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兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だった。  作者: 京栞


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20/21

#20 とある魔族の計算違い

二日遅れです。すみません!

珍しい三人称視点。

 ガッシャーンと音を立てて、サイドテーブルから落ちた花瓶が割れる。

 目の前にいる金髪の少女は、すまし顔さえしていれば国有数の美少女だというのに、怒り狂った今の顔は、まるでオークやゴブリンのような醜悪ささえ感じられる。


「ねえ一体どういうことよ⁉ お義姉さまさえいなくなれば、あたしが皇子妃になれるって言ったのはあんたじゃない! どうして一向に婚約の話が来ないどころかあたしが謹慎を命じられなきゃならないってんのよ⁉」

「マア落チ着ケヨ、ステラオ嬢様」


 ステラに詰め寄られた黒い影はどこか不自然な発音で答えニタリと笑うと、煽るように体に纏わりつく。


 ステラの義姉の母、前公爵夫人から父の寵愛を奪い、後妻へと収まったステラの母親が学園の入学の際に譲ってくれた、黒い石の付いたブレスレット。

 ステラが常に身に着け、他人に触れられることを拒むそれが影と邪教の信者たちをつなぐ貴重なアイテムである。


 異母姉の婚約者を篭絡できたのも、学園の若い貴族たちを味方にできたのも、この影が教えてくれた呪術のおかげである。

 人間の扱う魔法の体系から外れたそれは、人の生命力を奪うが、存在を知る者がいないゆえに一度かけてしまえば解除される恐れもない。


 ステラは母のように熱心な信者ではない。

 女神だろうと邪神だろうと、自分の害にさえならなければよいのだ。

 目障りな異母姉が邪教の者であれば、自分の母を犠牲にしてでもすぐさま教会に売り渡し、何でもないような顔で敬虔な教会の信徒を名乗っていただろう。


 公爵家に生まれた自分より身分が高い未婚の令嬢は、この国には異母姉のヴィオラだけである。

 ヴィオラの母はステラの母よりも身分が高く、学園の生徒の頃から既に恋仲にあった両親を引き裂いた悪女であると、ステラは生まれた頃から繰り返し聞かされていた。

 実際のところは嫡男の地位を剝奪されまいとした公爵が、高位貴族の令嬢に婚約を申し込んだわけなので、ヴィオラの母には何の非もないのだが、ステラはそんなことを知る機会もなく、ただひたすら、母から聞かされる呪いの言葉によって、義姉への憎しみを募らせていくのである。


 そんな異母妹にたいしても、ヴィオラは常に優しかった。

 ステラの母に鞭で打たれた日も、ステラには決して当たることも怯えることもせず、ただ純粋に姉として接したのである。

 母の行動も、ステラの存在もまるで苦にしないその姿がまるで絶対的に下の存在に見られているような気がして。

 ステラにはそれが許せなかった。


 自分より血筋も能力も優れた存在をこの手で、私の手で壊してやる。

 そんな決意を固めた自分の変化に気づいた母が、ブレスレットと共に邪神信仰の効果をステラに語ってくれたのだ。


 人目を忍んで邪教の拠点で対面した魔族は、一目でステラの心に救う闇を見抜き囁いた。

「お前の母にしてやったように、お前の望みをかなえてやろう」

 その対価に、お前が支配する民を全て邪神の信者に変えさせてもらう。

 ステラは一も二もなく頷いた。

 民が何を信仰しようが、自分がその上に、姉より上に立っていれば、それでいい。


 そこから影はステラの呼びかけに応じ、彼女の手足となり続けた。

 不思議な香や術を次々に使い、女神の加護を外し、人々をステラの望むままに動く傀儡へと仕立て上げた。

 凡庸な者には、単純な魅了を。

 疑い深いものには、徐々に近づき、入念な洗脳を。

 少しずつ学園で広げた勢力は、外の世界の干渉を受けずに、ほぼすべての生徒が自分の勢力下に収まった。


 幸いなことに、ヴィオラの婚約者であるカリュエンは、強制された婚約者に興味がなく、ちょっと噂を捏造してやればすぐにこちらに堕ちた。

 ただ、そもそも互いに交流が少なかったせいで、ヴィオラには大したショックが与えられなかったのが不満ではあるが。


 もう一つ、気に入らなかったのは教師たちだ。

 彼らは、生粋の坊ちゃん嬢ちゃんである生徒たちよりも警戒心がはるかに強く、また、賄賂の対策か、贈り物を一切受け取らない。

 学園の間、熱心に教員室にも通ったものの、結局教師で支配下に置けたのは半数にも満たなかった。


 そんな自分の王国であっても、いつまでも籠るわけにはいかぬ。

 卒業後の地位を確固たるものにするため、ステラは正式に義姉から婚約者を奪うことを決意した。


 公的な場として扱われ、かつ、手ごわい貴族の大人たちがいない夜会。

 そんな好条件の場を逃すまいと仕掛けた婚約破棄は当初の目的の半分も達成していない。


「俺タチダッテ、想定外ダッタンダヨ。マサカ魅了ノ香ガ効カナイヤツガイルナンテナ」

「そう! それよ! どうしてレオナルド卿は平気だったのよ⁉ 会場全体に香が回るように展開したはずじゃない! あの香を焚けば、婚約破棄をカリュが言いだしても誰も反論する気にならないって!」


 ステラがまとわりついた影を振り払って叫ぶ。


 学園にいる間に出来た取り巻きは、どれも頭が弱く、香で感覚を狂わせてやれば、簡単に言いなりになった。

 中には親が夜会の支度を任されているような者もいるので、そう言った者たちに命じれば、ちょっとした雰囲気づくりとして、第一部の参加者だけに香を浴びせることも容易だった。


 だというのに、たった一人の乱入者が、とびっきりの舞台をぶち壊してくれた。

 レオナルド・グロッタ。

 若くして皇帝の補佐官の一員となった、期待の伯爵である。

 本来は皇帝と共に会場入りする予定が、お目付け役として先に入場すると聞いて、彼の控室にはより効果の高い術を込めたアーティファクトまで設置させていたというのに、全く効果がなかった。


  忌々しい異母義姉と違い、ただの人間であるはずのレオナルド・グロッタに、魔族の秘術で作られたという香が効かないはずがない。

 だというのに、あの男はステラたちの用意した舞台をぶち壊し、標的の義姉を連れて行ってしまった。


 義姉の絶望の顔を見るために香を浴びせなかったカリュエンは、愚かにもヴィオラとの婚約破棄がかなったことで満足し、ステラが彼らを追うことを止めた。

 皇帝に感づかれてはまずいと、簡単な魅了のみに留めておいたのが良くなかった。

 ステラは内心で舌打ちをしたが、表では精一杯、彼を持ち上げ、元婚約者にも寛容な男という彼の自認を保ってやった。


 しかし、そのせいでヴィオラを仕留め損ねたし、皇族の婚約者の地位も宙に浮いてしまったのだ。


 ステラは頭を掻きむしり、机の上の文具も薙ぎ払う。

 血走って髪もぼさぼさになった姿を見て、普段のステラと重ねられるものはいないだろう。


「マア次ノ策モアルカラ、心配スンナヨ」


 荒れ狂うステラの心境を気にもせず、影が笑う。

次回更新予定 3/25

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