#21 聖女の役割ー1(レイチェル視点)
一日遅れです、すみません!
「そういう訳でヴィオラ、君には聖女としてこの世界を救って貰わねばならないんだ」
にこやかにそう告げる皇帝フェルトリエルに対して、ヴィオラお姉様は困惑した表情を隠せませんでした。
それも当然のことでしょう。
神や魔族が絡むような話とは無縁の生活をしてきた人間が、いきなり魔王の生まれ変わりがどうの、天使の生まれ変わりがどうの、挙句に自分が聖女だのと言われたら、そう簡単に受け入れられないだろう。
というか、私だったらまずその集団の正気を疑う。
お姉様は少しの間、黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「聖女というのは、お給金をいただけるのでしょうか?……」
え?
思わぬ言葉に呆気にとられた私たちに気づかず、お姉さまは続ける。
「それとも神殿や教会所属の修道女と同じ扱いなのでしょうか? せめて危険手当をいただけるとありがたいのですが、やはり奉仕職でそれを求めてはいけないのでしょうか? ……流石に衣食住くらいは保証していただけると嬉しいのですが」
「少し止まっていただけますかヴィオラ嬢」
「はい、レオナルド様?」
その場にいる全員が思わぬ方向へ話を勧めるお姉さまに困惑していたが、お兄様が恐る恐るストップをかける。
「その、聖女である、ということについては受け入れられるのですか? 僕たちもだいぶ突拍子もない話をしている自覚はあるのです。無理に受け入れられずとも大丈夫ですよ」
「……正直に言えば、まだ全てを理解できているわけではないのです。ただ、皆様が嘘を吐くような方々ではないことは理解しています。それなら、私は私が出来ることをしたいんです」
お兄様の問いに、少しだけ暗い顔をしたお姉様だったが、すぐに顔を上げて微笑んで続ける。
「あっ、そうは言いましても体力的に厳しいことも多いかもしれないので、お手柔らかにお願いしたいのですが……」
「当然です! 聖女であろうとなかろうと、令嬢を無下に扱うような真似はさせません!」
「レイチェルの言う通りです。僕たちとは違って、貴女が何かを強制される筋合いはありません。どうかご自分のことを大事にしていただけませんか?」
たとえどれだけ世界の危機に瀕しようとも、巻き込まれた側の人間を流石に情報量で押し切るような真似はしない。
私とお兄様が弁明するように言い募るのに、フェルトリエルが続ける。
「私としても折角見つかった聖女に無理をさせる気はないよ。本来であれば義理の娘になる予定でもあったしね。……息子の教育を間違えた私のミスだ。本当にすまない」
深く頭を下げるその様子は、ただの人の親に見える。
そもそも彼がお忍びで来ているのは、こうやって謝るためなのだから、許しを得られようが得られまいが、ケジメとしてするべきだろう。
とはいえ、いちいちお姉様が声をかけてあげる必要があるとも思えないので、私は話を次に進める。
「それで、今後はどうなさるのですか? 十分に接する機会があったはずの陛下が、ヴィオラお姉様が聖女であることに気づけないとは思えないのですが、今見ても彼女は聖女に見えませんか?」
私よりも能力の制限がかかっているとはいえ、天使の魂を持つものであれば聖女を見抜くことなど容易いはず。
お姉様の力がこの屋敷に来た時よりも強くなっているのは間違いないけれど、微弱な力だから気づけなかったのか、そもそも聖女に力も見抜けない体になっているのかで話が変わってくる。
フェルトリエルはゆるりと首を横に振った。
「いいえ、姉上。ヴィオラは間違いなく聖女であると私も断言できます。城で会っていたころは何も感じられませんでしたが、今の彼女は確かに聖女の浄化能力を有しているように見えます。これだけの力であれば、私ももっと早くに気づけていたはずなのですが」
皇子の婚約者として城に長いこと通い、顔を合わせる機会も多かったはずの彼が見抜けなかったということは、当時聖女の力はほとんど働いていなかったということ。
聖女の力が増したことの理由は予測しかできないが、その証明自体は可能だろう。
「それに関しては、私も怪しいと思っていたのです。……お姉様、申し訳ありませんが傷のことを皆さんに伝えても大丈夫ですか?」
「っ、分かりました。それが必要な話なら、どのみち隠してはおけませんし」
黙っていると言ってすぐに明かさなければならない場面になったことは想定外だったけれど、この話をするのが一番伝わりやすい。
「傷?」
「お姉様の体には、一年そこらでは付けられないような傷がつけられていました」
私の言葉に俯くお姉様。
許可を取ったとはいえ、やはりあまり楽しい話ではない。
私の言葉を聞いたお兄様とフェルリエルもそれぞれ怒りを抑えるような表情になった。
「レイチェル、そんな話は聞いていないよ?」
「私も初耳だ。まさか姉上からの手紙に書かれていた、リドニクス内での冷遇とはそういう意味で?」
「はい。ミスティが着替えの手伝いで確認したときは蚯蚓腫れのようになっている箇所もあったようです。ドレスで隠れる部分を的確に狙っていたようなので、故意で間違いないと思います」
保護のつもりで息子と婚約までさせていたフェルトリエルは気付けなかったことを余計に悔いているような表情をしている。
お兄様はお姉様の体を心配するようにいたわりの目をお姉様に向ける。
「痛みは⁉ 痕は⁉ まさか残ったりは……」
「いえ、先ほど確認しましたが傷はかなり癒えてきています。恐らくお姉様は何らかの要素によって聖女としての力を制限されていたのではないでしょうか。リドニクスを離れたことで、その制限を受けなくなったのでしょう」
その言葉にお兄様はそっと胸を撫で下ろす。
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