表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だった。  作者: 京栞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/14

#2 兄が連れ込んだ女が悪役令嬢だったー2(レイチェル視点)

2話まで読んでいただきありがとうございます。

ここまで一旦プロローグです!

次話からは視点変更も少しずつ挟みます

 兄が、あの令嬢を家に連れて帰ってきた。なんてことだ。

 頭の中で懸命に考えを巡らせながら、ジュリアンに尋ねる。


「お兄様たちは今どちらに?」

「とりあえず応接室でご令嬢のお話を聞くことになったようです。リドニクス様は少しパニック状態でもあるようでしたから」

「……そう、ですか。ジュリアン」


 うん、決まった。私の取るべき行動。


「はい?」

「私も応接室に向かいます。それでは!」

「え、ま、待ってくださいお嬢様⁉」


 私は驚くジュリアンを置いて、全速力で(幼い令嬢の全速力なんて、たかが知れているけれど)2回中央の応接室へ急ぐ。


 ヴィオラ・リドニクス公爵令嬢。帝国に五つある公爵家のうち、最も古く、格式高いと言われていた、リドニクス公爵家の長女で、王太子の婚約者。


 肩書だけを見れば、国内の未婚令嬢の中では最高の令嬢に違いないが、世間からの評価はとても低い。


 曰く、聖魔法が使える異母妹を虐めている。

 曰く、皇子の婚約者でありながら、我儘放題で、既に来年前期の王宮予算は使い果たしている。

 曰く、皇子以外の男性にも色目を使い、常に男を侍らせている。


 小説になぞらえてついた呼び名が、悪役令嬢。

 天下の公爵家がその呼び名を知らないはずもなく、それでも噂を消し切れずに広まっていることを考えると、相当手を焼いているのだろう。


 その悪役令嬢が、今、この屋敷にいるのだ。もしも噂通りの悪役令嬢なら、この状況はかなりまずい。伯爵位しかない我が家に、身分の高い令嬢が無茶を言ったとしたら、こちらから拒否することは難しい。

 ましてや、婚約破棄の八つ当たりで無礼を働かれた、とか、いやらしいことをされそうになった、とか、万が一にも訴えられたら、役職、地位剝奪も十分あり得る。


 「お兄様! ご無事ですか‼」


 効果音を付けるなら、まさしくバアアアン!という表現が似合うだろう勢いで、扉を開いて叫ぶ。


 しかし、室内のソファに座る人はいない。ゆっくりと視線を下にずらすと、夜会用のドレスを着た綺麗な女性を、押し倒す形で床に倒れている、黒い髪に私と同じ蒼い瞳の男性。つまり私のお兄様と目が合う。


「……」


 咄嗟に頭の理解が追い付かず、一歩、二歩とよろめくように後ずさってしまう。


「お、お兄、様」

「れ、レイチェル、違うんだ、これは……」


 狼狽える兄の姿はどこからどう見ても現行犯の挙動だ。これは有罪。


「お、お兄様が一線を越えましたわ‼」


 思わずわっと叫んで、みるみる目から涙があふれてくる。ぼろ泣きだ。令嬢として、はしたないことだと分かっていても、子どもの体は簡単に泣き止めれるような作りではない。

 私が心配したのは言いがかりであって、事実お兄様が女性の方を襲うような状況じゃない。というか事実なら言い逃れできないし、そもそもそんなのは人間の屑だ。


「す、すみません! ヴィオラ嬢。お怪我はありませんか?」

「えっ、え、ええ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます、グロッタ卿」


 我を取り戻し慌てて起き上がったお兄様が、ご令嬢を立ち上がらせている。


「すみません、若様! お嬢様をおさえきれず……ってどうしたんですかお嬢様⁉」


 遅れてやってきたジュリアンが、ぼろぼろと大粒の涙を溢して泣きじゃくる私を見て動揺する。


「じゅ、ジュリアン。じ、実は「ぐすっ、お、お兄様、がっ、ごっ、ご令嬢を、お、押し倒っ、じていだ、のでずっ! ごのままだとっ、伯爵家が潰されてしまいまず! どうじまじょうじゅりああん!」」

