラ嬢を頼む」


 私の含みのある言い方に、大体のことを察したお兄様は気合を入れるように一つ頷くと立ち上がる。

 意志の宿る瞳は鋭く、人を惹きつけて止まない。魔族の多くが彼を慕っていた理由だ。私が深く一礼をするのに合わせて、ミスティとジュリアンも礼をする。


「かしこまりました、お兄様。気を付けて行ってらっしゃいませ。ご武運を」

「「ご武運を」」


 さあ、見ていなさい。本物の悪党ども。こうなったお兄様が負けるのを、私たちは見たことが無い。

次回更新は新年1/7を予定しております。

それでは皆さん良いお年を。

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