「わ、若様?……」

「誤解だ、レイチェル! 落ち着いてくれ! ジュリアンもそんな目で僕を見ないでくれ!」


 お兄様の弁解より先に、私の発言を聞いたジュリアンは、うわあと引いているような顔でお兄様を見つめる。お兄様はさらに慌てて弁解するので、態度が一層怪しく映る。私はまだ涙が止まらない。俯いて必死に涙を止めようと試みるも上手くいかない。


「れ、レイチェル、一旦泣き止んでおくれ。ちゃ、ちゃんと説明するから」

「信用できません! ケダモノお兄様ぁ!」

「け、ケダモノ⁉」


 黒だ。有罪だ。圧倒的ギルティ―だ!


 頭では私だって、とりあえずお兄様の話を聞かなきゃいけないのは分かっているけれど。心が拒否して涙が止まらないのだ。


「ううっ、ぐすっ、うぐっっ……」

「お嬢さん」

「え?」


 そっと誰かが手を握ってきたので、私はびっくりして思わず涙が止まる。

 知らないその手は、雪のように白く、しかし、真相の令嬢にしてはどこか違和感を感じる手だった。そっと顔を上げると手の主、茶色い髪にピンクゴールドの瞳をした令嬢と目が合う。


「大丈夫よ。あなたのお兄様は私がよろけたところを支えようとしてくださっただけだから。驚いた私がとっさに手を払って二人とも倒れ込んでしまっただけであなたのお兄様は何も悪くないわ」


 噂の悪役令嬢とは全く一致しない、柔らかい笑みと優しい声にまた驚きを覚えながら、呼吸を整える。

 後ろでは狼狽えていたお兄様とジュリアンも少しだけ落ち着きを取り戻している。


「……もう平気そうね。突然失礼しました。ヴィオラ・リドニクスと申します。いきなりの訪問になってしまってごめんなさい」


 落ち着いたことを確認して女性は、すっと私から手を離すと綺麗な淑女の礼をする。

 私もいまさらながら慌てて淑女の礼を返し名乗って非礼を浴びた。


「レオナルド・グロッタの妹、レイチェル・グロッタと申します。私の方こそご挨拶が遅れたこと、お詫び申し上げます。……あの、その、突然、部屋に来てしまって申し訳ありませんでした。令嬢としてもホストの側としても、公爵令嬢に対して、大変失礼な行為でした……」

「ヴィオラ嬢、僕からもお詫び申し上げます。どうか妹のご無礼を容赦いただけませんでしょうか」


 一旦冷静になると、先ほどまでの自分のやらかしがとんでもないことに気づかされる。

 お兄様ではなく、むしろ私が早とちりしてやらかすだなんて。しかも、お兄様にもフォローさせるという大失態だ。

 しかし、この公爵令嬢の言動はあまりにも市井の悪役令嬢と一致しない。


「いえ、そこまで謝る必要はございません。私のことはお気になさらず。私の評判があまり良くないということは存じていますから。お兄様のご心配をなさったのでしょう? 素晴らしい兄妹愛ではございませんか」


 今だって、謙虚に許すだけでなくフォローまでしてくれている。これほど優しい令嬢が悪役令嬢と呼ばれるとはどうも思えない。


「ありがとうございます、リドニクス様」

「……よろしければ、グロッタ嬢も私のことはヴィオラと、名前で呼んでいただけませんか。私もレイチェル嬢とお呼びしたいので」


 まるで断られるかもしれないと思っているかのように、恐る恐る名前呼びを申し出てくださる姿は、悪役ではなくヒロインのそれだろう。

 この時点で私の中の彼女に対する警戒心は見事に消え失せていた。


「もちろんですヴィオラ様! 私のことはむしろレイチェルと呼び捨てでも構いません!」

「……流石に呼び捨ては恥ずかしいので……レイチェルちゃん、とお呼びしますね」


 少し恥ずかしそうに顔を赤らめて言ったヴィオラ様に見惚れて、私はひそかに決意した。


 この人を、私の義姉にしてみせる、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